デジタル音声広告の効果的なコンテンツとは? ポイントと事例
いま、Spotifyやradikoなどに出稿するデジタル音声広告に注目が集まっています。
広告で流す音声コンテンツは、これまでに制作したテレビCMやYouTubeチャンネルにアップした動画の音声を活用するのではなく、広告用として制作することが多いのですが、どんな音声コンテンツであれば広告の目的(聴き手の意識・行動変容)を達成できるのでしょうか?
本記事では、デジタル音声広告のコンテンツを企画する際におさえておきたいポイントをご紹介します。他社のコンテンツと差別化したい企業やブランドにもおすすめです!
音声広告の制約とクリエイティブに求められるポイント
音声広告は、視覚と比較したときの情報伝達の速さや、ながら時間へのアプローチができることなどの強みを持つ一方で、Spotifyやradikoなどの音声メディアに出稿するからこその制約があります。
それは、デジタル上で行う他のマーケティング施策とは違って、クリエイティブに映像や画像を使用できないということです。視覚情報を届けられないため、音声・音楽といった限られた表現方法で、聴き手のアテンション(注目)を獲得し、意識・行動変容を促すことが求められます。
いかに音声だけでアテンションを獲得することが重要か、2つのデータを見てみましょう。
音声コンテンツは、スマートフォンが1台あれば収録から編集、アップロードまで完結(特に動画に比べて編集が容易に)できます。
これまではアナウンサーや声優などの音声のプロが環境の整った場所で収録していましたが、いまはインフルエンサーなども自由にコンテンツを収録・配信できることで、音声配信サービスには(もはや選びきれないほど)豊富なコンテンツが公開されました。
2021年6月28日にSpotifyが開催した国内の音声事業に関する説明会(※1)では「ポッドキャストの番組数は、2018年1月は1万から現在は260万に増加」したと伝えられ、約3年半で増えた膨大なコンテンツの中で注目を集める必要性が高まったと言えます。
※1 Impress Watch「日本でも“音声”強化するSpotify。クリエイター支援を拡充(2021年6月29日)」
また、ビデオリサーチとSpotifyが実施した「Z世代と音声メディア」に関する調査・分析研究(※2)によれば、Z世代(本調査では2020年時点で15~23歳対象)の音声メディアユーザーは「半数以上が音の出るメディアを2つ同時に利用する『W音声』を体験」していると言及されています。
Z世代の音声メディアユーザーのうち、音楽を流しながら「音を出してテレビを見た」は6割、また、3人に2人が音楽を流しながら「音を出して動画を見た」経験があり、音の出る複数のメディアに同時に接触することへの抵抗感が少ないことが明らかになりました。他世代でも音楽はBGMとして流しながら、他の音声サービスの利用や生活行動をするということはありますが、Z世代に特徴的だったのは、音楽を共有しながらの通話、音声をダブルで流す場合も、その時々でより聞きたい方に耳を傾けるといった、音声ならではの特性やニーズに合わせて上手に使い分ける、耳をマルチタスクに使いこなす様子が多くみられたことでした。
※2 ビデオリサーチ「Z世代に拡がる「音声メディア」、音楽配信は6割が利用~耳をマルチタスクに使い分け、テキストより通話、女性は“人の声”で寂しさ解消~(2021年6月23日)」
若年層は複数のメディアを利用しながらも、より聴きたいコンテンツに耳を傾ける(選ぶような)傾向にあることが分かります。
他のことをしながら音声コンテンツを聴いたり(ながら聴き)、複数のコンテンツを同時に聴いたりする人たちに対して、企業やブランドはアテンションを獲得し、しっかり聴いてみようと耳を傾けてもらえる状態にすることが重要です。
音声広告コンテンツの鍵は「エンターテインメント性」
音声広告によってアテンションを獲得し、耳を傾けてもらうには、どんなことを意識してコンテンツを企画すればいいのでしょうか?
