愛情のこもった料理【天候術師のサーガ 29】
ナナミとナミナおばあちゃんが
抱き合っていると
後ろでシェルターのドアが開いた
ナナミはナミナおばあちゃんを
かばいながら少し身構えた
ハンドル付きの
円形の巨大なドアがまず開き
家のドアが顔を出した
ドアはガチャリと開き
中から袋を持ったアガヴェが出てきた
ごめん、ナナミっち、おばあちゃん。
お待たせ!
── 島ギャル、アガヴェ
アガヴェちゃん!
戻ってきてくれてよかった。
── イノリゴ島の少女、ナナミ
これ、持ってきた!
みんなで食べよ。
── アガヴェ
アガヴェは意気揚々と
持っていた袋をナナミに差し出した
何?これ。
── ナナミ
んと、ラムチョップ。
── アガヴェ
なんかちょっと
ねちょねちょしてない?
── ナナミ
いやいや、大丈夫!
多分!
うちの愛情入りだから!
── アガヴェ
ナナミは
アガヴェの口元についたソースを見て
なんとなく察しがついた
しかし
ナナミはアガヴェが
せっかく食料を持ってきてくれたので
そのことには触れなかった
お皿ないけど。
── アガヴェ
ナナミはひと口食べてみた
どう?
── アガヴェ
ん…。
おいしい…。
うん。
── ナナミ
ナナミは
可もなく不可もなく
といった顔をした
こんな時だから
しゃあないわな。
ありがたくいただくぞ。
── ナミナおばあちゃん
うちの家族さ…。
外がど〜なってるのか
なんも知らないんよ…。
それなのにさ、
こんな贅沢なもの食べて、
ホントど〜にかしてるよ。
── アガヴェ
うん…、
そればかりは
なんとも言えないんだよね…
アガヴェちゃんの家族に
とやかく言う筋合いは
私にはないけれど、
アガヴェちゃんの気持ちは
痛いほどわかるよ。
── ナナミ
う…。
ナナミっち…。
── アガヴェ
ナナミはアガヴェを抱きしめながら言った
当事者になって
苦しんでる人もいれば、
何にも知らないで
日常が当たり前だと思って
生きてる人もいる。
実際体験しないと
わからないことばかりだよ。
偽善者だって、
言われたっていい。
私はできれば、
どんなに辛いことでも
当事者として
人の痛みに
寄り添える人間になりたい。
今は本気でそう思ってる。
── ナナミ
ナナミの潤んだ瞳には
決意の炎が灯っていた
30へつづく
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