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「見る将」が今貴方の沼になり得る理由

 藤井四冠旋風で世は空前の将棋ブーム。しかし他に楽しいことが沢山ある当代、そのとっつきにくさ・地味さ(すみません)故に実際に将棋を観戦する所まで至らない方も多いのではと思う。
 ということで所謂「見る将」歴1年の私から、僭越ながら将棋観戦についてプレゼンをさせてほしい。特に人生で一度「自分はオタク気質であるようだ」と思ったことがある方、ここに沼があります。

「見る将」沼ポイント

<沼ポイント1>将棋のルールに不慣れでも意外と楽しめる

 「見る将」はその名の通り将棋観戦を趣味とする人のことである。将棋を始めるハードルは「駒の動きが覚えられない」「戦型って何」等数多いが、「見る将」なら心配いらない。将棋の対局はスローなことが多いので、解説がとても丁寧に入るからだ。私も「飛車は前後左右にめっちゃ進む」「敵陣に駒が入ると裏返って何か強くなる」レベルの理解で見始めたが、普通に楽しめた(勿論指せるようになるともっと楽しい)。
 つまり詳しいルール・自分の技能とは関わりなく、対局者二人が作る将棋の流れの美しさ、名人芸(どう名人芸かは解説の方が存分に語ってくれる)、バックグラウンドを堪能できるのが「見る将」だ。スポーツ観戦と音楽鑑賞の融合と言ってもいいかもしれない。楽譜を美しいと感じたことがある方なら、分かって貰える感覚だと思う。見る将の増加に伴い、最近は初心者を意識した解説をしてくれるイベントも増えた。沼は深く、間口は広いのだ。
 ちなみに私は未だに二手先三手先の話をされるとチベットスナギツネの顔になってtwitter見始めます。そんなもんです。

<沼ポイント2>キャラ属性が幅広い

 ギャル男以外の男性は全て揃っていると断言する。とりわけおじさん勢の層は手厚く、おじさま・おっさん・未来のおじさんと全方位貴方の好みをカバーする自信がある。
 キャラ立ちも抜かりなく、初タイトルが将棋ではなく麻雀だった棋士、招かれた結婚式の席で詰将棋(将棋の計算ドリル)を解いていた、金髪チンピラと金融ヤクザの対局(解説がチャイニーズマフィア)、ZONEの解散ライブに行きたくて1手1分以内で指して勝った(公式戦史上3人目)、勝手に裸踊りをしてしかも勃起していた大御所(故人)、等々「この人たち将棋上手くなかったら何して生きてたんだろう」ネタに事欠かない。こういう人達をみんなたちが大好きなのはよく知っている。

<沼ポイント3>プレイスタイルも幅広い

 将棋は、個人のプレイスタイル(棋風)がはっきり出る。プロ棋士ともなると正統派、研究者、芸術家、博打、泥試合等、個人の棋風が確立されているので、属性から推しが見つけやすい。それで推しが勝つかどうかは別問題なのだが……。

<沼ポイント4>ストーリー性が高い

 師弟・兄弟弟子間の人間関係、プロ入りの厳しさ(年齢と才能と勝率のせめぎ合い)、順位戦昇格降格の悲喜こもごも、タイトル挑戦・防衛の昂り、そして世代交代。
 どの局面を拾っても映画(少なくとも薄い本)ができる位、勝負の世界はドラマティックだ。棋士の数だけドラマがあり、「もし〇〇が××だったら」分岐が大好きなオタクの心をくすぐってくる。

<沼ポイント5>供給が安定的かつ安価

 将棋の対局には大きく分けて順位戦、タイトル戦、その他イベントがあり、ほぼ毎日何かしらの対局をやっており、一人の棋士につき体感で少なくとも2週間に1度は対局が入る上、解説に思いがけず推し棋士が出てくる等の突発イベントも発生する。
 公開対局等ライブも多いが、オールスター的なイベントでも5,000円位で行けるし、チケット争奪戦も日頃友人総動員でぴあのサイトをリロードしている精鋭達から見れば遥かに楽だ。と見せかけて、ふるさと納税に設定された名人の指導対局(300万円)にポンと寄付が入るのが将棋ファンの怖い所でもある。

