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必要なのは人事部ではなく人事機能~機能を備える観点から、人事業務のフォーメーションを考える

”実務協業型”人事制度構築・導入支援を行う株式会社Trigger 代表の安松です。

今年も残すところあと僅かとなり、1月や4月から新年度を迎える会社の人事部の皆さんは、人事評価や賞与支給、あるいは来期の組織体制の検討・取りまとめや予算編成などなど、ますますご多忙を極めていらっしゃるのではないかと思います。規模の大小、程度の差こそあれ、人事に求められることは非常に広範で、ステークホルダーが非常に多いのも仕事の特徴です。

人事に求められることは多い

そもそも人事の業務は多様です。人材採用→教育→配置→評価→報酬→退職..etc、人材マネジメントにはこのような一連の流れがあり、それぞれのプロセスに業務があります。業務ごとの性質や必要な知識・専門性はかなり異なり、それぞれ領域が分化されています。そして、それゆえに、同じ「人事の仕事」であっても、各業務を担う人事パーソンに求められる職能はずいぶんと異なり、担い手の人物要件が異なることが特徴的です。

例えば、組織活性化などでの施策アイデアづくりや対人コミュニケーションの中から物事を創発していくような仕事(やや青臭い要素がある業務)と、人事評価運用や報酬決定などの緻密で厳格な思考や作業が求められる仕事(やや血生臭い要素がある業務)とでは、フィットする人材のタイプ・特性からして異なるでしょう。このような異なる両者を担う人事パーソンが、互いになかなか相いれることできず、人事部内の連携がうまく図られない、分かり合えない場面にも多々直面してきました。(もちろん、これら異なる職能と人物要件を兼ね備えて、非常に広範に活躍されている人事の方がいらっしゃることも知っています。)

その意味で、人事機能の中での適材適所は、強い人事組織作りに欠かせません。

人事に期待される役割はさらに重要に

また、近年ではその役割はさらに増え、会社組織における重要性は間違いなく増しています。従来の「人材管理」「労務管理」の役割から、「経営・事業戦略を実現する人材マネジメント」への進化を経て、そして昨今は組織や働き手の価値観が大きく変化する中で、下図に示されたように人材マネジメントの目的や人事の物事への取り組み方は変革を期待され、「社会における会社・組織の存在意義の発揮、そこで働く人の幸福やキャリアの支援、および組織・個人両者の新しい関係性づくり」など、期待役割は一気に、急激に高まってきています。

出典:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)P7 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

機能を備える観点から、人事の組織体制を考える

人事の役割に関する有名な考え方が、1990年代に米国ミシガン大学の教授 デイビッド・ウルリッチが提唱した4つの分類です(人事の役割―戦略パートナー/変革エージェント/管理のエキスパート/従業員のチャンピオン)。この詳細は省きますが、この4つの分類から着想を得て、アレンジを加える形で、会社が備えるべき人事の業務機能に関して幾つかの考え方・整理が生まれています(下図はその一例)。

出典:株式会社ジョイワークス 「戦略人事に転換する(田口光彦氏)」より引用 https://www.joyworks.co.jp/post/info20210216

労務行政研究所の調査「人事部門の組織構成と人事機能の現状に関するアンケート」(WEBによる252社の人事担当者へのアンケート)によれば、2018年以降実施した、あるいは今後数年間に予定している人事の組織構成・体制の変更内容として、

  • HRBP機能の設置もしくは強化

  • 人事部門を人事企画、制度運用・オペレーション、人材育成に再編

  • 人事戦略や人的資本経営などの企画専任チーム、担当者の設置

  • オペレーション業務の集約とアウトソーシング

など、昨今の人事への期待役割の広がりに合わせて、機能観点からの組織づくりが行われていることがうかがえます。

しかし一方で、このような組織づくりと担当者の配置を行うには、相応の人事人材のリソースがあることが前提となってきます。むしろほとんどの場合、そうではないことの方が多いと思われます。これら必要な機能をすべて人事部に内包しようとすると、人材の特性・スキルの問題や、そもそもの人事部のリソースの問題から、本来会社組織として必要な機能を備えることができなくなってしまいがちです。

では、どう考えれば良いのでしょうか?

機能を備える観点から、人事の組織体制を考える

私は、組織体そのものではなく、「あるべき機能」に着目しているところに、ウルリッチのモデルをベースにした人事機能の整理の価値があると考えています。つまり、必要なのは人事部ではなく人事機能である、という観点です。

「あるべき機能」という視点に立つと、「必要な機能の観点で、人事組織内外のリソースを使って備える」という発想が生じえるのではないかと思います。

例えば、上図のビジネスパートナー機能は、事業責任者のパートナーとして、事業部門の人事課題解決の主体となる機能です。昨今、HRBP(HRビジネスパートナー)と称するこの機能を人事部に備える会社が増えてきましたが、必ずしも人事部に内包することだけが方策ではないかもしれません。事業部門側の一部にこの機能があり、人事企画機能や人材開発・組織開発機能などと連携する形を志向することも一案です。

また、例えば、私が直近数年間ご支援している企業様では、企画チームは箱としては人事部に存在しますが、同社の社員はいません。人事企画チームを私ほか数名のフリーランスで編成し、同社の人事部長と協働しながら施策立案や実際の業務推進を行っています。少し珍しい形かもしれませんが、人事企画機能を社外に持つ例です。その他、社外人事責任者・社外人事部長といった形でサービス提供しているベンチャー企業も幾つかあります。

このように、会社全体を見渡してみて、「必要な人事機能を、どこにどのような形で持つか?」「人事部の組織ではなく、会社全体の人事機能をデザインする」という観点で考えてみると、目下のリソース不足やスキルの問題を補い、将来に向けた建設的なアイデアに、少しだけ近づける可能性はないでしょうか。

そして、このような人事機能観点で、機能のありかと担い手を整理していくことは、例えば人事業務が未経験であっても特性を備えた人材がパフォーマンスしやすくなったり、業務機能に応じた人材育成の方法を工夫することで成長を早めることにつながったりと、人事の各機能・業務の特性にフィットする担い手を獲得し、育成し、ゆくゆくは人事部が必要な機能を十分に備えて、ますます高まる期待役割に応えていくことに、必ずやつながるのではないでしょうか。もちろん、データを活かした定量把握による情報武装が人事機能を充実するうえで不可欠なことは言うまでもありません。

※本稿はCHROFY株式会社のウェブサイトへの私の寄稿を、運営会社の許可を得て転載したものです。

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