古賀コン4偏向的一言感想集
はじめに
古賀コン4の作品を一通り読みました。その中でも個人的に印象に残った作品について、一言ずつ感想を書いてみました。「いや、それ一言じゃないだろ」という感想もあるかもしれませんが、それゆえの〝偏向的〟一言感想集です。
基本方針として、ポジティブな感想を書くことを心がけました。古賀コンのコンセプトは文化祭なので、いかに楽しめたかを述べることにしています。ファイトは別の機会に……ということでお願いします。
感想や評を書くのがあまり得意ではないので——というか苦手なので——、多くは期待しないでください。
1.非常口ドット「無限ループ」
記憶のありかについて考えさせられますね。個人的には、祖母の介護の記憶が呼び覚まされて、特養が持つ独特の弛緩あるいは停滞した雰囲気を思い出しました。
2. 大江信「最初から最期まで断言はできない」
ちょっとわけがわからない。ただ、カフカの作品に体して抱く感想は「ちょっとわけがわからない」なので、正しい受け取りかたのかな、と思います。得体が知れないものは、その〝得体の知れなさ〟こそが存在の本質なのではないのでしょうか。
6. 松原凛「ずっと成人式でいい」
コメディタッチのショートショートと思いきや、最後にゾクッとさせられました。くるくる回るループの構造が、女の子を取っ替え引っ替えする小手川くんの動きと連動していて軽快に読めました。
17. 赤木青緑「はて」
読んでいるうちに色々な色が脳裏に浮かんできて、目がチカチカしてきました。文章でここまで色彩感覚に訴えかけてくるってすごいなあ、というのが素直な感想です。最後「はて」で途方に暮れてしまうところがその色を確定させない作りになっていて、テーマとリンクしていたと思います。
18. こい瀬伊音「ある藤原家の食卓」
すげー不快な会話が繰り広げられているのですが、その不快の中に思わず笑わせられる「快」が仕込まれていました。さて、テーマをどう扱うのかな、と読んでいたらそういうオチかと……最後で見事に回収していましたね。
24. 柚木ハッカ「暴走秘書」
すごく読ませるな、と思いました。加速する暴走劇を他人事として見ていた主人公へ「これは他人事じゃないよ」とブーメランのように返ってくるオチも効いていました。
29. 久乙矢「月とボトルメッセージ」
「記憶にございません」を話の構造に組み込むやりかたでは、最も成功しているのではないかと思いました。情報の欠落を主観である僕の記憶の欠落と上手くリンクさせていて、全容のつかめなさに楽しく戸惑いました。
34. 柊木葵「記憶にございません」
読んでいるうちに予感があって、それが的中してしまうことを恐れながら読んでいました。忘れたいこと、それでも忘れてはいけないこと。しかし、真相を知らなかった友だけには口をつぐむしかないこと。それゆえの記憶にございません。同じ言葉でも、重みが違います。
35. 小林猫太「サイコレイダー」
パロディのネタがいまいちわかっていない読者なのですが、そんな不心得者でも面白おかしく読める作品でした。そもそも文章が面白いのです。どうやったら「現実がドトールなら、そこはスターバックスなのだ。」といった文章を流れるように叩きつけられるのでしょう。
38. ユイニコール七里「キヨスク」
リズムがすごく良くて、流れるように読ませられました。言葉運びは落語を思わせる部分があって、レイアウトはノベルゲームを意識したかのような読みやすさがあります。ラストは糸を手繰っていくような思いで、画面をスクロールしていました。
39. 栗山心「Bar 記憶」
夢の中だけで行けるお店ってありますよね。あの感覚に近いです。最初にすごく細かいディテールを描写しておいて、最後にそれが曖昧になって出てこなくなってしまう、という対比構造も綺麗に決まっていたと思います。
40. 津早原晶子「花の子ども」
朗読で聞いてみたいですね。花を食べる下りから、特にアネモネから加速度的にトランス状態に入っていく様が伝わってきました。しかしただの暴走超特急なのではなく、終わりはしめやかに、得も言われない美しさがありました。
43. 佐藤相平「潰す」
冒頭の映像的なアプローチに一気に引き込まれました。その後の授業風景、担任の説教と興ざめするような事態の収拾に油断していると、最後の一文に脇腹を刺されます。そんな鮮烈な印象を残す作品でした。
45. 群青すい「無限のかたち」
