スイカと廃墟写真事件
こんにちは。
Youtubeのサムネイルやインスタグラムに芸能人の顔写真を無断使用しても大丈夫なのか?という問題がありますが、基本的に芸能人やインフルエンサーの顔写真は、Youtubeチャンネルの運営者などに著作権がありますので、無断で使うと著作権侵害になる可能性が高いですね。
今日は、似たような写真の著作権が問題となった「スイカ写真事件」(東京高判平成13年6月21日裁判所ウェブサイト)と「廃墟写真事件」(知財高判平成23年5月10日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 スイカ写真事件
写真家の黄建勲(こうけんくん)さんは、「みずみずしい西瓜」という写真集を発行していました。ところが、有限会社さっぽろフォトライブが発行していたカタログ「シルエット in 北海道」に、類似の写真が掲載されていたことから、黄さんは、著作権侵害を理由にカタログの差止めや損害賠償などを求めて提訴しました。
2 東京高等裁判所の判決
写真の素材自体は、西瓜、西瓜の蔓、ブロック状の氷、籐の籠、背景としての青であって、日常生活の中によく見られるありふれたものばかりであることが明らかである。しかし、その構図、すなわち、素材の選択、組合せ及び配置は、全体的に観察すると、西瓜を主題として、人為的に、夏の青空の下でのみずみずしい西瓜を演出しようとする、作者の思想又は感情が表れているものであり、この思想又は感情の下で、ありふれた多数の素材を、本件写真にあるとおりの組合せ及び配置として一体のものとしてまとめているものと認められる。
さっぽろフォトライブの写真に写っている楕円球の西瓜様のものは、冬瓜であると認められる。 さっぽろフォトライブの写真が西瓜をモチーフとする作品であることは、写真自体から明らかであり、自身も認めるところであって、これに冬瓜を加えるのは、明らかに主題に反することであり、通常の社会常識からすれば、異例なことである。逆にいえば、そこには、冬瓜を西瓜に見せかけて加えざるを得なかった何らかの必要があったことを強くうかがわせるものである。
問題となった写真は、作者である黄氏の思想又は感情が表れているものであるから、著作物性が認められるものであり、さっぽろフォトライブの写真は、黄氏の写真に表現されたものの範囲内で、これをいわば粗雑に再製又は改変したにすぎないものというべきである。このような再製又は改変が、著作権法上、違法なものであることは明らかというべきである。よって、さっぽろフォトライブは黄氏に100万円を支払え。
3 廃墟写真事件
丸田祥三(まるたしょうぞう)さんは、廃墟などを撮影した『棄景(きけい)ー廃墟への旅』という写真集を出版していました。ところが、小林伸一郎さんが発行していた『廃墟遊戯』の中に、同じ廃墟を撮影した写真が掲載されていたことから、著作権侵害を理由に628万円の損害賠償などを求めて提訴しました。
4 知的財産高等裁判所の判決
丸田氏の写真は、群馬県松井田町に所在する国鉄旧丸山変電所の内部を撮影したものであるが、書籍「棄景」が全体の基調としているように、モノクロ撮影を強調しハイコントラストにしたものである。丸田氏がこれを翻案したと主張する小林氏の写真は、書籍「廃墟遊戯」に収録されているが、この書籍が基調としているように、枯れ葉色をベースにしたカラー写真である。丸田氏の写真と同じく、旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。しかし両者の撮影方向は左方向からか、右方向からかで異なり、撮影時期が異なることから、写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし、そもそも、撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると、小林氏の写真をもって丸田氏の写真の翻案であると認めることはできない。
また、別の写真をみても、両者とも栃木県足尾町に所在する足尾銅山付近の通洞発電所跡(建物外観)を撮影したものであり、建物右下方向からの撮影であって構図の点では近似している。しかし、撮影対象が現に存在する建物跡であることからすると、たとえ構図において似ていても、写真において表現されている全体としての印象が異なっていれば、一方が他方の翻案に該当するものと認めることはできない。撮影時季が違うことは、特に丸田氏の写真でセピア色の中で白色に特徴付けられて写真左下に写っているすすきが、建物の色感覚をそのまま撮影したであろうと印象付けられる小林氏の写真にはなく、その位置に緑色の植物が写っていることから明らかである。これらの印象の違いと撮影物の違いにかんがみると、小林氏の写真が丸田氏の写真の翻案に当たるということはできない。
そうすると、翻案権侵害をいう丸田氏の主張はいずれも理由がない。よって、丸田氏の控訴を棄却する。
5 依拠性と類似性
今回のケースで裁判所は、類似するスイカの写真が他人の写真に依拠していたことから撮影行為及びカタログに掲載することが著作権侵害にあたるとした一方で、廃墟のような既存の被写体を撮影した写真については、被写体の選択自体に表現上の本質的な特徴はないとして著作権侵害を認めませんでした。
つまり自分で作り出したのではない被写体について偶然似た写真を撮影していたとしても、もとの作品に依拠していないので著作権侵害にならないと考えられますが、人の手を加えた被写体については場合によっては著作権侵害になる可能性があるので、十分に注意する必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。