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中央三井信託銀行事件

こんにちは。

 信託銀行は、通常の銀行業務以外に、個人や法人の資産を運用する信託業務や遺言の保管、遺産整理など、高齢化社会で求められる業務を行っているのが特徴的ですね。

 さて今日は、老後の資産運用をめぐって金融商品のリスクが問題となった「中央三井信託銀行事件」(大阪地判平成25年2月20日判例時報2195号78頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 昭和5年生まれで、投資経験のなかった女性は、平成18年の年末に、中央三井信託銀行株式会社の従業員から、中央三井償還条件付株価参照型ファンドと称する投資信託の購入を勧められ、2100万円分購入しました。ところが、平成21年10月9日の段階で、評価額が購入時の半額になっているとの報告を受けたことから、女性は商品の中途解約をし、違法な勧誘によって被った894万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 被害女性の主張

 中央三井信託銀行梅田支店の従業員が、突然、私の家にやってきて、私が理解できない用語を用いて1時間にわたって執拗に投資商品を勧めてきました。私は断り切れず、銀行が勧めるものだから元本割れするようなものではないだろうと考えて、「元本にだけは手を付けないでほしい」と伝えると、「わかっている」という答えが返ってきたので、私は定期預金を中途解約して2100万円分の商品を購入しました。しかも、従業員さんは「日経平均株価が30%以上下落することはないだろう」とも言っていましたが、まさか30%以上下落すると元本が確保されないなんて知りませんでした。従業員らは自己のノルマを達成するために、私の家に訪問し、何の配慮もないまま商品を買わせたので、私が購入する際に払ったお金をきっちりと返してもらいたいです。

3 中央三井信託銀行の主張

 女性に対して金融商品の説明をいたしましたところ、定期預金の金利が低いので、資産運用の見直しを検討したいと述べておりましたので、大口定期上限金利を提示いたしましたが、女性はそれを選択せずに、投資信託を購入されました。平成20年7月8日に、投資商品が20%の元本割れであることを説明しにまいりましたところ、「まだ運用期間が2年残っているので、様子を見るわ。夏に息子が帰ってくるので、息子と相談して決めまっさ」とおっしゃられていたじゃないですか。そうすると、女性にも重大な過失があったので、5割の過失相殺は免れないと思います。

4 大阪地方裁判所の判決

 パンフレットは、太字及び大きな活字で特に強調して記載されている部分のみを読んだだけでは、問題となった商品が、償還価額が投資元本額を大きく下回る可能性のある金融商品であることを認識することは困難であり、少なくともこの種の商品に初めて接する者にとっては、小さな活字で記載された部分も合わせ読んではじめて、本件商品が、投資元本が保証されていない金融商品であること及び同パンフレットに記載された目標分配額の支払や実質的な投資収益率が保証されているものではないことが認識できるような体裁がとられているといえる。
 投資商品を販売する金融機関の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上の違法となると解するのが相当である。そして、上記のような顧客の適合性を判断するに当たっては、取引の対象となった商品等の特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資経験、投資取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮すべきである。
 被害女性は、取引当時77歳の高齢の1人暮らしの女性であり、第二次世界大戦の戦時下に国民学校高等科を卒業し、学校卒業後は、宿泊施設の仲居、専業主婦、工場労働者として働くという、株式等の金融商品の知識を得る機会の少ない学歴、職歴、経歴しか有せず、亡夫とともに世帯の収入及び資産は預貯金で運用し、株式等の有価証券取引の経験がなかった。このことからすれば、被害女性は、取引当時、株式、投資信託等の元本割れのリスクを伴う金融商品の取引に関する知識や日経平均株価に関する知識を十分に身につけてはおらず、本件商品の特性を本件パンフレット及び目論見書を読んだだけで理解できる能力は備えていなかったと推認できる。
 また被害女性には、従業員からパンフレットを見せられ又はパンフレット上の記載を読み上げられるなどして口頭で商品の説明を受けたとしても、その説明のために用いられる用語や文章の意味のすべてを理解できるだけの能力はなかったものと推認できる。
 さらに、被害女性の年齢、経歴に、パンフレット上の太字及び大文字で強調して記載された部分の内容及び中央三井信託銀行が被害女性及び亡夫の長年の預金の預け入れ先であった銀行であることも合わせ鑑みれば、パンフレットを見せられた上で中央三井信託銀行従業員から定期預金を解約してその解約金で商品を購入するよう勧められた場合には、預貯金以外の投資経験のない高齢者である被害女性においては、商品が元本が確保された高い利回りの預金あるいは預金類似の金融商品であると誤解する危険性が高いと考えられる。
 従業員が、被害女性に対して、安定した資産であり被害女性の保有する金融資産の7割以上を占めていた定期預金を解約して、その解約金を原資として問題となった商品を購入するよう勧めた一連の勧誘行為は、被害女性の実情と意向に反する明らかに過大な危険を伴う取引を勧誘したものといえる。したがって、従業員の勧誘行為は、適合性の原則から著しく逸脱した違法な行為であって、被害女性に対する不法行為に当たると認められる。
 投資商品を販売する金融機関の担当者は、顧客に対して取引を勧誘するに当たっては、顧客の自己責任による取引を可能とするため、取引の内容や顧客の投資取引に関する知識、経験、資力等に応じて、顧客において当該取引に伴う危険性を具体的に理解できるように必要な情報を提供して説明する信義則上の義務を負うというべきである。そして、その担当者がこのような義務に違反して顧客に対する勧誘行為を行った場合には、当該行為は不法行為法上の違法となると解すべきである。
 被害女性は、取引の当時、77歳の高齢で、取引までに投資取引の経験もなかった上、元本の安定性を重視する投資意向であったほか、難聴でもあった。そのような被害女性に対して、その保有する金融資産の7割以上を問題となった商品に集中して投資させる今回のような取引の勧誘にあたっては、商品の内容やその内包するリスクを被害女性が具体的に理解し得るように、少なくとも、商品は、日経平均株価が大きく下落した場合には投資元本額を大きく下回る金額しか償還されない可能性のある金融商品であること、パンフレットに記載された目標分配額の支払や実質的な投資収益率の利率は保証されたものではないこと、問題となった商品は、解約できる期間が制限されているものであること等を、被害女性が理解できる平易な言葉を用いて被害女性が理解できるまで十分に説明すべき必要があったというべきである。
 商品の購入を勧誘した際、従業員が被害女性に対して、商品の内容等についてパンフレットを示した上で一応の説明を行ったとは認められるが、パンフレットの記載内容及び被害女性の年齢、経歴、難聴であったこと並びに中央三井信託銀行の従業員らの説明に対する被害女性の対応等に照らせば、従業員らは、被害女性において商品の内容及びリスクを理解するのに十分な説明を被害女性に対して行わなかったと推認できる。
 したがって、従業員らの今回の取引に関する勧誘行為には、説明義務違反の違法があったというべきである。
 よって、中央三井信託銀行は、被害女性に対して約894万を支払え。

5 適合性原則と説明義務

 今回のケースで裁判所は、金融機関が一般人に対して金融商品の勧誘をする場合には、顧客の知識、経験及び財務状況に照らして、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘すれば不法行為となり、また金融商品の仕組みや危険性を具体的に理解することができるように説明していないのであれば勧誘行為が違法なものになるとしました。
 リーマンショックにより株価が大暴落した当時、同じような事件が多発していましたので、普段から「仕組みや危険性が理解できない商品は買わない」と気をつけておくことも重要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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