師団長ユースコール【天候術師のサーガ 17】
ナナミたちのいる場所は
霧雨のような雨だが
ハットを被った
紳士風の奇妙な仮面の青年のいる場所は
土砂降りで視界がよく見えないほどだった
森の木々に生い茂った葉っぱが
視界を遮るように
大量の雨粒がナナミたちの視界を遮っていた
サミダレは確かにそこに上陸しているはずなのに
ナナミたちには正体不明の
大きな影としか認識できなかった
まるで
夢でも見ているかのように
ナナミたちの頭の片隅には
雨が降って幻想的にさえ見えていた
やぁ、ご機嫌よう、お嬢さんたち。
ひとつお願いがあるのだが、
その背中に背負ってる子を
こちらに渡してくれないかな?
我々の大切な仲間なものでね。
── ハットの男
だ、誰なの…?
── イノリゴ島の少女、ナナミ
おっと、申し遅れたね。
私は雨の師団、師団長ユースコールだ。
以後お見知り置きを、
と言いたいところだが
きみたちはこの瞬間の出来事を
この先思い出せまい。
私は礼儀を重んじる。
だから名前だけは伝えておこう。
顔は見せてはいけない決まりなのでね。
仮面の下から失礼するよ。
──師団長、ユースコール
ユースコールは
白地に縦棒線が目のように入った
奇妙なデザインの仮面を押さえ
ハットを目深に被り直した
ゼリー嘔吐って、
なんか汚ったない名前ね。
宗教団体かなんかなん?
── 島ギャル、アガヴェ
アガヴェちゃん、
多分、レインコートって
言ってたよ。
流石にそんな汚い名前、
つけないでしょ。
── ナナミ
ユースコールは
徐々にナナミたちに近づいてきた
歩いているようには見えないが
距離は確実に近づいていた
本体を確認する前に残像になり
目で追えなくなっている状態だった
まるで幻術師のような挙動だ
ユースコールは
ナナミたちに近づく過程で
自身の右手に
水の球体のようなものを生成した
ふよふよ浮くそれは
鉢の無い金魚鉢のようにも見えたが
果物のように
どこか美味しそうにも見えた
我々の高貴な名前を侮辱することは
断じて許さんぞ。
褐色の少女よ、
腹が減っているのならば
これでも喰らうがよい。
── ユースコール
ユースコールは
右手に浮かせた水の球体を
アガヴェの頭に打ちつけた
すると水の球体は
アガヴェの頭をヘルメットのように包み込み
彼女は水に覆われた
がばぼっ…!
── アガヴェ
アガヴェは
地上にいるにも関わらず
水に溺れていた
いくら外そうとしても
水の球体は外れなかった
アガヴェちゃん!
── ナナミ
ナナミはアガヴェを助けようとしたが
どうすれば良いかわからなかった
18へつづく
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