どちらも共通しているのは「エンターテインメント性(以下、エンタメ性)」です。聴き手に楽しんでもらうコンテンツであればあるほど、アテンションを獲得し、耳を傾けてもらうことができます。
ここからは、エンタメ性のある音声広告コンテンツを企画するポイントを3つご紹介します。
① トライブやファンダムを意識したキャスティング
キャスティングを考える際は、誰に向けて音声広告コンテンツを届けるか(ターゲット)を考える必要があります。
マーケティング施策の場合、ターゲットをF1やM1層といった性別・年代の区分で考えることも多いと思いますが、他にも「トライブ」と呼ばれる趣味嗜好(旅行やキャンプ、ガジェット、ゲーム、お笑い、美容など)のある人たちや「ファンダム」と呼ばれる区分もあります。
ファンダムとは、トライブの中でも特に熱狂的なファンの集まりのことを指し、熱狂する対象は、音楽やアイドル、ドラマ、アニメ、漫画、スポーツなどのエンターテインメント(以下、エンタメ)に関する人やキャラクター、作品自体であることが多いです。
ファンダムを狙い、それらの人やキャラクターをキャスティングすることでアテンションを獲得しやすいだけでなく、「好きな人やキャラクターが出演しているから」という理由で購入につながる可能性が高まる傾向にあります。性別や年代だけでなくトライブやファンダムといった区分でターゲットをより明確にし、ターゲットが反応しやすい・好意をもつ人をキャスティングすることがポイントです。
② 音声ならではの演出
音(音声)の聴こえ方を工夫すると、アテンションを獲得したりエンタメ性のあるコンテンツに幅をもたせたりすることができます。たとえば、3D音声を録音する際に使われる「バイノーラル録音」を活用すると、音が立体的に聴こえて臨場感のあるコンテンツになります。
以下でバイノーラル録音された音声を聴くことができます。ぜひ体験してみてください(ヘッドホンやイヤホンの使用がおすすめです)。
360°あらゆる方向から音が聴こえてきたり、左右から複数の人に話しかけられているようにしたり、斬新な体験や没入感を提供できることが特徴です。①でキャスティングした方にあわせて演出を考えると、よりエンタメ性のある企画になります。
バイノーラル録音以外にも、ASMRや声・音のボリュームを上下する(極端ですが無音にしたり、叫んだりする)方法なども考えられます。
③ 聴き手が唸るようなストーリー
ストーリーとは、一般的にコンテンツの脚本を指すことも多いですが、ここでは脚本に①キャスティングと②演出が組み合わさり、聴き手が想像して補完することによって成立するものを指します。
音声広告は、(映像や画像がないことも相まって)聴き手が自由に情景を想像できることも利点の1つです。誰しも話や会話を聴いたとき、自然とその場面を思い浮かべて、何かを感じることが多いと思います。多くの人に共感させ(自分ゴト化させ)、思い浮かべてもらい、聴き手が思わず唸るようなストーリーを構成することが大切です。
調味料メーカーの音声広告コンテンツに、2021年にご結婚された星野源さん・新垣結衣さんを起用した例を考えてみます。2人といえば、2016年に夫婦役で共演したテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(以下、逃げ恥)」が記憶に新しく、2人が料理しながら調味料について会話するようなシーンにすると、2人に関心を寄せていれば「あ、逃げ恥の2人だ!」と気づき(アテンションの獲得)2人の会話に聴き入る(耳を傾ける)方が多いと思われます。
また、2人の声が左右のイヤホンから聴こえるような(バイノーラル録音された)音声にすると、あたかも自分が2人に挟まれながら一緒に料理しているような場面すら想像でき、より興味を引くこともできるでしょう。
加えて、逃げ恥のシーンが想起されるような会話がされると、2人のファンダムだけでなく、ドラマのファンダムも「すごい」「こういうコンテンツが聴きたかった」と思わず唸るようなコンテンツが実現できます。
キャスティングや演出、脚本が組み合わさったストーリーであれば、音声コンテンツを聴いている方から褒め言葉のようなリアクション(さすが!/ありがとうございます/分かってるね!)を引き出し、感想などを書かれたUGCがソーシャルメディアに投稿されるといった副次的な効果も期待できます。
