
奇妙な雨雲【天候術師のサーガ 10】
爆炎はみるみるうちに
衝撃波へと変わり
ナナミとオロロン
アガヴェの三人を巻き込んだ
わぁぁぁぁあ!
── ナナミ、アガヴェ
しばらく爆風は収まらず
砂浜に伏せて動けない三人は
砂を被り続けた
目も開けられず
辺りで何が起きているのか
全くわからなかった
熱っつ…。
── イノリゴ島の少女、ナナミ
動けない三人を
焼けるような熱風が襲った
アメアメフレフレ、
モットフレ…。
── 泣き虫オロロン
爆風の中
お互いの声は
聞こえないにも関わらず
ナナミとアガヴェの耳には
轟音の合間を縫って
静かなオロロンの声が
聞こえてきた
オロロンくんが
なんか言ってる!
── ナナミ
ナナミっちが
なに言ってるか
聞こえないのに、
オロぴょんの声だけ
聞こえるぞ!
── 島ギャル、アガヴェ
オロロンが
謎の呪文を唱え終えると
三人のすぐ真上に
雲ひとつない青空に
似つかわしくない
小さな雨雲のようなものが出現した
奇妙な雨雲は
依然続く爆風をものともせず
三人のすぐ真上に位置していた
雨雲から雨が降り始め
爆風の熱波を相殺した
局所的豪雨の降る三人の真下と
爆風が吹き荒れる外の間には
蒸気の壁が浮かび上がり
その周囲だけ霧が発生していた
熱風の次は雨〜?
でも、熱いのから助かった!
── ナナミ
またびしゃびしゃだ〜!
── アガヴェ
程なくして爆風が弱まった
辺りは奇妙な静けさを携え
周りの天気とは不釣り合いな
三人の真上の雨雲から降る
局所的豪雨の雨音だけが
響き渡っていた
爆風…、止んだか?
── オロロン
オロロンは辺りを注意深く警戒して
爆風が収まったことを確認すると
ふらぁっと砂浜に倒れ込んだ
オロロンくん?
大丈夫?
しっかりして!
── ナナミ
ごめん、ありがとう。
大丈夫。
多分、久しぶりに願力を
使ったから…。
── オロロン
力って、
今の雨はオロぴょんの魔法なん?
── アガヴェ
どうやらそうみたい。
頭の中に
咄嗟に呪文が浮かんできたんだ。
── オロロン
てぇことは
魔導スタンプ
押してあんの?
── アガヴェ
いや、ぼくにはそんなものは…。
── オロロン
そう、オロロンくんには
スタンプは見当たらなかった…。
── ナナミ
ナナミっち、
どうしたの?
そんな深刻そうな顔して。
── アガヴェ
家が…。
── ナナミ
え…?
── アガヴェ
アガヴェは後ろを振り返ると
遠くでナナミの家をはじめ
裏山や森で
大規模な火災が起きていた。
11へつづく