人生のエンドロール / 母の腕のなかで

ワタヌキの作った
ぬいぐるみ巨獣は
マグマドグマへ立ち向かうも
黒い火球を浴びて
炎に包まれてしまった
本来であれば
魔法の能力で
打ち消すことが可能だが
この時すでに
ワタヌキの力は
そこを尽きていた
そればかりか
ワタヌキはいつの間にか
憧れの美少女の
腕のなかにいた
膝枕をされて
彼女の顔は
逆さまに見えていた
まるで時が丸ごと無くなったか
移動したような感覚だった
自分の作り上げた
ぬいぐるみ巨獣は
見渡しても
どこにも居なかった
ワタヌキの口からは
紅色の滝が
べっとり張りついており
意識は朦朧としていた
美少女が
天使か何かに見えた
きみの名前を
ぼくに教えてほしい
辿々しく
弱々しく
掠れ声で話すと
アオイ
わたしの名前は
アオイ
あなたの母親よ
そんな
母さんに恋するなんて
父さんに怒られちゃうな
天国から
迎えに来てくれたんだね
あなたのなかには
わたしが半分入っていたから
病弱にしか
産んであげられなくて
ごめんね
何言っているんだよ
ぼくはそのおかげで
こんな貴重な経験が出来たんだよ
普通の人生なんて
楽しくないじゃないか
ぼくの人生は
最高だったよ
でもね
もう少し生きていたかったなぁ
もっと色んな経験を
してみたかったよ
ちょっと休んだら
また
そう言って
ワタヌキは
アオイとともに
粒子となって
虚空へ消えた
ミナミは何か
叫んでいたが
もうそこに
ワタヌキの姿はなかった
ザンパムのブリキ姿だけが
うずくまって泣いていた

◆ 戦利品 ─【天国への階段】
† 死亡 ─【ワタヌキ】

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