携帯電話コタツ低温やけど事件
こんにちは。
世界では、スマホやモバイルバッテリーが爆発する事故が後を絶ちません。
製品の安全性をめぐって、日本ではかなり厳しいテストが行われていますが、それでも製品による事故が起こる可能性があります。今日は、スマホではなくガラパゴス携帯と呼ばれる日本の携帯電話で起きた事故(仙台高判平成22年4月22日裁判所ウェブサイト)について紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
宮城県亘理町の男性(54歳)は、ズボンのポケットに携帯電話を入れながらコタツで飲食した後に、うとうとして、やがて眠りについてしまいました。午前1時から2時頃、男性は突然、左ふとももの痛みで目を覚まし、よくみると左ふとももにやけどを負っていました。
病院では、医者から「熱傷2度」「左大腿部に携帯電話の形に一致した熱傷による紅斑を認めます」との診断を受けました。そこで、男性は製造物責任法(PL法)に基づき、パナソニックモバイルコミュニケーションズ(横浜市)に対して約545万円の損害賠償を求めました。
2 男性側の主張
私にはアレルギー等の皮膚症状はなく、ポケットに入れたNTTドコモ「P503iS」の携帯電話の形状や位置から、低温やけどを負ったのはこの携帯電話によるものであることは明らかである。リチウムイオン電池は、本来的に発熱の危険性があり、現に発熱事故が多数発生していることが明らかになっているので、私の携帯電話が低温やけどをもたらすほどに発熱することは十分にあり得るし、実際に発熱したので設計上又は製造上の欠陥があることは明らかである。
仮に、コタツの輻射熱又は対流熱の影響により携帯電話が加熱されていたとしても、製造者としては携帯電話の使用に際してポケットに入れたままコタツに入ればやけど被害が生じることを製品の使用者に対して警告する義務があり、これを怠っていたので、警告表示上の欠陥があるというべきである。
3 パナソニックモバイルコミュニケーションズの主張
男性の主張するやけどの時期が2転3転しているので、信用性に乏しいです。とくに、時系列でみると、男性は低温やけどをしていたにもかかわらず、入浴していたことになるのではないでしょうか。また、携帯電話のアンテナ取付部分は、構造上空洞となっていまして、かつ、材質も樹脂でできているので、その部分がやけど被害を及ぼすほど加熱することは考えられません。こたつの発熱のみによってやけどを負うなど、他の原因が考えられるのではないでしょうか。
私どもは、携帯電話の温度上昇の実証実験を行いましたが、42度を上回ることはありませんでした。低温やけどを負うためには少なくとも44度の熱源が長期間にわたって皮膚に触れる状況が必要なのです。さらに奇妙なことに、異常加熱した携帯電話機なら、その後は使用不能になるはずなのですが、男性の携帯電話はまだ正常に使えているのではないでしょうか。
携帯電話の取扱説明書には、携帯電話を高温の熱源に近づけないようにとの警告表示がきちんと書いてあります。通常人の理解でも、コタツの熱源は、まさに高温の熱源にあたるのではないでしょうか。そうすると、私どもに警告表示上の欠陥はないと思います。
4 仙台高等裁判所の判決
携帯電話機の特性から、これをズボンのポケットに収納することは当然通常の利用方法であるし、その状態のままコタツで暖を取ることも、その通常予想される使用形態というべきである。
ちなみに、パナソニックモバイルコミュニケーションズも、ズボンのポケットに収納したままコタツで暖を取ることを取扱説明書において禁止したり、危険を警告する表示をしてないところである。なお、パナソニックモバイルコミュニケーションズは、取扱説明書の本件携帯電話を高温の熱源に近づけないようにという警告表示がこれに当たるかのような主張をするが、コタツがそこにいう「高温の熱源」に当たるとは直ちにはいい難い。また警告表示が、ズボンのポケットに収納した状態のままコタツで暖を取るという日常的行為を対象にしているとは到底解されない。
携帯電話機には、その使用中に温度が約44度かそれを上回る程度の温度に達しそれが相当時間持続する(異常発熱する)という設計上又は製造上の欠陥があることが認められる。
よって、パナソニックモバイルコミュニケーションズには、男性に対し約221万円の支払いを命じる。
5 裁判所はメーカー側に厳しい?
今回のケースでは、男性は携帯電話が異常発熱した原因を証明することができていませんでしたが、「使っていて問題が生じた」と主張することでメーカー側の責任を問うことができました。また、メーカー側の使用上の警告表示も十分ではないとされていたことから、細かい警告表示をせざるを得ないという側面もありますね。メーカーの責任を考える上で、参考になれば幸いです。
では、今日はこの辺で、また。