天国でも、歳をとることができるんだろうかしら。
#Toots Thielemans & #Elis Regina/Corrida de Jangada
先日のW杯の決勝リーグ、ベストバウト候補は幾つかあるかと思いますが、身近な点でも、赤い選考・ベルギーVSカナリアイエロー王国ブラジルの対決は、特に記憶に鮮明かと思います。
ということで、夏にぴったりな、ベルギー人とブラジル人の共演作をご紹介。さわやかなハモニカと圧巻のボーカルが魅力の佳作です。
ちなみにジャケット右の黄色いセーターのヒゲ面がベルギーのTootsさん。左の赤セーターが、ブラジルのElisさん。見事なまでに代表ユニフォームと真逆の色を着てます。
Elisの圧巻ボーカルは、Toots抜きのアップテンポ曲、Corrida De Jangada(“帆掛舟の競争”)で堪能できます。序盤は少女のように瑞々しく、後半の山場は老練な女将のようにたくましく、
躍動する歌声。喫茶店のBGMみたいなのを想像すると火傷します。胸倉をつかんで立たされて、背筋を指先でピンとなぞられ、顎クイされて、頬を知っぺうちされるような快感を味わえます。このときElisは若干23歳、にも関わらずこの円熟味。これぞ才気煥発です。
残念ながらその後Elisは、薬物で36歳で早世。小さいころからプロの歌い手としての人生を生きたElis。技術的には完全に円熟していた彼女は、実年齢で不惑を越えたとき、果たしてどんな境地を開いていたのか。それを聴くことは、もはや永久に叶いません。
この曲は、レース舟のスピーディーな動きを恋にみたてた歌詞なんですが、そのスピード感のままElisは、遠い先まで駆けてっちゃったんでしょうか。
”Eu venho Primeiro Pra tomar teu coracao(あなたの心を真っ先に奪いに)
E hora! Ora, vamos embora E hora, bamos embora(さあ、時間だ!)
Vamos embora, ora, vamos embora!(がんばれ、出発、さあ行こう!)
このアルバムで2人が共演してる曲は4曲だけですが、これらは「帆掛舟」に比べ、いい意味でリラックスした雰囲気の印象です。(Waveとかはそれでもすごいけど)
立役者は、ハモニカに加え口笛も駆使してカラフルな世界を作り上げたToots。超絶テクニックをそれとは気づかせず、寛ぎすら生み出す職人芸。Elisの才気一辺倒とはまた違う、この風通しの良い均衡こそが、本作の最大の魅力と思います。
Tootsはその後も名だたる天才たちの音楽を、温和かつカラフルに彩り続け、2016年に天寿をまっとうします。Elisさん、こんな人生もあったのにさ。。