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長野病院カスハラ事件

こんにちは。

 今日は、病院の職員によるカスタマーハラスメントが問題となった長野地裁飯田支部判令和4年8月30日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 医療機器メーカーの従業員2名が、病院の企画課長から様々な暴行や脅迫を受けたとして、課長と病院を相手に損害賠償を請求しました。

2 長野地裁飯田支部の判決

 従業員は、病院の課長から、カスタマーハラスメントとも言うべき暴行・脅迫等を日常的に受けており、とある日の暴行により、従業員が負った傷害結果自体は、右手の甲に出血を伴う切創で、通院治療を受けずに自然治癒したものであり、比較的軽微であったものの、同日の暴行態様は、カッターナイフという鋭利な刃物を用い、ネックストラップで5~10秒ほど首を絞めるという、生命を脅かしかねない危険かつ悪質なものであったことに照らせば、従業員の恐怖感は相当に大きかったものと容易に想像できる。また、従業員は、自身に何ら落ち度がないにもかかわらず、最大手の顧客である病院との取引関係を壊さないように配慮せざるを得ない弱い立場にあったことから、理不尽な暴行・脅迫等に耐え、通院や被害届の提出も躊躇していたものであり、従業員の屈辱感も相当に大きかったものと容易に想像できる。
 課長と病院らが暴行・脅迫等を否認し、課長に対する暴行事件について有罪判決が確定しても、何らの慰謝の措置も講じていないことも併せて考慮すると、従業員の慰謝料額は40万円が相当である。
 なお、課長と病院らの行為と、従業員が虚血性結腸炎に罹患して入院したこと及び会社を退職したこととの間に、いずれも相当因果関係は認められない。前者については、従業員自身が、刑事事件における証人尋問において、原因不明と診断された旨を証言しており、後者については、従業員と会社との間の問題である。
 別の従業員は、課長から、カスタマーハラスメントとも言うべき暴行・脅迫等を日常的に受けており、その最たるものがとある日の値引強要であった。そして、同日の脅迫態様は、カッターナイフの刃を出したり引っ込めたりしながら値引を迫るという、医療関係者にあるまじき常軌を逸したものであり、現に同僚が刃物で傷付けられる状況を目の当たりにしたことに照らせば、別の従業員の恐怖感は相当に大きかったものと容易に想像できる。また、別の従業員は、自身に何ら落ち度がないにもかかわらず、最大手の顧客である病院との取引関係を壊さないように配慮せざるを得ない弱い立場にあったことから、理不尽な暴行・脅迫等に耐えていたものであり、別の従業員の屈辱感も相当に大きかったものと容易に想像できる。一方で、別の従業員は、同僚とは異なり、課長の暴行により、傷害を負ったことはない。
 課長と病院らが暴行・脅迫等を否認し、何らの慰謝の措置も講じていないことも併せて考慮すると、別の従業員の慰謝料額は20万円が相当である。
 病院側も、民法715条1項所定の使用者責任に基づいて損害賠償の責任を負う。
 よって、課長と病院は連帯して従業員らに対して60万円を支払え。

3 カスハラの不法行為責任と使用者責任

 今回のケースで裁判所は、取引先である病院の職員が医療機器販売会社の営業担当者に対して行った暴行や脅迫行為について、カスタマーハラスメントとも言うべきものであるとして、加害者に対する不法行為責任と雇用主の病院に使用者責任を認めました。
 今後も取引の場面では、安全配慮義務などを根拠として企業側にもカスタマーハラスメントの防止措置などが求められることになるで、注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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