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古今東西刑事映画レビューその1: アンタッチャブル

2011年から2015年の間、知人の編集する業界誌に寄稿していた刑事物映画のレビューを編集・再掲します。

アンタッチャブル
1987年(アメリカ)
監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:エリオット・ネス…ケビン・コスナー
   ジム・マローン…ショーン・コネリー
   アル・カポネ…ロバート・デ・ニーロ


 大恐慌のさなかにあっても、摩天楼が次々と天を目指し、夜毎ジャズの調べが通りを漂う。禁酒法の支配下にあっても、もぐり酒場に人々が蜂のように群がり、330万の人々の欲望が渦巻く。1930年のシカゴは、そんなエネルギッシュな、だがどこか罪の匂いのする街だった。
 その背徳の香りに魅せられたのか、同時代のシカゴを題材にとった映画は枚挙にいとまがない。『スティング(‘73)』、『お熱いのがお好き(’59)』、『暗黒街の顔役(’32)』など。ただ、どれも犯罪を働く側の映画ばかりで、その逆は少ない。実在のシカゴ・ギャングの親玉、アル・カポネのイメージが強烈だからだろうか。カポネに相対する捜査官たちは、皆彼の引き立て役にしか過ぎなかったのだろうか。
 いや、そうではない。ヒーローは居た。実在していた。連邦捜査官、エリオット・ネス、それが彼の名前だ。彼とアル・カポネの対決を下敷きにしたのが、この『アンタッチャブル』である。
ネスと3人の同僚は、ギャングからの買収を一切寄せ付けない。それがタイトルの所以なのは、広く知られたところだ。禁酒法の捜査官はほぼ全員がギャングと通じていたと言われるような中にあっては、際立って清廉な猛者たちのチームであった。
 公開当時、ほとんど無名だったケビン・コスナーのまっさらさが、ネスのクリーンなキャラクターにうまくマッチしている。周囲に配したショーン・コネリーやロバート・デ・ニーロらの老練ぶりに比べると、言ってしまえばアクは無い。だが、だからこそ、コネリーが演じる老警官・マローンの「警官よ、ただ実直に警官たれ」と言う生きざまに染まり、警官としての誇りを受け継ぐ過程を鮮やかに描き出すことに成功している。その心意気とでも言うべきものは、マローンからネスへ、更に新米のジョージ・ストーンへと手渡される。男から男への魂のリレー、そのシーンは観る者をただしびれさせる。公開から20年以上経った今でもこの映画が古びない理由は、まさにそこにある。
 勿論、魅力的なのは主人公と仲間たちだけではない。彼らが対決するアル・カポネ、この男をブライアン・デ・パルマ監督は実に魅力的に造形している。狡猾さと残酷さを強調するだけでなく、オペラを観て涙するような一面をのぞかせ、時にネスの挑発に激昂したりもする。カポネに扮したデ・ニーロが、髪を抜き、15kg増量したのは有名な逸話だが、デ・ニーロは見た目だけでなく、この希代の犯罪王を、時に紳士的に時に横暴に、実際の彼がそうであったように演じ切っている。アカデミー助演男優賞を得たコネリーの演技に引けを取らない、一見の価値ある怪演である。
 実際の「アンタッチャブル」たちは映画のように派手な銃撃戦を行った訳ではなく、それこそ現代の刑事たちのように、地道な捜査でカポネの密造酒工場を暴き、贈賄の証拠を拾い集め、彼の牙城を突き崩すに至ったと言う。
そこには映画と同様、いやそれ以上の、男同士の意地のぶつかり合いがあっただろう。それこそ触れられない程に熱い男たちのドラマが繰り広げられたに違いない。是非、そんな名もなき男たちのことを頭の片隅に留めながら観てほしい。映画の中のエリオット・ネスたちが、より生き生きと、より颯爽と、より誇り高く見えてくるはずだ。



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