Winny事件
こんにちは。
若者たちと会話していて、「昔は音楽をMDで聴いたものだ」と話すと、液体窒素があるんじゃないかと思うぐらいに、その場を凍り付かせてしまった松下です。
さて、音楽をデータ化してスマホで聴くことが当たり前になっている時代ですが、このデータの共有方法によっては著作権違反が問題となることをご存じでしょうか。過去には、データの共有方法の開発者が著作権法違反の幇助をしたという理由で逮捕された「Winny事件」(最判平成23年12月19日裁判所ウェブサイト)がありました。その後の裁判で無罪となるのですが、改めて法律違反の疑いがどこにあったのかを検討してみたいと思います。
1 どんな事件だったのか
プログラマーの金子勇さんは、P2P技術を用いたWinny(ファイル共有ソフト)を開発しました。個人同士でデータを共有できるシステムで、フリーソフトでもあったことから、多くの人に利用されていました。しかし、金子勇さんが注意を呼び掛けていたにもかかわらず、違法ダウンロードされたデータを個人間で共有することにも使われていました。
金子勇さんが東京大学大学院情報理工学系研究科の特任助手に在籍していたときに、群馬県高崎市の41歳の自営業者と、愛媛県松山市の少年がWinnyを用いて、映画などの作品を送信できるようにしていたことから、著作権法違反で京都府警察に逮捕されるという事件が発生しました。
すると今度は、Winnyを開発して、利用者が違法コピーをすることを可能にしたとして、京都府警察は金子勇さんを著作権法違反の幇助容疑で逮捕したのです。
2 検察側の主張
Winnyは著作権侵害のみを目的とした社会的な有用性を欠くソフトである。金子氏はWinnyによって著作権侵害がインターネット上にまん延することを意図して開発し、公開しているのだから、著作権侵害罪の幇助犯に当たる。また、Winnyが違法に使われているという実態を知った後も、なお開発を続けていたことは非常に悪質である。Winnyを使った違法コピーや情報流出で経済的損失は累計100億円に及んでいるんだ。
3 金子勇さん側の主張
Winnyは犯罪のためだけに存在しているわけではありません。このソフトにはP2Pという画期的な技術が用いられており、これは世界を変える可能性があるのです。
また、そもそも逮捕された愛媛県松山市の少年や群馬県高崎市の自営業者とは面識はなく、金銭の受け渡しもありません。開発者を著作権侵害幇助罪で起訴するのは、包丁を使った殺人事件で、包丁を作った職人や販売した店を殺人幇助罪で起訴するのと同じではありませんか。
4 下級審の判決
京都地方裁判所(第1審)の裁判長は、Winnyが著作権を侵害する方法で広く利用されていることを金子氏が認容するなどしていたことなどから、金子氏に罰金150万円の有罪判決を言い渡しました。
これに対して大阪高等裁判所の裁判長は、悪用される可能性を認識しているだけでは幇助罪には足りず、専ら著作権侵害に使わせるよう提供したとは認められないとして、金子氏に無罪判決を言い渡しました。
5 最高裁判所の判決
Winnyは、著作権侵害のみを目的としたソフトではなく、適法な利用も違法な利用もできる、「価値中立的なソフト」である。入手者のうち例外的といえない範囲の人が著作権侵害に使う可能性を認識、認容して、Winnyを提供していたと認めることは困難である。よって、金子氏に著作権法違反罪の幇助犯の故意がないので、無罪とする。
6 P2P技術がブロックチェーン技術に応用される
金子勇さんは、42歳でなくなりましたが、そのP2P技術はLINEやSkype、ブロックチェーン技術(暗号資産)でも用いられています。
今回のケースでは、著作権侵害を助長する明確な意図がある場合にのみ、ソフトの開発者や配布者が責任を問われることが明らかになりました。世界に通用する有能なソフトウェア開発者を失ったことは、日本全体に多大な損失を与えたかもしれませんね。
では、今日はこの辺で、また。