『トリックテイカーズ』をつくろうと決意した瞬間と、何を考えてゲームデザインしたのか、について。
<『トリックテイカーズ』をつくろうと決意した瞬間>
私のボドゲ歴は2年半です。2018年9月頃から月に1〜3回ほどボドゲ会に参加しはじめました。自作でボドゲをつくりたいなぁとは漠然と考えていました。つくるとしたら、自分の興味のあるジャンルの「非言語系」「議論系」「哲学系」「薬学系」とボドゲをかけ合わせるのがいいかなぁと考えてはいましたが、「よし!つくろう」と、決心まではつきませんでした。
そんな時、『ROOT』というゲームをプレイした時に、突如として、ボドゲをつくりたいと心から思ったのでした。
結論から言えば...
『ROOT』のような「非対称性の強いゲーム」をつくりたい、でも「軽ゲー」で、と思いました。
ですので、
『トリックテイカーズ』のコンセプトは「非対称性の強い軽ゲー」となります。
『ROOT』の詳細は省きますが、プレイヤーはキャラクターを選択して、キャラに沿ったプレイをして、30点を獲得したプレイヤーがゲームに勝利します。
おもしろいところは、キャラクターの行動(できること)や勝利点の入り方が、キャラクターごとに異なる点です。
そのため、インスト(ルール説明)はキャラクター分が必要で大変ですし、自分のキャラだけでなく、他のキャラの特性を知っていないと、ゲームに勝つことは難しいです。重ゲーを初めてプレイする方にとっては、『ROOT』はルールが難しいと感じるかもしれません。
こういった非対称性ゲームのおもしろい感覚をもっと広めたい! 気軽に楽しんでもらいたい! そんな気持ちから、『トリックテイカーズ』をつくろうと決意したのでした!
『トリックテイカーズ』のキャラクターが、動物なのは、『ROOT』リスペクトから、なのです。
<なぜ、トリックテイキングゲームだったのか>
軽ゲーにトリックテイキングゲームを選んだ深い理由はありませんでした。そういう意味では、(残念ながら)私はトリテ愛好家ではないのだと思います。
トリテを初めて知った時には、おもしろさがよくわかりませんでした。
初めてトリテをおもしろいと思ったのは『ノコスダイス』でした。
その後、『スカルキング・レジェンド』や『ザ・クルー』などを知って、トリックテイキングゲームは「繰り返し遊んでも楽しい軽ゲー」だと、私は思うようになり、トリックテイキングゲームを選ぶことにしました。
トリックテイキングゲームは、もとはトランプゲームです。Windowsには『ハーツ』というトリテのゲームが入っています。ですが、私はボドゲ会に参加するまで、トリックテイキングゲームを知らなかったですし、『ハーツ』にいたっては、『トリックテイカーズ』をつくりはじめるまで知らなかったほど、にわかトリックテイカーなのです(^_^;)
トリックテイキングゲームの歴史を調べていくと、トランプの歴史と同じくらいの古い歴史を持っていることがわかりました。おそらくは1400年代〜にはすでにトリックテイキングゲームが存在したと思われます。また、タロットカードも元はトリックテイキングゲームに使われていたもので、いつ頃からかはわかりませんが、「フール(愚者)0」は、マストフォローを無視して出せたとか。
また、トリックテイキングゲームには切り札と呼ばれる、他のカードより強いカードがあります。切り札のことを英語でトランプと言います。日本語のトランプという言葉は、トリッックテイキング用語からきているようです。
私は自分のゲームに、何気なくトリックテイキングゲームを選びましたが、歴史を調べていくと、トリックテイキングゲームの魅力に引き込まれていきました。トリックテイキングゲームには古い歴史がありつつも、今なお、新作のゲームがどんどん出てきていて、進化し続けている、歴史を更新し続けているゲームジャンルなのです。
トリックテイキングゲームに歴史があることを知ってもらうために、『トリックテイカーズ』のキャラ紹介動画のオープニングには、長い歴史があることに少しだけ触れることにしました。キャラクターには声優さんに個別にボイスをつけてもらいましたが、これは日本流のトリテの進化の見せ方の1つになったのではないかと、私は思っています。
また、キャラクターカードの大きさはタロットカードのサイズにしました。
プレイングカードは、原点回帰でトランプ風にすることにしました。
<何を考えながら、ゲームデザインをしたのか>
(1)プレイヤーが何をやればいいのか、わかること
(2)間接攻撃の魅力、対戦ではなく競争の魅力
(3)運と情報と推理と
ここからは何を考えながら、『トリックテイカーズ』のゲームデザインをしていったのか、について書いていきます。
(1)プレイヤーが何をやればいいのか、わかること
これは、ルールのことを言っているわけではなくて、戦略のことを言っています。
中量級の『ドミニオン』や、重量級の『アグリコラ』などのゲームをやると、戦略がないと勝つことは難しいと思います。(このカードと、このカードのコンボをねらっていこう、など)。
そして、戦略がわかってから、ゲームはもっとおもしろくなっていくものです。
戦略の何がおもしろいのか?
