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いつかの記憶【天候術師のサーガ 6】

 ふぅ〜、極楽極楽。
 ── しまギャル、アガヴェ



アガヴェの素顔は
まるで別人に変貌したかのようだった



 アガヴェちゃん、
 すっぴんかわいいじゃん!
 ── イノリゴ島の少女、ナナミ


 えへへ、そぉ〜?
 ホントは
 本命にしか見せないんだけど
 今日は特別見・せ・た・げ・る♡
 ── アガヴェ


ギャルメイクを落としたアガヴェは
切れ長の目に薄い唇で
クールビューティーといった印象だった

オロロンも少し驚いた様子だったが
警戒するそぶりは見せなかった


 んじゃ、私たちも入ろ。
 ── ナナミ


ナナミはオロロンを
強引に風呂場へ連れて行き
汚れた服を脱がせた

オロロンは顔を真っ赤にしたが
ナナミは彼の身体を見て
固まってしまった


 ひどい傷…。
 誰がこんなこと…。
 痛かったよね。
 ── ナナミ


オロロンは全裸だったが
ナナミの思わぬ言葉に
自然と涙が溢れてきた

自分でもなぜ泣いているのか
わからなかったが
彼女のやさしさが
こころに沁みた


〜 イノリゴ島 海岸沿い ナナミの家 風呂場 〜


 いだだだだ…!
 ── オロロン

 ごめん、ちょっとガマンして。
 ── ナナミ


オロロンにとって入浴の時間は
まるで地獄のようだった

ナナミはTシャツと
ジャージに着替えており
ジャージは
丈を膝くらいまで捲って
オロロンの頭を洗っていた


 ひとりでも入れたかな?
 でも、なんかあったら困るしね。
 私、いやらしい目で見てないから
 大丈夫よ。
 お湯加減はどう?
 ── ナナミ


ナナミはそう言いながらも
目は充血しており
鼻息は少しだけ荒かった


 うん、大丈夫。
 結構滲みるけど…。
 ── オロロン


オロロンは頭の泡が入らないように
ほとんど目を閉じていたが
頭を洗うナナミの手つきは
どこか安心できるものだった


 ねぇ、あの被ってた仮面は
 お守りかなんかなの?
 ── ナナミ

 仮面…?
 ── オロロン

 うん。
 被ってたじゃん、
 あのちょっと不気味なやつ。
 ── ナナミ

 仮面…、あれ、
 なんだっけ…?
 とっても大切なものだった気がする…。
 うぅ…!
 ── オロロン

 え、大丈夫?
 頭痛いの?
 ── ナナミ


オロロンは頭を抱え
床にうずくまった


 "オロロン、
 必ず戻ってくる。
 それまでこれを
 預かっていてくれ。"
 ── 謎の声の回想

 にい…さん…?
 ── オロロン


ばしゃあ!

ナナミは泡だらけの
オロロンの頭を
お湯で流した


 ねぇ!大丈夫?
 ── ナナミ

 思い出した…。
 あれは、兄さんの…。
 ── オロロン

 お兄さん…
 の形見…なの?
 ── ナナミ

 兄さんは…、
 絶対生きてる…。
 ぼくに
 必ず戻るって…。
 ── オロロン

 そっか…。
 じゃあ、明日から
 お兄さん、探そ?
 もう頭痛くない?
 ── ナナミ

 うん、大丈夫。
 ありがとう。
 ── オロロン


 * * *


 よし、これで完ペキ。
 これ、着ていいからね。
 汚れた服は
 洗濯するから
 そこのカゴに入れといて
 私もお風呂は〜いろ。
 ── ナナミ


ナナミはおもむろに
服を脱ぎ出した


 え、ちょっと…!
 ── オロロン

 あ、あぁ〜、
 ごめん、ごめん。
 やっぱ年頃の男の子の前で
 フツーに裸になるの
 よくないよね。
 いつものくせで…。
 ── ナナミ

 う、うしろ向いて着替えるから
 その間、入って…。
 ── オロロン

 わかった。
 ── ナナミ


オロロンは内心
かなりどきどきしていたが
振り返りたい衝動を抑えて
着替え終えた

オロロンは
ナナミの作った
ドラゴンの刺繍が入った
ジャージを履き
上は独特のキャラクターが印刷された
Tシャツを着ていた

居間はすでに電気が消えており
ナミナおばあちゃんは寝たようだった

ナナミの部屋に戻るために襖を開けると
アガヴェが
ナナミの作った
中華風レオタードを着ていた


 わっ、わぁ!
 入るならノックくらいしてよ〜!
 ── アガヴェ


オロロンは鼻血を出して
卒倒してしまった。


7へつづく

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