人生のエンドロール / ワタヌキの手紙
父さんへ
ぼくを男手ひとりで育ててくれて
ありがとう
とても厳しかったけれど
それがやさしさだったと
今だから気づくことが
多いです
父さんが笑った顔を
ぼくが見たことはない
けれどもきっと
こころでは笑っていたことも
あったろうし
厳しい顔の下や
ぼくの見ていないところで
泣いていたことも
あったかも知れないね
あまり感情を表に出さなかったけれど
ぼくにはその時々の感情が
なんとなく分かっていたよ
魔法使いの母さんに
似たのかもね
ぼくは父さんと
父さんの作る
ぬいぐるみが大好きだった
最初はいやいや始めた
ぬいぐるみ作りだったけれど
いつしかぬいぐるみ工房を
次ぐ話なんか出て来たりして
ぼくは内心嬉しかったよ
けれども父さんのかわいい
ぬいぐるみに対して
ぼくのは怪物ばかりだったね
もっと大衆受けのするものが
作れないのかと
たくさん怒られたけれど
どうやらぼくには
こんなものしか
作れないみたいなんだ
ぼくが納得出来るものは
かわいいぬいぐるみではないんだ
こころに生まれた怪物を
具現化することが
ぼくのやりがいなのかも知れないね
みんなきっと
こころのどこかに怪物を飼っていて
気づかないうちに
大きくなって
自分ではどうしようもなくなって
しまうことが
多いと思うんだ
きっと父さんだって
怪物を飼っていたに違いない
みんなどうしようもなくなって
手に負えなくなると
そこから目を背け始めるんだ
自分が飼っていたペットが
大きくなって手に負えなるみたいにね
人間として成長するということは
その怪物を手懐けながら
人生をともにしていくことなんじゃないかと
ぼくは思うんだ
だからぼくはこれから
こころの怪物と向き合うための
旅に出ます
帰って来られるかは
分からないけれど
いつでも父さんのことを
思っているよ
ワタヌキより
◆ 戦利品 ─【不思議な呪文】