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グッドバイ・キャロル事件

こんにちは。

 矢沢永吉さんが所属していたロックバンド・キャロルと聞くと、「ファンキーモンキーベイビー」の名曲を思い出します。

 と同時に、替え歌名人嘉門達夫の「君は派手なサルの赤ちゃん~!」も同時に思い出してしまいます。

 さて今日は、「グッドバイ・キャロル事件」(知財高判平成18年9月13日判例時報1956号148頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 昭和50年4月13日に、キャロルの解散コンサートが行われました。株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィは、そのコンサートのシーンを中心とするドキュメンタリー映画を製作し、それが『グッドバイ・キャロル』のタイトルで「特番ぎんざNOW!」というTBSのテレビ番組の中で放送されました。

 キャロルが所属していたレコード会社(日本フォノグラム、後にユニバーサルミュージック株式会社に権利を譲渡)は、『グッドバイ・キャロル』の内容を編集し直し、『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』というタイトルでビデオを製作して販売を行いました。それから28年後には、ビデオと同じ内容のDVDも販売されました。

 しかし、テル側はビデオとDVDの販売に関して許諾をしていないとの理由で、DVDと特典DVDの複製及び頒布の差止、プロモーション映像の複製、上映、放送等の差止め、マスターテープの廃棄、民法709条に基づき2億4000万円の損害賠償、著作権法115条に基づく謝罪広告を求めて訴えを提起しました。

2 テル側の主張

 著作権法16条によると、「その映画の著作物の著作者は・・・制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」とあるので、我々が『グッドバイ・キャロル』のビデオの著作者である。だから、勝手に『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』のビデオ商品、DVDを製造し、頒布しないでほしい。

【著作権法16条】
映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。

3 レコード会社側の主張

 テルは我々の指揮監督の下でビデオを製作したに過ぎず、著作権法15条にいう職務著作にあたるので、著作権は我々にあるはずだ。また著作権法29条では、「映画の著作物の著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」とあるので、我々が映画製作者なので、著作権があることになるはずだ。

【著作権法29条1項】
映画の著作物(第15条第1項、次項又は第3項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。

4 東京地方裁判所の判決(第1審)

 映画製作者とは、映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことで、今回の事件ではデルが映画製作者である。映画製作会社はレコード会社の指揮監督下に撮影を担当したとはいえないので「業務に従事する者」には該当しない。ビデオ作品『グッドバイ・キャロル』についてはテルがレコード会社に複製販売を認めていたので著作権侵害はない。しかし、『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するDVDについては許諾がないので複製権の侵害にあたる。また、特典DVDとプロモーション映像は、翻案権および同一性保持権、氏名表示権を侵害するものである。よって、DVD商品を複製又は頒布してはならず、レコード会社はテルに対して約4900万円を支払え。

5 知的財産高等裁判所の判決(第2審)

 当初、テルに『グッドバイ・キャロル』の作品の著作権が帰属したものの、その後、著作権を譲渡したものと認められる。つまり『グッドバイ・キャロル』の作品の著作者はテルであったが、その後に音楽関係の著作権その他のすべての権利関係を承継したレコード会社が著作権者である。よって、テルの請求をすべて棄却する。

6 映画製作者とは

 今回の事件では、お金を出したり意見を出したからといって、資金を出した者や発注者が映画の著作者になるわけではないとされました。

 また、権利関係について明確な契約書や取り決めがなく、口約束で決定されていた点も問題がこじれる原因となっているように思えます。今後は、契約書などを作成する能力がますます必要になってくるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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