具現化したトラウマ
石薔薇の魔女と岩肌の少年は
氷の柱が乱立した部屋で
突然現れた白雪の大軍総帥マダムネヴァと対峙していた
岩肌の少年は完全に固まってしまった
「アナタの代わりなんていくらでも居るのよ」
いつか言われた言葉が頭の中に再び残響した
「僕ハ…僕ガ生キテイル意味ハ…。代ワリガタクサン居ルナラ…僕ノ生キテイル意味ハ…何ナンダ…?」
マダムネヴァは
その問いかけには応えず
不気味にほくそ笑んでいる
「生き物が生きている意味なんて無いわよ?
ましてや人生なんてもの、無駄でしか無いわ」
「ソレジャア…何デ…僕タチハ存在スルノデスカ…?!」
岩肌の少年の目からは
ダイヤモンドにそっくりな
綺麗な鉱物がこぼれ落ちていた
「そんなの簡単よ。
自分の生きる意味を探すためよ。
それにね、もともとそれを知ってるはずなの。
けれども残念なことに忘れてしまっているの。
それを思い出すために、あなたたちは、必死で生きていくのよ。
"寿命"という、期限付きの不自由な身体でね」
「"あなたたちは"…?
アナタハ違ウト言ウノデスカ…?」
「私には"寿命"はない。良いと思うでしょう?
あなたたちが探してる答えをとっくの昔に見つけたのに、まだ生きながらえているのよ。
空の宝箱をずっと漁り続けている感覚だわ。
退屈ったらありゃしないもの。
けれどね、たまにあなたのような珍しい存在に出会えると、興奮して仕方なくなるわ。
もう、それだけしか、生き甲斐なんてもの、無いのよね」
モントローザの瞳には
深淵の暗闇と恍惚の輝きが
不自然に同居していた
「僕ガ…珍シイ存在…?」
「そうよ。あなたは私が出会ったなかでも特別で、それでいてかなり奇妙な存在ね。
だから自信を持ちなさい。
他の誰かに必要とされていなかったとしても、私が必要としていること、覚えておきなさい
あなたの魂は、あなた以外存在しないのだから」
「僕ノ魂ハ…、僕ダケノモノ…」
その瞬間
岩肌の少年は
マダムネヴァをイースターの槍で貫いていた
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