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デザインリサーチャーが考える、難解な文書を読解できるようになる4つのSTEP

はじめまして、トリニティで(本業としては)デザインリサーチャーをしている中森志穂です。
デザインリサーチというと、インタビューや行動観察がよく取り上げられていますが、実際のところはいろいろあり、製品やサービスを開発するために必要な情報を、いろいろな視点や方法で集めて、そこからその人本人も気が付いていないような意識や価値観を読み解いて、次のアクションにつなげるという仕事をしています。

他で書いた記事とか
トリニティには本体のブログ記事もあって
こんな記事を書いたりしています。

■デザインリサーチとは何か? /
「ビジネスに価値を創出する、”デザインリサーチ”活用ガイド」 第1回


■ビッグデータを補完するシックデータ:
 イノベーションの種を掴むエスノグラフィ


長い上に読みづらいと評判の記事ですが、noteではもっと読みやすいものを書いていこうというのが努力目標です。

そのまえに、デザインリサーチャーの仕事…というより中森の仕事

上に「(本業としては)デザインリサーチャー」と書いたのですが、今の仕事は幅広くて、他の仕事もたくさんやっています。

列挙するとこんな感じです。
・デザインリサーチ(定性、定量)
・デザインワークショップ
・デザインスクール(DXDキャンプ)の企画・運用
・トピックス(クリエイティブ組織の異業種交流勉強会)の企画・運用
・広報戦略立案・実行
・ビジョンデザイン 東京大学 学術専門職員

もともとは、つくばでプロダクトデザインの専攻にいたのですが、
・筑波大学 デザイン専門学群でプロダクトデザインを学ぶ
・日本学術振興会 日本学術振興会特別研究員 で感性工学を研究
・科学技術起点のオープンイノベーションにデザイナーとして関わる
・電子部品・科学技術のプロモーション
・公的資金獲得のための申請書類の作成
なんかをやってきました。

バラバラに見えることもあるかなあと思うのですが、本人としては「現状を把握して(読み解いて)、必要な作戦を立てて、協力を得て、実行する」ということで、全部同じものの考え方のような気もしています。
つまり、ひとことでいうと「つなぎ」であって、サイエンス(理解すること)とエンジニアリング(創ること)の間に挟まる役割なんだなあと思っています。

わからないものをわかるようにするための読み方

科学技術関係の仕事に関わらせていただくことが多く、理系の文章を専門家以外にも「わかりやすい状態にする」というタスクが発生します。どんな科学技術も、開発者/研究者ひとりで大きな仕事に拡げていくことは難しく、たくさんの人々の協力ー例えば予算をもらったり、領域違いの仲間に協働してもらったり、地域の人々に実証実験に参加いただいたりーが必要です。そのために、協力いただきたい方々に理解を仰ぐことが重要になってきます。

それで、まあまあなポンチ絵と一般向けの文章の描けるなかもりが招集されるのですが、エネルギーとか、肝細胞とか、電子とか、脳科学とか、いろいろな領域に節操なく参加するので、専門性がないはずなのにがなぜわかるの?と言われます(実際はわかっていません)。
時々答えているのですが、これまでイマイチ伝わった手ごたえがなく、いい機会なので整理してみようと思います。

難解な文書を読解する4つのSTEP

実際に、ややこしい文書を渡されて、わかりやすくしてほしい、と頼まれたときの例をもとに4つのSTEPで解説します。(なお、ここでいうややこしい文書とは、論文や、申請書、技術者研究者向けのテクニカルな文書などを指します。)

Step1:内部辞書と外部辞書で、意味のつながりを整理する

言葉を理解するときに、辞書を引くのは一般的なことですが、わたしは辞書を内部辞書と外部辞書という考え方で二つに分けて捉えています。

内部辞書と外部辞書

外部辞書は、その文書の外にある「言葉と意味のつながり」のDBです。言葉の意味を定義したもので、いわゆる辞典・辞書にとどまらず、論文やインターネット上の文書なども含め外部にある資料が該当します。これは一般的な通念を調べるものです。

それに対して、内部辞書は、その文書の中にある「言葉と意味のつながり」から創るDBです。
たとえば、文書の中に

AはBと定義する。A(以下Cと略する)。AはDをEすることにより生じる。

というとき、
A=B=C  であることがわかります。(これは表記ゆれとも言えます。)
そして、
A=DをEすると生じるもの(概念)であることもわかります。
これらが意味のつながりとして文書内部から引っ張り出せます。
これらの表現はまとまって記載されている場合は読みやすいですが、たいていの場合バラバラにそして唐突に文書全体に張り巡らされています。
これらを丁寧に収集して、一つの言葉の意味をそれ単品で理解するのではなく、言葉と言葉の間にある関係を理解します。特に大切なことは、一般用語に見える表記であっても、一般用語と意味が異なる可能性があることを念頭に読みすすめることです。
例えば、「興奮」という言葉は、一般的にはエッチな意味やサンドウィッチマン氏の文脈でつかわれることが多いですが、生理学では単に神経が活発な状態を指します。これをエッチな話だと思いながら読むと先入観が邪魔して本来の意味が全く読み取れなくなってしまいます。これはわかりやすいですが、漢字で書かれた言葉などなんとなくのイメージで読み取ってしまう場合もあるので、注意が必要です。
この時点で、内部辞書に混乱がある場合(たとえば、A=B、B=C といいながらA≒Cという表記が見つかった場合)は、書かれた表現が間違っている場合があるので書いた人(生きている場合)に間違いではないかを確認します。
このようにして内部辞書を表としてまとめていきます。