企業やブランド名、商品のベネフィットを単調にアナウンスするような音声広告コンテンツより、①~③によって企画したエンタメ性のあるコンテンツの方が広告の目的(聴き手の意識や行動変容)を達成できるというのは、想像に難くないのではないでしょうか。
音声広告コンテンツの好事例
最後に、音声広告の事例をご紹介します(ネイン・Wantedly・Diner ダイナーは、各サイトから配信した音声広告を聴くことができます)。
・オーディオテクニカ「ATH-ANC300TW」
音響機器メーカー オーディオテクニカのノイズキャンセリングヘッドフォン「ATH-ANC300TW」の音声広告事例で、声優の内田真礼さんと内田雄馬さんを起用しています。
2人は姉弟としても知られていますが、これまで共演したコンテンツは少なかったことから、共演自体が2人のファンダムの好意的なリアクションにつながりました。また、(声優だけでなく)歌手として活動していることを踏まえた脚本にすることで、広告に対するUGCが多く投稿されました(「え、何これ、どういうこと!?」「姉弟でそろえるなんてずるいですよオーディオテクニカさん…」など)。
事例の詳細は、以下からもご覧いただけます。
・ネイン「Zeeny Lights」
ヒアラブルデバイス(イヤホン型のウェアラブルデバイス)の「Zeeny(ジーニー)」シリーズを手掛けるネインは、「Zeeny Lights」の認知拡大を狙った音声広告を配信。
LINEやメール、ニュースアプリなどの通知がスマホに届いた際にその内容を読み上げる機能を、「Zeeny」で流れる音声のまま伝えるというクリエイティブで展開しました。
以下の東洋経済オンラインに掲載された記事には、同時にインフルエンサーマーケティングを実施した結果、インフルエンサーに紹介されたものが広告によって「信頼できる商品」であるというブランディングにつながり、売り上げが伸びたと紹介されています。
・Wantedly「ENERGY MUSIC PROJECT」
ビジネスSNS「Wantedly」は、つながり管理アプリ「Wantedly People」の400万ユーザー突破を記念して「ENERGY MUSIC PROJECT」を展開。
プロジェクトでは、m-floをはじめとしたアーティスト4組が“ビジネスパーソンを超集中へ導く作業用BGM”を制作し、その音楽(一部)を聴ける音声広告を配信しました。
同じく東洋経済オンラインの記事では「『ブランドリフト調査』の結果では、今回の出稿により、楽曲を認知した人の割合は広告接触者が非広告接触者に比べて、11.8%上回った。さらに、好印象を持ったと答えた人も、非接触者に比べ接触者が17%も上回る結果に」と紹介され、音声広告がブランドに対する好意度に貢献したことが分かります。
・映画「Diner ダイナー」
2019年7月5日に公開されたワーナー・ブラザース映画配給の作品「Diner ダイナー」は、俳優・藤原竜也さんのセリフを使った音声広告を配信。
Spotify Advertisingの記事に書かれた、ワーナー ブラザース ジャパン マーケティング本部 足立氏のコメントによると「音声広告のために、このセリフをわざわざバイノーラル化した(映画本編では通常録音されている)。ヘッドホンやイヤホンで聴くと、まるでボンベロが頭の周りをぐるぐる回っているかのように聴こえる」そうで、実際に聴いてみると、まるで自分が映画の世界の中にいるかのような感覚になります。
音声ならではの演出でアテンションを獲得した好事例であり、既存のクリエイティブ(映画撮影時に収録した音声)を活用するのではなく広告用の特徴的なクリエイティブを配信したことも影響して、結果(一般的な Spotify デジタル音声広告 のCTRに対して2倍以上)につながったと考えられます。事例の詳細は以下をご覧ください。
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音声や音楽で、聴き手のアテンション(注目)を獲得し、意識・行動変容を促すこと。そのためには、キャスティングや演出、ストーリーを意識したエンタメ性のある企画が重要であることをご紹介しました。音声広告コンテンツを企画する際に、ぜひお役立てください。
トライバルのエンターテインメントマーケティングレーベル「Modern Age/モダンエイジ」は、企業やブランドの音声広告コンテンツの企画から制作、運用、レポーティングまでを一気通貫でご支援しています。音声マーケティングに興味のある方は、以下よりお問い合わせください。