開催中止の演奏会から思い出す、記憶に深く刻まれたリサイタル
今週、ショッキングなニュースが飛び込んできました。
今月予定していた、エレーヌ・グリモーの来日公演がピアニストのコロナ感染で中止になったというお知らせでした。
秋というにはまだ早い気候ですが、今月から始まる秋の演奏会シーズン。いくつかの公演に出かける計画があり、その柿落としとして、公演に向けて徐々に気持ちを高めていた演奏会中止のニュースでした。
演奏会で予定されていた曲目は、
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 Op.109
ブラームス : 3つの間奏曲 Op.117
ブラームス : 7つの幻想曲集 Op.116
J.S.バッハ(ブゾーニ編曲): シャコンヌ
どの曲も楽しみではありましたが、中でもベートーヴェンのピアノソナタ30番、バッハ/ブゾーニのシャコンヌの演奏は生で聴きたかった。
彼女の無事な回復を祈りつつ、手元にあるグリモーのCDを聴きながら、またいつか来日公演で会える(聴くことができる)機会が訪れることを心待ちにしようと思います。きっとまた来てくれるでしょう。グリモーは若いので、高齢の音楽家のときに気になるような、この機会を逃して次があるだろうか、といった心配はいらない。
彼女は狼を飼育していることでもよく知られており、トップ写真に狼を選んでみました。
グリモーで私が一番好きなのは、ロベルト・シューマン、クララ・シューマン、ブラームスの選曲からなる、このアルバムです。
コロナでの演奏会中止というと、コロナ禍明け前の演奏会について、色々な経験をしたことが思い起こされる。開催されたリサイタルには記憶に残るものが多いです。
2020年はもちろんですが、2021年になっても海外からの音楽家の来日公演はほとんど開催されない時期が続いていました。
そのような中、2021年6月に来日してくれたイタリアのテノール歌手ヴィットリオ・グリゴーロのリサイタルは忘れられない。
情感豊かで真に迫る歌声に圧倒され、感動のあまりに足の先から頭のてっぺんまで、全身を鳥肌が駆け上ってくるという、初めての体験をした。芸術体験に飢えていた状況もそんな反応をもたすことにつながったのかもしれない。柔らかく伸びやかな声に包まれる幸せな時間を過ごした。
入国には長い隔離期間が必要だったことと思うが、それでもこの時期に日本まで来てくれて、素敵な歌を聴かせてくれてありがとうと感謝の気持ちでいっぱいになったことを覚えている。
全ての演目が終わってアンコールに入り、グリゴーロがお茶目な性格だということが分かる。初めて目にする姿、それはちょっとやりすぎではないですか?と感じるほどの3枚目的なキャラクターに、イメージ崩れてしまうからそこまでするのはちょっと、と思いつつもサービス精神旺盛な彼のリサイタルを最後まで満喫できた。手が痛くなるくらい拍手をした。
こちらは悲劇のオペラ、トスカでグリゴーロ演じるカヴァラドッシによるクライマックスのアリア「星は輝き」です。
もう1つ心に残る公演がある。2020年の年末の第九演奏会。
この年、クラシック音楽の演奏会は全滅となっていた。毎年年末に第九を聴きに行くことが何よりの楽しみの1つだった私もさすがに今年は第九を聴くチャンスはないのかもしれないな。それでも、なんとか開催にこぎつけてもらえたら嬉しいな、と期待を捨てずに秋から冬にかけての時期を過ごしていた。
するとなんと12月に入ってから開催決定の知らせが入り、チケットを取ることができた。このときは本当に嬉しくて万歳だった。
公演は読響でヴァイグレ指揮の第九。この公演がいつもと違ったのは、合唱の人数です。いつもなら100人ほどの合唱団がところ狭しと居並ぶところ、各パート10人いるかどうかという小さな合唱団だった。間隔を取り、散らばった配置なのでかなり少ない印象を受けました。
この人数でこれまでのような合唱が成り立つのだろうか?という驚きの気持ち、大丈夫だろうかと不安に感じる気持ちが交錯するなか、クライマックスに向けて第4楽章が始まっていく。
結果としては、この公演は大成功だった。合唱は小規模ではあったものの、迫力にかけるようなところは感じさせず、むしろこの人数だったからこそ得られたいつもと違う感動があり、聴衆のみなさんも同じように感じたようで、声楽陣への拍手がいつまでも長く続いていた。
大規模な合唱団による鼓膜を圧するような合唱よりも、むしろこのくらいの規模の方が合唱本来の味わい、ハーモニーを楽しむには適切なのではないかとも感じ、二度とはないだろう忘れられない演奏会の1つとなりました。
コロナによる演奏会中止の報にふれ、こうした過去のことを思い出しましたが、気持ちを切り替えて、またその次に計画している公演を楽しみにこれからを過ごしていきたい。
次はオペラを観に行く予定です!
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