内部辞書と外部辞書はどちらを先にということもなく両方を同時に使い、わたらない単語を減らしていきます。しかし、最終的に意味の読み取りにおいては内部辞書が優先される方が望ましいと思っています(一方で、外部に発信する際には外部辞書に準じないと伝わりません)。書いた人の言いたいことはその人の創った意味体系の発出であるところの文書の中から読み取るべきだと思います。古い言葉でいうところの「読書百遍」です。

Step2:バラして再構成し、因果などの関係を構造化する(KJ法)

ひとつひとつの言葉や文章の意味のわからないところがなくなったら、大枠を理解するための構造化を始めます。大枠を理解するためには、詳細な情報がたくさん並ぶとじぶんが混乱してしまうので、文章をブロックに分け、配置しなおします。この時に、元のブロックにとらわれずにブロックの中身自体も再構築します。その際にブロックごとにわかりやすい見出しをつけると全体が把握しやすくなります。
このようにして配置しなおすと、元の文章より、さらにわかりやすい明快な構造になることがあります。(ほとんどKJ法です)

Step3:わからないことを質問文にする

ここまでやってもわからないことはもちろんあります。
そこで、わからなかったこと、確認したいことを、質問する文章を創ります。この時には、単なる「これって何ですか?」というような質問ではなく、
「aaaではbbbとなっているが、ここではcccとなっている、
 ddddという理由から、ここはeeeeではないかと思うが、
 どう考えているか?」
のように、質問に至る前提と根拠、理解できない理由を書くのが大切です。
たとえば、「ddddという理由から、ここはeeeeではないかと思う」と書き出してみることで、自分がそう思い込んでいる理由が客観視でき、先入観を排除することができるのです。
これをやることで、疑問が整理され、自己解決することも多いです。

Step4:わかっていないということを自覚し、成果物で確認を行う

ここまでのステップを踏むと、よほどのものではない限り、文章が読めます。ただし注意すべきは、その文章が作られるまでに至った膨大な背景は理解できていないということです。この意識を持ちながら、それでも少しでも違和感のある所、不思議に思うことは、最終成果物を見せながら確認し、チェックを受け、修正します。

わからないものを読み解き、とらえるーひとや文化を理解するデザインリサーチとの共通点

ここまで、わからない文章を読む方法として書いてきましたが、これは実はデザインリサーチと同じ態度であることに気が付きました。
デザインリサーチとはおおざっぱには「まだ知られていない/理解されていないことを把握し、未来に活かす」ためのものだと考えています。

明確に書かれることは少ないですが、デザインリサーチの態度は、『野生の思考』でレヴィ=ストロースがひろげた思想に準拠していると思われます。
ストロースは当時、「未開」とされた地域で暮す人々の行動や文化を観察し、西欧諸国が見下していた行動が実に緻密に構築される論理で成り立っており、科学的根拠をもってその意義が説明可能であることを例示しました。

すなわち、

  • 人々の理解できない行動の中には、その人たちが長年かけて構築した緻密な体系や因果関係がある

  • これらは既存の物差し(先入観)をもっては推し量ることはできず、徹底的に相手のもつ構造の中に入り込むことで見えてくる

ということだと理解しています。

デザインリサーチは、まだ知らない行動や文化を、外部が理解しようとする営みです。例えば「Z世代」「高齢者」「海外の人々」「何かに困っている人」など、自分が経験したこととは全く別の経験を持った人々がその人の内部に持っている意味や因果のつながりを、別の立場の人が見える形にして引き出すことであるとも言えます。
これは、知らない意味の塊である難解な文書を読むことと同じことだと感じます。
1)外部にある意味で相手を切り取るのではなく、
  相手の中にすでにある意味のつながりをとらえること
2)そのために先入観をなくし、背景にある膨大な事象に敬意を払うこと
もしかしたらリサーチはすべてそうなのかもしれませんが、特に人の関わることが多いこの仕事では特に大事な態度ではないかと思います。

これからは、モノづくりやサービスの対象にならなかった人々や事象ー「周縁」とされてきたーに目を向けることが社会にとってにとても大切になってくる予感がしています。こういう時こそ、やはりリサーチに基づいてアクションをすることが必須と感じています。

わたしの職業

昔、短歌や小説や演劇で活躍した寺山修司が「本業は?」と問われると「寺山修司です」と答えていたのがかっこよかったので、わたしも職業はそういう風に答えたいと思っていました。
何か「職業」というものや「役割」というものがあると、それにとらわれすぎる気もします。

わからないことをよく見て、わかるようにして、みんながアクションを起こせるようにする。それが私の仕事だと思っていますし、実際デザインリサーチャーの活動領域だと考えています(よく働くのでおしごとおまちしています)。

文責:中森志穂

トリニティ株式会社 デザインリサーチャー
東京大学 学術専門職員 ビジョンデザイナー

筑波大学大学院 人間総合科学感性認知脳科学専攻 博士課程 単位取得満期退学(2011年)。
筑波大学在学中に日本学術振興会特別研究員として採用され、感性工学をデザインの側面から研究。その後グローバル電子機器メーカーにて技術プロモーション全般を担当しつつ、任意団体にてオープンイノベーションによる新規事業、ソーシャルデザインに関わる。デザイナーとしても活動し、キッズデザイン賞ほか受賞。現職では、デザインリサーチ、企画設計およびプロモーション全般を担当。
次の“移動”を創る「人・技術・知恵をつなげる」研究会KITEや、DXDキャンプ(高度デザインDX人材になるための実践プログラム)など学びの場づくりにも取り組んでいる。


https://trinitydesign.jp/?=note


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