おそらくは、このゲームで自分はこういうことをイメージしてプレイしたいと、想像することが、まずおもしろいと思います。
そして、そのイメージを実現していく過程がおもしろく、その戦略がよかったのか、悪かったのか、反省するところも、またおもしろいと思います。
「想像→実現→反省」と、3段階でゲームを楽しめます。
ところが、戦略というものは、通常は説明書には書いていないことが多く、攻略サイトの定石として、紹介されていることが多いように感じます。
「ルールを知っている」と「戦略を知っている」、この差がボドゲ初心者と、脱初心者の境目なのかなぁと私は思います。
ですので、もっと気軽に戦略にふれられるゲームにしたい。つまりは、プレイヤーが何をやればいいのか、直観で理解し、実現できるゲームにしたいと思いました。
では、『トリックテイカーズ』にとっての「戦略」とは何か?
それは、ただキャラクターを選ぶことです。
『トリックテイカーズ』では、5枚の手札が配られてから、キャラクター選択をします。もし、キャラクターを選ぶゲームではなかった場合、5枚の手札をどうやって出していくのがいいのかを、プレイヤーが考える必要があります。ですが、『トリックテイカーズ』では、キャラクターを選択します。
キャラクターを選んだことによって、その手札の使い方が見えてくる、と思います。
このゲームで、自分はこういうことをイメージしてプレイしたいと、想像しやすくなると思います。つまり、キャラクターが私たちプレイヤーに手札の出し方を教えてくれているのです。戦略のキャラ化とでも、言えるのかもしれません。自分がこういうことをイメージしてプレイしたい、といった想像ができれば、あとは、実現、そして、反省によって、ゲームを楽しんで頂けるのではないかと思っております。
余談にはなりますが、プレイに慣れてきましたら、王冠システムを使った戦略を検討して頂きたいです。1ラウンドの5回のトリックをどう戦うのか、だけではなくて、3ラウンドの広い視点で、どう王冠をとっていくのかを考えて、楽しんで頂きたいです。「複数の勝ち筋があること」はゲームに取り入れたいと思っていました。また「最後まで逆転の目があること」も、ゲームに取り入れたい要素の1つでした。
(2)間接攻撃の魅力、対戦ではなく競争の魅力
間接攻撃の話をしたいのですが、先に直接攻撃についてふれます。
私は直接攻撃ができるゲームがちょっと苦手です。(ここで言う直接攻撃とは、『遊戯王』や『シャドウバース』などの直接攻撃がメインのゲームのことを言っているわけではありません。)
私が直接攻撃が苦手な理由は、2つあります。
1つは、AさんがBさんを直接攻撃した場合、結局、メリットを得るのは何もしていないCさんになってしまうからです。
Aさん、Bさん、Cさんが、自分のターンに利益を得ることができるアクションができた場合、Aさんは自分の利益を得ることをせずにBさんを直接攻撃すると、実質、Aさんは損をしています。Bさんは攻撃された分、損になります。Cさんは自分のターンに利益を得るので、Cさんだけがプラスになります。この構造がどうしても受け入れられないのです。(Aさんが、BさんとCさんの両方に直接攻撃できるのであればOKです。)
もう1つの理由は、自分の戦略を実現したい、という欲求を満たすことが難しくなることです。
直接攻撃をされて、自分のやりたい戦略ができなくなってしまうと、悲しくなります。もちろん、相手の戦略をさせないようにすることは、ゲームにおいて大切なことですし、おもしろさでもあります。ですが、その阻止の方法を、直接攻撃ではなく、間接攻撃で行えるゲームの方が、私が好みという話なのです。
つまり、私が好きなゲームとは、自分の戦略を実現する欲求を満たしやすいゲームでありつつも、相手の戦略を間接攻撃で邪魔することもできるゲームです。
ここで、話は少し脱線しますが『ドミニオン』と「間接攻撃」についての話をします。
初めて、『ドミニオン』をプレイした時に、デッキ構築系のゲームだと聞きました。上記で『遊戯王』の名前を出しましたが、私は『遊戯王』はしっかりやったことはなく、デッキ構築系でやったことあるゲームは、スマホでできる『シャドウバース』だけでした。そして、『ドミニオン』をプレイした時に、このゲームは対戦ではなくて、競争なのだなぁと思いました。
