再転相続事件
こんにちは。
疎遠な叔母の借金を相続することになりそうになった場合には、相続したことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所で相続放棄の手続きをする必要があります。
さて今日は、祖父が亡くなり、相続人の父親が3カ月間の熟慮期間内に相続放棄をせずに死亡し、その子どもが相続人になったことで、祖父の相続財産を放棄することができるのかどうかが問題となった「再転相続事件」(最判昭和63年6月21日家庭裁判月報41巻9号101頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
土地を所有していた神田英太郎は、昭和57年に死亡し、その子どもの清一と、孫の石井和義ら5人が代襲相続しました。ところが、清一は英太郎の相続財産を承認するか、放棄するかを選択せずに、1か月後に死亡しました。清一の相続人にあたる妻のとも子、長女の成美、長男の稔の3名は、神戸家庭裁判所尼崎支部に、英太郎の財産と清一の財産について相続放棄の申述をして受理されました。
ところが、清一から商品の代金の支払いを受けていなかった債権者は、清一が英太郎の土地の1/2を相続していたと主張して、不動産の仮差押えを申請し、その旨の登記がなされました。これに対して、石井和義らは、神田とも子、成美、稔の3名が英太郎からの相続財産を放棄したことで、英太郎の土地を相続しなかったものとみなされるので、その仮差押えの登記は無効だと主張して、第三者異議の訴えを提起しました。
2 最高裁判所の判決
民法916条の規定は、英太郎の相続につきその法定相続人である清一が承認又は放棄をしないで死亡した場合には、清一の法定相続人であるとも子らのために、英太郎の相続についての熟慮期間を清一の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、英太郎の相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、とも子らの再転相続人たる地位そのものに基づき、英太郎の相続と清一の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、各別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべきである。そうであつてみれば、とも子らが清一の相続を放棄して、もはや清一の権利義務をなんら承継しなくなつた場合には、とも子らは、その放棄によって清一が有していた英太郎の相続についての承認または放棄の選択権を失うことになるのであるから、もはや英太郎の相続につき承認または放棄をすることはできないといわざるをえないが、とも子らが清一の相続につき放棄をしていないときは、英太郎の相続につき放棄をすることができ、かつ、英太郎の相続につき放棄をしても、それによっては清一の相続につき承認または放棄をするのになんら障害にならず、また、その後にとも子らが清一の相続につき放棄をしても、とも子らが先に再転相続人たる地位に基づいて英太郎の相続につきした放棄の効力がさかのぼつて無効になることはないものと解するのが相当である。そうすると、本件において、とも子ら3名が英太郎の相続についてした放棄は、とも子ら3名がその後清一の相続について放棄をしても、その効力になんら消長をきたさないものというべきである。
よって、債権者が神田清一の不動産の持分2分の1についてなした仮差押の執行はこれを許さない。
3 再転相続
今回のケースで裁判所は、祖父が亡くなって父親が相続し、父親が相続放棄をするかどうかを決める前に死亡し、子どもが相続をした場合、子どもが父親の相続財産について放棄をしていないときは、祖父の相続財産について放棄をすることができ、また、その後に子どもが父親の相続財産について放棄をしても、子どもが先に再転相続人の地位に基づいて祖父の相続財産について行った放棄の効力が遡って無効にはならないとしました。
また、子どもが先に父親の相続財産について放棄すれば、父親の債権者からの取り立てを回避することができますが、祖父の相続財産を承認するか、放棄するかの選択権を失ってしまうという点にも注意が必要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。