アガヴェの怒り【天候術師のサーガ 40】
アガヴェはどうすればいいか
わからなくなり
壁に背中をつけて
泣きながらずるずる床へ
崩れ落ちた
うち、実験されてたんだ…ずっと。
実の父親に…。
なんだかずっとヘンだと思ってた…。
魔導印鑑を押してないのに
魔法が使えるんだもん…。
みんなにはずっと黙ってたけど、
そうゆうことだったんだ…。
── 島ギャル、アガヴェ
ナナミはファイルを握りしめたまま
何も言えずに呆然と立ち尽くしていた
何も言えなかったわけではないが
何を言っても間違いになりそうで
言葉を発せなかった
だから
ナナミは泣き崩れるアガヴェを
無言で優しく抱きしめた
泣いていたアガヴェは
さらに泣き喚き
悲痛な叫び声は
研究室中に響き渡った
ナナミもその声を聞いて
涙を流した
アガヴェの叫びは
やがて怒りに変わり
彼女の身体は
灼熱をまとった
ナナミは徐々に高くなる体温を感知し
アガヴェから離れた
アガヴェちゃん…?
── イノリゴ島の少女、ナナミ
ううぅ…!
── アガヴェ
彼女の顔はまるで
鬼の形相だった
彼女の褐色の皮膚は
やがて赤みを帯びていき
周りには蒸気が立ち上っていた
黄金色だった髪は
白髪に変わり
カチューシャのような編み込みも解けた
ロングヘアが垂れ下がっていた
この時ばかりは
長く伸ばした爪が
ファッションではなく
内臓を抉るための
野生的なものに見えた
白目を剥き
自我は喪失しているようだった
ど、どうしよう…。
止めなくちゃ…。
でも…、どうやって…?
── ナナミ
アガヴェの出した蒸気は
周りの金属が溶けるほどの温度だった
きていたスウェットも
ところどころ溶けはじめていた
ナナミはそんな中
ここに来る前に
アガヴェとやった
魔導ドライヴのことを
思い出していた
なんで今こんなこと
思い出してるんだろ…。
それどころじゃないのに…。
── ナナミ
ナナミは必死に思考を止めようとするが
意思に反して記憶は
とめどなく流れた
また…、
一緒にゲームしたい…。
アガヴェちゃん…。
── ナナミ
ナナミは
自身の右手が
温かくなった気がした
温かくなった手を
アガヴェに向けると
手から何かがものすごい速さで
飛び出し
アガヴェの胸に直撃した
うっ!
── アガヴェ
アガヴェは胸を押さえてから
次に頭を抱えて苦悩しはじめ
床にへたり込んだ
アガヴェを包んでいた蒸気は
徐々に消えていき
身体の色もいつもの褐色に戻った
戻った!
アガヴェちゃん?
大丈夫⁉︎
── ナナミ
え…?
うち…、どうしたの?
── アガヴェ
すると研究室の入り口の方から
拍手の音が聞こえてきた
見事だ、アガヴェ。
私の実験は間違っていなかった。
── アガヴェのパパ、カドモス
41へつづく
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