家族信託契約上の「契約の趣旨および目的」の重要性とその定め方について
■事例の紹介
■第1条 (契約の趣旨)
委託者 ○○○○(以下「当初委託者」という。)は受託者●●●●(以下「当初受託者」という。)に対して、次条記載の信託の目的達成のために、当初受託者をして第3条記載の財産を信託財産として管理、運用及び処分させるために信託し、当初受託者はこれを引き受けた(以下「本契約」といい、これによる信託を「本信託」ともいう。)。
《第1条(契約の趣旨)の解説》
ポイント①:信託契約の性質を有するものであることを明確にする
家族信託は委任契約や請負契約と間違えられてしまう可能性を防ぐため、
民法上の契約よりも明確に契約の趣旨を記載しておくことが重要です。
ポイント②:契約の性質は契約の全体(全契約条項及びその実体)に照らして判断される
信託契約書であると記載がされていても、
最終的に判断するのは裁判所です。
信託の実態を伴っていない場合には、信託契約と見せかけたとしても、
事後的に「贈与契約」と評価されてしまう可能性もあります。
ポイント③:委託者、受託者ともに、その地位の承継や任務の終了と後任の選任がありうるため「当初」という表記を用いる
委託者の承継はもちろんのこと、場合によっては受託者が委託者より先に亡くなってしまうケースも考えられます。
この際、受託者は変更となり、「後継受託者」と呼ばれる後任の受託者をが登場します。(後継受託者に関しては、別の条項で記載されます。)最初の受託者が誰であるのかを特定するために「当初受託者」と記載をします。
■第二条 (本信託の目的)
受託者は第一受益者に対し、同人の健康で文化的な生活を送るために必要な財産的給付を行い、同人の健康状態の悪化、判断能力の低下の後においてもその生活を終身の間支援すること及び第二受益者へ円滑に財産の承継をすることを目的として、本信託における信託財産(以下、本信託財産という。)の管理、運用及び処分その他必要な行為を行う。
この条文は契約書作成において非常に重要です。
その根拠を関連条文から確認します。
法第二条(定義)
1 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理または処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
※特定の者=受託者
この要件を充足していない場合、契約が成立していない扱いとなるため、
信託契約を証明するためには、信託の目的を記載することが100%必要となります。
《第2条の解説》
ポイント①:信託の目的はある程度の幅を持たせながら、実際の目的に合わせて柔軟に表現していく
例えば、最近増えている家族信託を活用した事業承継(自社株式の信託等)では、今回のような福祉的目的から外れているため、上記のような条文ではなく、【○○株式会社の事業の永続的な発展に資するため】などが考えられます。
ポイント②:本条のカッコ書きに規定のある「専ら受託者の利益を図る目的の信託」は、信託契約自体無効と解される恐れがある
関連条文内にある以下の文章にご注目ください。
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特定の者(=受託者)が一定の目的(専らその者(=受託者)の利益を図る目的を除く。(中略))に従い・・・
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つまり、受託者の利益を図る目的で組成された信託契約は無効であるということです。
◎例
・父が預金を8000万円所有しており、
信託を活用しないで息子に上手く相続する場合に考えられるスキーム
8000万円をそのまま所有してしまうと、
相続時に税金がかかってしまいます。
そこで、不動産を購入し、長男を無償で居住させることで、
事実上、暦年贈与ができる&相続税が減らせる(orかからない)仕組みとなっています。
・父が所有している金銭8000万円を長男に信託し、
信託金銭から長男(受託者)が不動産を購入した場合に考えられるスキーム
このケースだと、不動産を購入したのは長男ですが、
受益権を持っているのは父となります。
したがって、父が亡くなった段階で、信託受益権も相続税の課税対象となります。
また、この形において、
受託者である長男に当該不動産の無償使用を認める場合には、
それが「専ら受託者の利益を図る」状態となっていないか、その他にも、
利益相反関係への配慮が必要となります。
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