序盤では、アクションカードを購入しながら、自分のデッキを強くしていって(デッキ構築)、途中から勝利点カードを購入していって、最終的に最も多くの得点をもっていたプレイヤーが勝ちます。他のプレイヤーをたおすゲームではなくて、他のプレイヤーよりも多くの得点を得るために競い合うゲームです(競争)。
『ドミニオン』のおもしろさが、最初はわからなかったのですが、「戦略と間接攻撃の魅力」を知ってから、『ドミニオン』のおもしろさがわかってきました。
『ドミニオン』は購入できる10種類カードが毎回変わります。毎回変わるからこそ、何度でも楽しめるのですが、この10種類の中から、どういうカードを購入していくべきか、戦略をまずは考えていきます。そして、自分の戦略とおりに実現できたら、とても楽しいです。
ですが、自分の戦略がうまくいったからといって勝負に勝てるとは限りません。なぜなら、他のプレイヤーは自分よりもっとよい戦略を見つけて、それを実現しているからです。
では、どうすればいいのか。それは、自分の戦略を実現しつつも、他プレイヤーの戦略をみて、間接的に攻撃することです。ここでは深入りしませんが、例えば、相手が集めているカード(庭園)を購入して、そのカードを売り切れにするとか、相手が後半からいっきに勝利点を獲得できる戦略ならば、早めにゲームの終了条件を満たして、ゲームを終わりにする、などです。
同じように、重量級ゲーム『アグリコラ』などの、いわゆるワーカープレイスメント系のゲームでも、間接攻撃は重要です。自分が有利になる場所(プレイス)を選びつつも、他プレイヤーがいきたい場所(プレイス)を阻止することです。
前置きが長くなってしまいましたが、『トリックテイカーズ』においても、「直接攻撃はできるかぎりつくらないように」しつつ、「自分のやりたい戦略は実現できるように」しつつ、「間接攻撃によって相手の戦略を阻止できる構造をつくりたい」と思いました。
そのため、例えば「他プレイヤーのカードをシャッフルする」などの攻撃の仕組みは入れませんでした。カードをシャッフルされてしまうと、自分の戦略の実現欲求を満たせなくなってしまうからです。
「間接攻撃」とは、例えば「レジスタンスの革命」です。革命が控えていると思うと、「キング」や「バーサーカー」などの強いカードを持っているプレイヤーは、安易に強いカードを出せなくなります。この牽制が、間接的に攻撃になっています。「レジスタンス」は、革命によって得点をねらいつつも、勝っているプレイヤーが不利になる機会を見計らう必要があります。
「0勝をねらっているハーミット」や「予想を当てようとするギャンブラー」に、自分が負けたいタイミングで、そのプレイヤーに勝利してもらうことも、間接攻撃になります。
(3)運と情報と推理と
私は運要素が強すぎるゲームは苦手です。トリックテイキングゲームは、手札運もありますし、マストフォローのルールもあるために、運要素が上がっています。ですが、『ノコスダイス』や『スカルキング・レジェンド』などの、いわゆるビッド系は、手札と相談しながら勝利数を予想して、予想が当たると得点が入ります。そのため、手札運がそのままゲームの勝利に直結するとは限らないため、「運が悪かったから負けた」という感覚がとても弱く、おもしろいです。『トリックテイカーズ』では、「ギャンブラー」がビッド系のキャラ化になっています。
『トリックテイカーズ』では、配られた5枚の手札と相談しながらキャラクターを選択できる仕組みですので、手札運と勝敗の直結を下げることに成功したと思っています。
また、手札が悲惨だったとしても、「バーサーカー」を選択することで、自分の手札を全て捨て札にできますし、「ギャンブラー」も手札を交換できますので、手札運が悪すぎる、という理不尽な思いは少なくなっているはずです。
話は少し飛びますが、ゲームがうまくなるためには、相手の戦略を知ろうとすることが大切だと、私は思います。
相手の戦略を知るためには、推理が必要です。推理ができるためには情報が必要です。そのため、ゲームにはある程度の情報開示の仕組みが必要だと思います。
「バーサーカー」というキャラは専用デッキを持っていて、とても強いのですが、他プレイヤーから、ある程度のカード情報がバレていますので、情報戦に弱いという弱点を持っています。特にレアよりも強いバーサーカーカードは確定で手札に入っていますので、数字の1でねらわれてしまうことがあります。
