ファイアーエムブレム事件
こんにちは。
「ファイアーエムブレム」というゲーム作品は、そのキャラクターや世界観の魅力から、今や任天堂屈指の人気タイトルの仲間入りを果たしています。
このファイアーエムブレムをめぐっては、同じようなゲームソフトが制作され、その販売をめぐって裁判に発展したことがあります。似たようなゲーム作品を販売する場合に、法律上はどのようなことが問題となるのでしょうか。この点を考える上で、今日は「ファイアーエムブレム事件」(東京高判平成16年11月24日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
任天堂は、インテリジェントシステムズが制作したファイアーエムブレムシリーズを、長年にわたって販売してきました。
ある日、ファイアーエンブレムの世界観などの設定を担当していた加賀昭三さんが、インテリジェントシステムズを退社し、新たに有限会社ティルナノーグを設立しました。その後、「ファイアーエムブレム トラキア776」のキャラクターデザインを担当していた広田麻由美さんの協力を得て、平成13年にティルナノーグは、任天堂のライバルだったプレイステーションから「エムブレムサーガ」という作品を発売するということを発表しました。ティルナノーグは、販売予約を受け付けた後に、ゲームソフトの名称を「ティアリングサーガ」に変更しました。
任天堂は「エムブレムサーガ発売」というファミ通の記事を読んで、その作品がファイアーエムブレムシリーズに類似するゲームソフトであることを知ったことから、ティルナノーグらに対して著作権法違反及び不正競争防止法違反を理由に販売の差止めと約2億6000万円の損害賠償を求めました。
2 任天堂側の主張
「ティアリングサーガ」の元の名称は「エムブレムサーガ」で、ゲーム雑誌や公式HP、予約販売などでこの名称が使われていた。この「エムブレム」という表示は、我々が長年にわたって全国的かつ盛大な宣伝広報活動などによって、周知性と著名性が備わっている。ディルナノーグがこの「エムブレム」という名前を使うことで、一般人がファイアーエンブレムの作品をプレイステーション版に移植したとの誤解が生じたじゃないか。
また、ストーリーやキャラクター、音楽などゲーム全体を通じて見ただけでなく、ペガサスの上に人が乗って戦うことなど個別的に見ても、ファイアーエムブレム作品のもろパクりで、著作権を侵害している。
3 ティルナノーグ側の主張
「ファイアーエムブレム」との表示は、英語で「火」を意味するありふれた単語「ファイアー」と、「紋章」を意味するありふれた単語「エムブレム」との組み合わせにすぎず、しかも、その両単語の組み合わせも容易に考えつくであろうごくありふれた組み合わせにすぎない。したがって、「ファイアーエムブレム」との表示は、出所表示機能を備えるための顕著性ないし自他商品識別力を有していない。
また、作品全体を観察して類似性があると主張しているが、個別的な観察が必要であり、ペガサスの上に人が乗って戦うユニットが模倣であると主張するが、このユニットもごくありふれたもので表現上の創作性はない。
4 東京高等裁判所の判決
登場ユニット、例えばペガサスの上に人が乗って戦うなどといったものは、他のゲームでも登場している一般的なもので、創作性がある表現とは認められない。よって、ティルナノーグによる著作権侵害はない。
しかし、「ファイアーエムブレム」との表示については、遅くとも「ファイアーエムブレム トラキア776」が発売された平成11年9月までには、任天堂のゲームソフトであることを示す商品等表示として、需要者の間に広く認識されていたものと認めるのが相当である。
「エムブレム」は紋章や標章を意味する普通名詞となっている「エンブレム」と異なり、「エムブレム」は造語的印象を受ける特徴的表記であることは否定できない。また、「エムブレム」をタイトルに含むゲームは「エムブレムサーガ」以外にはない。つまり「ファイアーエムブレム」との表示のうち、商品の出所を示すものとして自他識別力を有するのは「エムブレム」であり、「ファイアーエムブレム」全体が要部であるということはできない。
「エムブレムサーガ」のうち、商品識別力を有する要部も「エムブレム」の部分であり、「ム」という一般的でない表記が用いられた造語的印象を受ける特徴的表現であることにも照らせば、この表示に接した需要者としては、注意を引く「エムブレム」部分から、同種のゲームソフトで既に高い周知性を有している「ファイアーエムブレム」を想起し、これとの関連性を連想して、両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるものと推認される。
よって、ティルナノーグは任天堂に対して、不正競争防止法に基づく損害賠償として約7646万円を支払え。
5 「ム」のおかげで大逆転勝利?
第一審では、任天堂側が敗訴していたのですが、第二審では「ファイアーエムブレム」を名称について、「エンブレム」ではなく「エムブレム」という「ム」に特徴があるとされ、さらにファミ通の記事で、エムブレムサーガがファイアーエムブレムの関連作として宣伝されたことで、一般消費者が関連作であると誤認したと認定されています。上告が棄却され任天堂側の勝訴が確定していますが、きわどい裁判だったことがうかがえますね。
では、今日はこの辺で、また。