<非沼ポイント>対局時間が長い

 これに尽きる。サラリーマンが9-17時+残業であくせく働いている中、彼らは2日制だと朝から夜中までやって30手しか指さなかったりする。
 対局中に指すターンの棋士が散歩に出たりすると、対局者と立会人がどこかの旅館の座敷で待ちぼうけすることになり、無風の光景が続く(この間の場繋ぎは解説者の腕の見せ所で、本日の棋士のおやつから本人の最近あった出来事まで、もはや肉声SNSかな?と思う話が繰り広げられる)。
 ということで「これから将棋でも見てみるか」という方にお勧めなのは、所謂早指し、週末に安定供給してくれるNHK杯、オールスター大感謝祭ともいえるJT杯、そしてABEMA将棋チャンネルだ。後から心行くまで宣伝させてほしい。

「もしかして…沼?」と思った貴方にお勧めしたい棋士

 何となく「見る将」になりそうな気がする、しかし好きになるからには推しが欲しい、でも藤井四冠、羽生九段に今ハマるのはおこがましい…と思っている貴方に、同じ気持ちで観戦し始めた私からお勧めの棋士を紹介する。いずれもトップレベルの実力を持ちながら、個性豊かな人達ばかりだ。(※写真の引用元は画像から)

1.佐藤康光九段

社長にして紳士にして現役ファンタジスタ

  日本将棋盟会長でありながら、順位戦A級で戦い続けるレジェンド。日本サッカー協会の会長がJ1で普通にプレーしているか、ホストクラブのオーナーがフロアでガチのナンバー争いしていると思って下さい。
 見ての通りのロマンスグレー、対局にペリエ持参、ヴァイオリンの名手、「好みのタイプは妻」発言から紳士的で正統派な棋風を想像しますが、プレイスタイルは創造的かつ剛腕。攻め駒を別の駒で守りながら進めていくのが当たり前の将棋で、銀(わりと良い駒)を単騎で突っ込ませたりします。見た目賢者のキャラが、ひのきの丸太を振り回して無双している図を想像して下さい。ぐっときますね。

2.木村一基九段

王位獲得時の「(家族への思いは)……家に帰ってから伝えたいと思います」は洗面器必須

 人呼んで「将棋の強いおじさん」(※元タイトル保持者)。解説に入れば軽妙なぼやきと気の抜けた毒舌を連発し、楽屋では素敵上司力を発揮しまくる「養子縁組届渡したい棋士No.1(個人調べ)」。
 「千駄ヶ谷の受け師」の異名を持つ、守りで名うての棋士ですが、王将を守りの前線に投入する「顔面受け」をも辞さない大胆さ、一瞬の隙をついて反撃に転じる時の鋭さなど、防戦という言葉とは程遠いタフな棋風が魅力的。昨年は48歳にして王座の挑戦権を奪取する等、まさに百折不撓。単なる「受ける」ではなく「受け潰す」とも称されるタフな将棋を、家族思いのおじさんが指してるなんて素敵じゃないですか?

3.久保利明九段 

はい、推しです(臆面もない)

 二つ名は「捌きのアーティスト」。「捌き」とは盤上で遊んでいる駒を攻めに活用する等、駒の稼働率を上げることを指すのですが、彼の将棋は「ここでこの駒が活きるのか……」と伏線回収が鮮やかな小説を読んでいる気持ちにさせてくれる。軽やかな棋風とは対照的に、「粘りのダンディズム」と称される泥臭い将棋も得意としていて、圧倒的に優勢だった相手を終盤で毒沼に落として狂わせたりします、嗚呼セクスィー。
 時々遅刻したり場所を間違えたりするものの、twitterの阪神タイガース関連のリツイートは異様に早い。あと順位戦(J1J2のようなイメージ)と相性が悪く、特に今期振り飛車党(彼と似た戦型を好む人々)をやきもきさせていますが、本人は前掲の通り至ってダンディーです。

