記憶の中の風景(36)
走ったことのない10kmという距離はとても長かった。まだ終わらないのか、ゴールはまだか。ボクは懸命に走った。
倉庫街が終わり山下橋を渡る。後半のアップダウンはとても辛い。がんばれー!がんばれー!とランナーに必死に声援を送る人たちがいる。知り合いか身内の応援に来た人たちだろう。ボクはその人たちの前を通過する。
山下公園が見えた。交差点を右折すると前方にゴールがある。驚くほど多くの人たちがコースの両側から応援している。ゴールが近づくと声援が一層大きくなる。
このとき見知らぬ人がボクに手を振り、がんばれー!と叫んだ。ボクは見知らぬ人に応援されていることに気づいた。
ラストスパートする多くのランナーに追い抜かれたがボクもなんとかゴールできた。生まれて初めて歩かず10km走れたことに我ながら驚き、大きな達成感を感じていた。それと同時に見知らぬ人から応援されたことに感激していた。
ゴールしたランナーは仲間とハイタッチする人もいれば、しゃがみ込み倒れる人もいる。人それぞれのゴールを味わい心地よい時間を過ごしている。
ボクは水を飲み息を整えながらその風景をカメラ付き携帯電話で撮影した。ボクはこのときマラソン大会が好きになった。
つづく