詩歌としてすごく好きです。「ではここから。はじめまして」の転換で、語るものであった光が語らぬものになり、私は言葉の軛から解き放たれる。そう感じ取りました。
48. 山崎朝日「一日午前零時の誓いと監視者の眼」
些細なこと、日々のちょっとしたこと、記憶ってそれらの積み重なりだと思うのです。その中に自分にとって大切なことも含まれていて、でも意識し続けなければならない記憶が多すぎて、手放したくなかったものを手放してしまう。けれども、その思い出せない記憶は本当に思い出したい記憶だったのだろうか。そんなビターなど読後感があります。
53. サクラクロニクル「寂しさの理由、海の底」
いまにもばらばらになってしまいそうな脆さを感じるのに、強烈な引力があって読まずにはいられなくなってしまう。時間を置いてみると、なにかを見落とした気がして再読している自分がいる。まあ、探りながら書いているのがわかるのですが、存在の痕跡を必死にたどっていくような心地がして引き込まれます。時折挿入される詩的な言葉が印象的で、小見出しと合わせて効果的に使われていたと思います。一見、量に驚きますが小見出しごとにまとまっており、その上で全体をまとめ上げています。これを即興で、直観でやれてしまうのは、驚異的としか言いようがありません。
54. 日より「白忘」
タイトルに惹かれ、読み終えてからタイトルをもう一度見ました。淡々と紡がれる言葉がすっと入ってきて、心にこだまするようでした。その全てが白い忘却に消え去ってしまうのか、と思わされます。
55. はんぺんた「チョコレートケーキの思い出」
思い出のケーキと優しい記憶の取り合わせが織りなす、ほんのり甘いお話でした。郷愁をさりげなく描いて、いま見ている景色と重ね合わせるところか印象的です。
60. 只鳴どれみ「森の女」
「茂ってるの」で大爆笑。森の女の背景にもさぁっと茂みが見えました。これナンセンスコメディなのかなぁ、と思ってましたが、ラストでがらっと印象が変わりましたね。
62. 高遠みかみ「記憶喪失集」
秀逸。卓越した言葉選びのセンスに惹かれました。
65. 継橋「正しく」
1時間で書いているというドライブ感が強く伝わってきた作品でした。ひとつ文章を書いたら、それを受けて次の文章を書き、次、次、次、まくし立てていく饒舌体。ラストでこの分量を設問形式であっさり切り捨ててしまういさぎよさも感じました。
66. 入江匙「穴の底から」
とても不思議な読み味で〝わたし〟が人なのか機械なのか、はたまたそれらを超越した何かなのか、と思考が進んだところに最後の一文がすとんと心に落ちてきました。最後の一文、大事です。
67. 蒼桐大紀「ラブレターの裏側に」
応募時に冒頭473文字を消し飛ばしてしまったのですが、鋭い人には「なにかが欠けている」と見抜かれていました。それでも小説として成立する構成になっていたのは不幸中の幸いでしたが、この欠落により青葉→詩乃の巨大感情がわかりにくくなってしまったな、と思います。
書いている立場からするとオチがわかりきっているので、このスケールでこの展開はありがちかなぁ……火力(インパクトとも言う)が足りていないかなあ……というのが正直なところでした。
要するにあんまり自信がなかったのです。
ただ、書きたいことは全編に渡って書けているな、とも思える作品に仕上がりであり、読み返すと随所で自分の〝好き〟を叩きつけているのがわかります。欲を言えば、青葉の容姿を盛り込んだ上で、ラストにもうひとひねり入れておきたかったです(欲深い)。
なお、執筆BGMは「サークルゲーム」だったのですが、途中で雰囲気よりスピード感が欲しくなって『TWilight INSaniy』という同人STGのサウンドトラックを流していました。
終わりに
全体の三分の一くらいでしょうか。それでも結構時間がかかってしまいました。自分のために書き残しておく——感想を書くことで内省する——ことにしたのですが、書くことでひと区切りが付けられたように思います。
じつは最優秀古賀賞をいただいてから、慣れない感情を扱いかねていてなかなか気持ちが切り替えられずにいました。切り替えないと次の作品が書けないので、そうした意味では自分のためにはなったようです。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
また、古賀コンという場を設けて下さった古賀さんと、古賀コンという場を作り上げて下さった参加者の皆さんに、御礼を申し上げます。
ありがとうございました。
ご支援よろしくお願いします。