他プレイヤーの視点からすると、「バーサーカー」を選択したプレイヤーがどのようなカードを持っているのか、といった情報はある程度わかっていますので、バーサーカープレイヤーの行動を推理して、楽しむことができるかもしれません。
また、キャラクター選択時で、最初にキングを選択したプレイヤーは手札が強かったと推理できるかもしれませんし、「レジスタンス」を選択したプレイヤーは手札が弱いと推理できるかもしれません。
「ギャンブラー」はトリック開始前に、2回ポーカー交換ができます。ポーカー交換とは、ポーカーのゲームでカードを交換するように、手札から任意の枚数を捨てて、捨てた枚数を山札からとるカード交換です。例えば、5枚の手札の全交換を2回することで、他プレイヤーよりも10枚の使用されないカードの情報を知ることができます。
また、拡張キャラのアドベンチャラーのアイテムカード情報は公開にしました。これによって「実はこんなアイテムを持っていたんだー!」と、他プレイヤーを驚かす楽しみはなくなってしまいますが、他プレイヤーがアイテムカード情報をみて、もしかしたら、アドベンチャラープレイヤーはこんな行動を起こすかもしれないと推理することで、自分の行動を良くも悪くも変更することができます。
『トリックテイカーズ』は手札が5枚しかなく、他のトリックテイキングゲームと比べて、手札枚数が少ないです。手札枚数が多いトリテのゲームですと、他プレイヤーがマストフォローしないという情報が、そのプレイヤーの手札情報を教えてくれます。それによって推理が可能になってきます。ですが、残念ながら、『トリックテイカーズ』で、この醍醐味は味わうことは難しいです。序盤の手探りの時間を省略した変わりに、最初から楽しい終盤を味わえると、ポジティブに考えて頂けるとうれしく思います。
最後に、今後、考えていることを少しだけ書いて、終わりにしたいと思います。
<今後について>
もし、『トリックテイカーズ』が人気が出たら、の話になってしまうのですが、「第2版」や「拡張ゲーム」をつくるか、迷っています。金銭面と気力の両方で、すでにちょっと限界かも(^_^;)
今回、制作するにあたって、もしかしたら、この作品が最初で最後になるかもしれない、そう思って制作しました。そう思うと、価格はちょっと高くなっても、自分が納得いくコンポーネントにしたいと思い、トリックテイキングゲームでは、価格が高いゲームになってしまいました。
自分の納得のいくゲームがつくれれば、全然、売れなかったとしても、それでいい、と思うことができます。なぜなら、利益を得ることを目的にはしておらず、自分が楽しむことを目的にやっているからです。
「拡張について」は、拡張をつくれる布石は打っておきました。最初の8枚のカードには、基本カード5枚と拡張カードの3枚があります。実は基本カードには「A」、拡張カードには「B」の印をつけています。次に新しいキャラが追加される時には「C」になります。このアルファベットは、拡張時期の印だけではなく、キャラクターの優先度をコントロールするための仕組みにもなっています。
新しいキャラカードと、そのキャラの専用アイテムだけを販売した『拡張』をつくることはできるとは思っています(つくらない可能性も高いです)。
また、キャラクターの可能性を考えると、様々なトリックテイキングゲームをキャラ化させて頂き、そのトリテゲームの特徴をもった固有能力や勝利条件を持たせて、『トリックテイカーズ』という同じ舞台で競い合う、といったコラボ企画もできたら楽しいかも、とも思ってはいます(やらない可能性はかなり高いです)。
他の拡張ゲーム案としましては、アドベンチャラー編もあってもおもしろいかも、と思ってはいます。アドベンチャラー(冒険者)のクラス同士で競い合うトリテです。ちょっとだけ能力の異なるアドベンチャラーのキャラが5人いて、アイテムカードの種類を100枚くらいつくるとか(つくらない可能性は高いです)。
他にも、協力ゲートリテの制作にも、あこがれます。「拡張」は、また「心からやりたい」と思った時につくるとは思います。
以上です。
ここまで、読んで頂き本当にありがとうございました。どうぞ、『トリックテイカーズ』をよろしくお願いいたします。
『トリックテイカーズ』制作者ヒロケンより 2021年3月21日
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