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上尾市福祉会館事件
こんにちは。
今日は、労働組合の幹部の合同葬儀をするために申請された福祉会館の使用許可をめぐって裁判に発展した最判平成8年3月15日を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
JR関係の労働者で組織される全日本鉄道労働組合総連合会の総務部長が埼玉県大宮市の自宅付近で何者かによってハンマーで殺害される事件が起きました。その後、JR総連はJR東日本と合同葬を計画し、上尾市(あげおし)福祉会館の使用を上尾市に申し込みました。ところが、上尾市は「住民に不安を与える」として会館の使用を拒否しました。そのため、JR総連は、上尾市の不許可処分に正当な理由がないとして、100万円の損害賠償を求めて提訴しました。
2 最高裁判所の判決
第一審は、上尾市の不許可処分を違法と判断し、22万9000円の支払いを命じましたが、原審は会館の管理に支障が生じると認めたことには相当の理由があるとして、上尾市の不許可処分は適法と判断しました。
これに対して最高裁は、次のような理由で、原審を破棄し、東京高等裁判所に差し戻しました。
原審は、次のように説示して、本件不許可処分が適法であると判断した。 本件申請当時、前記のような記事が新聞各紙に報じられていたのであるから、上尾市側において、本件合同葬の際にも部長を殺害した者らによる妨害が行われて混乱が生ずるかもしれないと危ぐすることが根拠のないものであったとはいえない。
本件合同葬を大ホールで行う場合には、そのための案内や多数の葬儀参加者の出入りが他の利用客の目に触れることは避けられないから、本件会館で同時期に結婚式等を行うことは事実上困離である。
本件合同葬について警備が行われる場合には、その他の施設の利用客に多少の不安が生ずることも否めない。
上尾市は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、前記の元市長の市民葬等を除き、本件会館が従来一般の葬儀のために使用されたことはなく、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設もない。
以上の各事実を合わせ考えれば、本件会館内の施設のそれぞれについて設置目的に従った有効な利用を確保すべき責務のある館長が、本件合同葬のために大ホールを使用することが本件会館の管理に支障を生ずると認めたことには、相当の理由がある。
しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
本件会館は、地方自治法244条にいう公の施設に当たるから、上尾市は、正当な理由がない限り、これを利用することを拒んではならず、また、その利用について不当な差別的取扱いをしてはならない。本件条例は、同法244条の2第1項に基づき、公の施設である本件会館の設置及び管理について定めるものであり、本件条例6条1項各号は、その利用を拒否するために必要とされる右の正当な理由を具体化したものであると解される。
そして、同法244条に定める普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のような集会の用に供する施設が設けられている場合、住民等は、その施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれがある。したがって、集会の用に供される公の施設の管理者は、当該公の施設の種類に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公の施設としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。
以上のような観点からすると、本件条例6条1項1号は、「会館の管理上支障があると認められるとき」を本件会館の使用を許可しない事由として規定しているが、右規定は、会館の管理上支障が生ずるとの事態が、許可権者の主観により予測されるだけでなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて、本件会館の使用を許可しないことができることを定めたものと解すべきである。
以上を前提として、本件不許可処分の適否について判断する。
本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、全日本鉄道労働組合総連合会に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずると懸念されることを一つの理由としてされたものであるというのである。しかしながら、前記の事実関係によれば、館長が前記の新聞報道により部長の殺害事件がいわゆる内ゲバにより引き起こされた可能性が高いと考えることにはやむを得ない面があったとしても、そのこと以上に本件合同葬の際にまでJR総連に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生ずるおそれがあるとは考え難い状況にあったものといわざるを得ない。また、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、前示のような公の施設の利用関係の性質に照らせば、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである。ところが、前記の事実関係によっては、右のような特別な事情があるということはできない。なお、警察の警備等によりその他の施設の利用客に多少の不安が生ずることが会館の管理上支障が生ずるとの事態に当たるものでないことはいうまでもない。
次に、本件不許可処分は、本件会館を本件合同葬のために利用させた場合には、同時期に結婚式を行うことが困難となり、結婚式場等の施設利用に支障が生ずることを1つの理由としてされたものであるというのである。ところで、本件会館のような公の施設の供用に当たって、当該施設の設置目的を専ら結婚式等の祝儀のための利用に限るとか、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他の利用に優先して認めるといった運営方針を定めることは、それ自体必ずしも不合理なものとはいえないものというべきところ、上尾市は、本件会館の運営に当たり、基本的には葬儀のための利用には消極的であり、一部の例を除き、本件会館は従来一般の葬儀のために使用されたことはなかったというのである。しかし、本件会館には、斎場として利用するための特別の施設は設けられていないものの、結婚式関係の施設のほか、多目的に利用が可能な大小ホールを始めとする各種の施設が設けられている上、一階の大ホールと二階以上にあるその他の施設は出入口を異にしていること、葬儀と結婚式が同日に行われるのでなければ、施設が葬儀の用にも供されることを結婚式等の利用者が嫌悪するとは必ずしも思われないことをも併せ考えれば、故人を追悼するための集会である本件合同葬については、それを行うために本件会館を使用することがその設置目的に反するとまでいうことはできない。そして、前記の事実関係によっても、本件会館について、結婚式等の祝儀のための利用を葬儀等の不祝儀を含むその他のための利用に優先して認めるといった確固たる運営方針が確立され、そのために、利用予定日の直前まで不祝儀等のための利用の許否を決しないなどの運用がなされていたとのことはうかがえない上、JR総連らの利用予定日の一箇月余り前である本件不許可処分の時点では、結婚式のための使用申込みはなく、現にその後もなかったというのである。以上によれば、本件事実関係の下においては、本件不許可処分時において、本件合同葬のための本件会館の使用によって、本件条例6条1項1号に定める「会館の管理上支障がある」との事態が生ずることが、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできないから、本件不許可処分は、本件条例の解釈適用を誤った違法なものというべきである。
そうすると、以上に判示したところと異なる見解に立って、本件不許可処分が適法であるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、本件については、JR総連の主張する本件不許可処分に基づく損害の有無、その額等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すのが相当である。
3 警察の警備でも混乱を抑止できない特別な事情
今回のケースで裁判所は、何者かに殺害されたJR関係の労働組合の幹部の合同葬に使用するためにされた上尾市福祉会館の使用許可申請に対し、同会館設置及び管理条例が使用を許可しない事由として定める「会館の管理上支障があるとみとめられるとき」に当たるとしてされた不許可処分を違法と判断しました。
憲法上、集会の自由が認められていますが、警察の警備によっても混乱を抑えられない特別の事情がある場合には、公の施設の使用を許可しない処分を下すことができるとされている点に注意が必要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。