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おばあちゃんの家へ【ヤスメヤセンの休日 2】

〜 ヤスメヤセン・市街地〜


ミナミは
ママから受け取った麻袋を持って
ヤスメヤセンの市街地を駆けた

おばあちゃんの家は
ヤスメヤセン郊外の
丘陵地帯にある

市街地を駆けながら
ミナミは過ぎゆく景色を
目で追っていた

しばらく見ないうちに
ヤスメヤセンの街は
自分が知らない
別の街のように様変わりしていた

ミナミは
見覚えのある通りで立ち止まった


ぬいぐるみ屋さんが…。
── ヤスメヤセンの少女、ミナミ


かつての戦友
ワタヌキのぬいぐるみ屋さんは
人気アイドルグループの
グッズショップへと変貌していた

ワタヌキの住まいがあった二階部分も
事務所として使われているようだった

父子家庭だったワタヌキ一家は二人とも
今はこの世にはいない

ミナミはふと思い立ち
スリットスカートのポケットから
黒縁メガネを取り出した

これは
ワタヌキがかけていたもので
形見としてひっそり持ち歩いていた

メガネを取り出すと同時に
水面のように
キラキラ輝く石が地面に落ちた

ミナミは
形見のメガネをかけて
落ちた石を拾い上げた

石は先の戦いで離れ離れになった
アストンの涙だ

一瞬、
ミナミの心の傷跡が
張り裂けそうになったが
グッと堪えてまた駆け出した

かけたメガネは度が入っていて
ずり落ちてだんだん煩わしくなり
外してポケットにしまった

ミナミは
かつてラジオ塔のあった
中央広場へ出た

今ではこの場所は再開発が行われ
新しい建物の建設予定地となっていた

少し街を留守にしただけで
こんなにも風景が変わるものだろうか

ミナミは自分ひとりだけ
別の時空に取り残されてしまったような
孤独を感じていた

経由地には
ドミニスリヤの研究所跡地もあったが
こちらも大穴の修復が
急ピッチで進められていた

結局、ドミニスリヤの消息は不明なままだ

短期間しか行動をともにしていないが
妙に親しみを感じる
不思議な人物だった

生きているのなら
もう一度会いたいと
ミナミは思った

ミナミは街を取り囲む
石薔薇の壁と並走した

石薔薇の魔女、
モントローザとの熾烈な戦いは
短剣の能力であっけなく
終わってしまった
彼女の行方も今は知る由もない

今までの出来事を
思い出しているうちに
眼前にはおばあちゃんの家のある
丘陵地帯が広がっていた

ずっと小走りだったので
ミナミは疲れて速度を落とし
早歩きの状態になった

にゃあ

住宅街を抜けた辺りで
草っぱらにちょこんと座る
黒猫を見かけた


 ごめんね。
 いま、ちょっと急いでるから
 相手してるヒマはないの。
── ミナミ


ミナミは
申し訳なさそうに黒猫に話しかけた

黒猫の眉間には第三の眼のように
見かけない宝石が埋まっていた


 不思議な黒猫…。
── ミナミ


後ろ髪引かれつつも
ミナミはおばあちゃんの家へ急いだ


〜 ヤスメヤセン・郊外 丘陵地帯〜


ミナミはやっとの思いで
丘陵地帯に着いた

まだ真昼間で
三つある太陽のうち
全てが上に位置していた

日照りもあったので
厚手のフーディーを着ていた
ミナミは汗だくだった

幸いにも
運動靴を履いていたので
靴擦れはしなかった

丘陵地帯の住宅街には
立派な門があり
おばあちゃんの家は
五列並んだ住宅街の中の
入り口から見て
左から三列目
奥に五軒目の家だ

どの家も家庭菜園と呼ぶには
立派すぎるくらいの畑を持っていて
自給自足するには申し分ない程度だった

丘陵地帯には放牧地もあり
家畜は全てそこで放し飼いされていた

放牧地からは
ヤスメヤセンの市街地が一望でき、
圧巻の一言に尽きる

ミナミは魔女の城のような
おばあちゃんの家を見つけると
植物園のような庭を潜って
玄関のドアをノックした


 お ば あ ちゃ〜 ん。
ミ ナ ミ が 来 た よ〜。
── ミナミ


ミナミはできるだけ大きめの声で
ゆっくり話したが
中から人が出てくる気配はなかった
古城のような豪邸の玄関で
ミナミはひとりぼっちになった

庭には真っ赤に実った
トマトの蔓が見えている

試しにドアを開けてみると
ガチャリ
と、いとも容易く開いてしまった


おばあちゃん?
── ミナミ


ミナミは不審に思い
急いで家の中に入った


つづく

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