遺言が無効になるのはどんな時?
■公正証書遺言が無効になる場合がある?
公正証書遺言は、他の遺言書と比べ、無効と判断されづらい性質がありますが、全く無効とならないわけではありません。
公正証書遺言が無効だと判断される理由として挙げられるのが「意思無能力無効」です。
意思無能力無効とは?
遺言作成時に、遺言者自身が認知症や精神障害など、健康上の問題で意思能力(遺言能力)がなければ、作成した遺言書は無効になると考えられています。
民法 第963条でも
「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」とあり、遺言書を作成する上で、遺言者の意思能力の有無はとても重要だと言えます。
■遺言能力を判定する3つの指標
過去の裁判例では、以下の3つの指標を元に、
裁判官が遺言能力の有無を判定していると考えられます。
①本人の病状
・認知症の程度(重度・中等度・軽度)
・本人に被害妄想や暴言があったか
・一人で買い物に行けるか、入浴ができるかなど
本人の病状、当時の看護日誌や介護日誌を元に、本人に意思能力があったかが判断されます。
②客観的、数値的指標
認知症の病状を数値で表すことによって、客観的な指標になります。
主な認知症の検査方法は以下の2種類です。
◎長谷川式認知症スケール
日本で最も有名なのは認知症の検査方法です。
精神科医の長谷川和夫医師によって開発されました。
◎MMSE
アメリカで開発された認知症の簡易検査方法です。
両検査方法とも被験者に対し、いくつかの質問を行い、30点満点で点数をつけます。
<認知症の疑いありだと判断される点数>
長谷川式認知症スケール…20点以下
MMSE…21点以下(26点以下で軽度認知障害)
両検査とも、見当識・記憶・計算・言語能力を確かめます。
MMSEでは、それに加えて、描画を通して図形能力も検査します。
③遺言書の内容/複雑性
例えば、長男が本人と数年~十数年にわたって同居、介護をしていた場合に、「長男に遺産を渡す。」という遺言が残されていれば、それは本人の意志であるという推察が働きます。
また、高度の情報処理能力を求められるような、複雑な内容の遺言よりも、上記のようなシンプルな内容の遺言の方が、本人の意志の存在を認められやすくなります。
(高齢で情報処理能力が低下していれば、あまり複雑な内容の遺言は作成できない、と考えられるためです。)
■客観的指標が実際に用いられた判例
公正証書遺言が無効と判断された判例の一つに、長谷川式認知症スケールの点数が用いられたケースがあります。
◎判例
平成18年3月3日に、東京の不動産を次男に、長野の不動産を長男に 相続させる旨の公正証書遺言が作成された。
相続発生後、長男が次男に対して遺言書の無効を主張し争った。
・同年9月29日に後見開始審判がなされていた
・平成17年当時の医師の診断書によれば、興奮・暴言・被害妄想の症状がみられ、財産の管理が困難である旨や、計算能力、理解力が極めて障害されている旨の記述がみられた
・長谷川式認知症スケールの点数が13点であった
上記のような前提事実を元に、遺言作成時には遺言能力がなかったと判断され、遺言書は無効になりました。
このように、対立している親族関係者や遺言書の存在を伝えていなかった相続人から、遺言者には意思能力がなかったとして、遺言無効を主張されるケースがあるため、遺言書の作成依頼を受けた専門家は、目の前の遺言書の作成業務だけでなく、将来の法務上のリスクを見据えた対策をとる必要があります。
特に、相続割合に偏りのある遺言書などは、相続発生後、無効主張される可能性があるため、しっかりした対策が必要です。
■どんな対策を取るべきか?
意思無能力無効が主張される可能性がある場合には、「遺言作成当時、遺言者自身に、遺言能力があった」と認めるに足る証拠をなるべく多く残しておくことが有効な対策となります。
具体的には、
・医師の診断書を取得し保管する。
・遺言作成や遺言書の文案作成の打ち合わせ場面を撮影・録画する。
・本人が日記をつける
などが考えられます。
こういった資料を残しておけば、無効主張された時に証拠として提出することができます。
遺言者は将来の安心のために遺言作成の依頼をします。
その安心に寄り添うために、作成した遺言が無効とならないように対策方法もしっかり理解しておきましょう!
次回は引き続き遺言をテーマとして、
【遺言書を作成する上で押さえておきたい考え方】について解説いたします!
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