4.山崎隆之八段

「(この一手を読み違えたら、女流棋士の)〇〇さんを諦めます!」の人です

  序盤の脅威の独創性で知られる元祖西の王子。奥に守っておくのが当然の王将ノーガード戦法も、通常プロは手出ししないB級戦法も何でもござれ、対局情報の戦型欄は「その他の戦型」がデフォルトのトリックスターにしてA級棋士(ちょっと危ない)。番狂わせ多数、正統派の棋士にあっさりと負かされることも多数、とトリックスターの王道(矛盾)を行っている。
 本人は「将棋のことしか頭にない」と言われて師匠から内弟子関係を解消される、解説中にベルトを緩めている所を全国放送される、大一番のかかった緊張感溢れる他人の対局室に間違って入室(したのを記者に速攻でツイートされる)等、関西若手棋士に愛される持ってる男。チャームポイントは考慮中に頬に出現するたこやき。

5.佐々木勇気七段

電光石火の将棋、ピカチュウの中身

  ジュネーブ生まれパリ経由、積極的な攻めの棋風、若干20代前半で卓越した戦型の考案に与えられる升田幸三賞を受賞、藤井聡太のプロデビュー以来の連勝を止めた男、そして将棋に集中するために連勝阻止後の全ての取材を断った男…等プロフィールが既にイケメン、果たしてご尊顔も甘いマスクの佐々木七段。今期は藤井四冠と並んでA級昇級(3年連続昇級)を狙える位置に付けており、若手トップ棋士街道を驀進中。
 さぞ王子様キャラなのかと思いきや、将棋会館からスキップで帰宅、力うどんが何か分からず餅をトッピング、「自分が投了する前にケーキを勧めたら食べてくれそう」な棋士に名前を挙げられる等、佐々木伝説とも呼ばれる天真爛漫さを見せつけてくれる。

6.伊藤匠四段

解説で兄弟子をしれっと煽ったりもします

 今期の棋界で勝率一位争いをしているのは、藤井四冠と同い年のこの棋士(勿論出場している対局は千差万別なのだが)。プロ入り最年少記録更新、新人王戦はストレート勝ち、先輩棋士を倒してタイトル戦決定リーグ進出等、まさに今年の新星。
 面倒な攻めを正面から粉砕し、力を蓄えた所で一気に大技を仕掛ける華やかな棋風、早指しでは主要な駒を当初位置から一切動かず勝ち切る等、「新人」という枠では括れない底知れない強さを感じる。知的でシャイな表情、ハスキーボイス、元無頼派の師匠からの愛あるイジり等、盤外もポテンシャルの塊なので、「若手が気になるが藤井四冠はちょっとメジャー過ぎて推しにくい…」とお思いの方にも全力でお勧めしたい。

沼の入り口はABEMA

 ここまで来て一度将棋というものを見てみようかと思った方にまずお勧めしたいのはABEMAの「ABEMAトーナメント」だ。お勧めしたい理由は①早指しなのでサクサク進む(超大事)②編集が入っていてテンポが良く、お洒落っぽくなっており見やすい(個人的に大事)③第3回以降は団体戦になっており楽屋の雰囲気や謎企画等の盤外コンテンツ等推しの供給が多い④録画しなくても好きな時間に観戦できる、である。

 壮観。中央は会長ですが出演していません。

 現在は師弟トーナメント(師弟でペアを組んだ団体戦)が進行中で、下馬評を覆し畠山八段(左から2番目)が無双したり、中田功八段(右端)のトークと将棋に期待が集まったり、多くの弟子が楽屋で師匠を心配しまくったりしている。
 将棋観戦が初めての方は、まず第4回ABEMAトーナメントのドラフト会議(3人1組の団体戦のチームメイトをリーダーがドラフト指名する形式。今回紹介した6人の棋士も出演)で人となりや人間関係を観察→推せそうなチームのチーム動画(山崎八段がバンジージャンプしたり虫を食べたりする)→推せそうな人の対局(視聴数の多いものがお勧め)の流れをお勧めします。
 まずは2週間無料(その後960円/月)なのですることがない休みの日にでもログインしてしてみてはいかがでしょうか。合わなくてもコンテンツの豊富なABEMAの別のチャンネルを2週間エンジョイできます。私はMリーグ(麻雀団体戦)にハマりました。

今が旬の「見る将」。私はその沼の浅瀬から、皆様を引き摺り込むべく両腕を筋トレしながら心よりお待ちしております。

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