渦巻く業火【天候術師のサーガ 12】
〜 イノリゴ島 海岸沿いの道 〜
ナナミは一目散に
自宅のある方向へ走り出した
ナナミっち!
まぢ危ないって!
戻ってよ〜!
── 島ギャル、アガヴェ
アガヴェは
なんの準備もせずに
火災現場へ向かう
ナナミを制止したが
アガヴェの忠告も聞かず
ナナミは走り去ってしまった
オロぴょん…、
ど〜しよ〜。
ナナミっちが行っちゃった…。
なんかさ、さっきみたいに
雨降らせる魔法出せない?
── アガヴェ
咄嗟に出た魔法だったから
やれって言われてできるかな…。
とりあえず、ナナミを追おう。
── 泣き虫オロロン
慌てふためくアガヴェをよそに
オロロンは
妙な冷静さを保っていた
ふたりは
ナナミのあとを追いかけた
〜 イノリゴ島 海岸沿い ナナミの家 〜
ナナミは
自宅のあった場所に着いたが
そこはすでに火炎が逆巻く
灼熱の地獄へと変貌していた
そんな…。
大切なお家が…。
── イノリゴ島の少女、ナナミ
ナナミは一瞬、
その場に泣き崩れたが
ふと我に帰り
ナミナおばあちゃんの捜索を開始した
ナナミは
玄関にバケツがあったことを思い出し
燃え盛る業火の中へと飛び込んだ
しかし、
それ以上は進めなかった
ナナミはバケツを持って
海岸まで降りると
海水を汲んできた
バケツはさほど大きくないため
僅かに入った海水を火にかけては
水を汲んでくる作業を
かれこれ五十往復ほど行っていた
おばあちゃん!
居たら返事して!
── ナナミ
バケツで海水をかけるものの
裏山からの火災も迫っているため
火はただ燃え拡がるだけだった
程なくして
アガヴェとオロロンが
ナナミの家の場所へとやってきた
オロロンは
先程まで生活していた家が
火炎の餌食になっている様を
目の当たりにしてこころが痛んだ
そして、
ナナミが別人のように
ぐしゃぐしゃな泣き顔を
見せていたことが
彼の中の何かを目覚めさせた
オロロンは
自身の中で湧き起こる
説明不能な感情を
抑えきれないでいた
オロぴょん、
ぼ〜っとしてないで長靴!
長靴貸して、水入れるから!
── アガヴェ
オロロンは
アガヴェの問いかけに応じず
静かにナナミの家の中へと
入って行った
13へつづく
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