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はじめてアケビの花を見た!

7年も前に植えた苗に花が咲いた

ある日、垣根の前で掃き掃除をしていると、自転車を止めて話しかけてきた男性がいた。「あのー、あれはアケビの花ではありませんか?」と、指し示された指先、藤の花が咲き始めた垣根のてっぺんに、黒いつぶつぶした花のような植物が確かに見えた。「え!アケビ」なぜ、なぜと、言葉が駆け巡った。確かに今から7年も前に、垣根から4メートル離れた、庭のフェンス脇にアケビの苗を植えていた事があった。いつの間にかフェンスに絡んだアケビのツルを見かけないと思っていた。ビワの木が大きく育って暗い影ができたので、消えてしまったのだと思っていた。見かけなくなってからはもう3年くらい立つような気がする。

このアケビは私にとっては思い出の樹で、じつは、とても大切に思っていたのだ。人は時々、考えたくないことに蓋をする。些末な事は忘れるが、大切なことほど、いやな結果は知りたくないと、答えを出さずに心の奥に沈めてしまう。

このアケビの苗は「エミ姉ちゃん」に貰った大切なものだった。その人は、商家だった私の実家に、昔々、住み込みで働いていた店員さんで、幼い私は彼女に良くなついていて、大好きな人だった。ウチで長く努め、その最後には、埼玉県に嫁いで行った。我が家で花嫁衣装を着て二階の部屋で結婚式を挙げ、送り出した後は、小学生だった私の前から消えてしまった。いつまでもエミ姉ちゃんが恋しかった。

10年前に私の兄が亡くなり、そのお葬式で、疎遠になっていたエミ姉ちゃんに再開し、7年前には自宅まで遊びに行った。その時に貰ってきたアケビの苗だった。故郷の佐渡の山を思い出すからと、アケビを植えていたエミ姉ちゃんの思い出をズッと側に置いておきたいと思って植えた。ツルが消えてしまって心配だったが、確かめたくなかった。無意識に忘れたいと思っていたのだろう。

あのアケビが垣根の日当たりの良いてっぺんまで伸びて、花を咲かせていたなんて!と、植物の底力を感じつつ、教えてくれた男性に心から感謝した。「こんな東京の街中で、珍しい」と、嬉しそうに教えてくれた。葉の形も花の色も分からなかった私は、たぶん春には垣根を刈り込んでしまったかも知れない。本当にありがとうございました。神様にもありがとう。


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つるるん(鶴屋なほみ)
え!!サポート! まさか、ソコまでは考えておりません、誰かの目にとまり、楽しんでいただければとってもHAPPYです。