長澤運輸事件
こんにちは。
トラックドライバーのYouTubeちゃんねるで、狭い道でトラックがすれ違う場面を見てブルってしまいましたね。
さて今日は、定年退職して再雇用されたトラックドライバーの賃金をめぐって争われた「長澤運輸事件」(最判平成30年6月1日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
長澤運輸を定年退職した後に、嘱託職員として再雇用されたトラックドライバー3名は、正社員と仕事の内容が同じであるにもかかわらず、定年後の賃金が定年前よりも低くなっているのは、労働条件の不合理な相違であると主張して、差額の賃金の支払いを求めて提訴しました。
2 嘱託乗務員たちの主張
俺ら嘱託乗務員は、正社員と同じ仕事をしているのに、能率給や職務給が払われず、歩合給が支給されていること、嘱託乗務員には、精勤手当、住宅手当、家族手当や役付手当が支給されないのはおかしい。しかも、嘱託乗務員の時間外手当が正社員の超勤手当よりも低く算定されているのもおかしい。さらに、俺らにボーナスも払われないというのは、不合理な労働条件の相違ではないのか。
3 長澤運輸の主張
正社員と嘱託乗務員の労働条件が同じにならないということは、嘱託乗務員に適用される就業規則に定められているからです。わが社は、高年齢者雇用安定法により、60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており、定年退職した高年齢者を継続して雇用するに必要な費用が増大していくのを回避するために、定年退職後の賃金を引き下げている。しかし、なんとか努力してその賃金の差額を縮める努力をしており、嘱託乗務員の賃金が正社員の約2割前後にしているので、問題はないはずだ。
4 最高裁判所の判決
労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。
長澤運輸における嘱託乗務員及び正社員は、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に違いはなく、業務の都合により配置転換等を命じられることがある点でも違いはないから、両者は、職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲において相違はないということができる。
精勤手当は、従業員の皆勤という事実に基づいて支給されるものであるから、歩合給及び能率給に係る係数が異なることをもって、嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことが不合理でないということはできない。 したがって、正社員に対して精勤手当を支給する一方で、嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
長澤運輸における正社員には、嘱託乗務員と異なり、幅広い世代の労働者が存在し得るところ、そのような正社員について住宅費及び家族を扶養するための生活費を補助することには相応の理由があるということができる。他方において、 嘱託乗務員は、正社員として勤続した後に定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでは長澤運輸から調整給を支給されることとなっているものである。
これらの事情を総合考慮すると、嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても、正社員に対して住宅手当及び家族手当を支給する一方で、嘱託乗務員に対してこれらを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
よって、嘱託乗務員の精勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し、原審に差し戻すとともに、長澤運輸の上告を棄却する。
5 定年後再雇用の賃金
今回のケースで裁判所は、定年退職者を有期労働契約で再雇用する場合、嘱託乗務員に対して能率給や職務給を支給せずに歩合給を支給したとしても不合理でないとしつつ、精勤手当や時間外手当について正社員との相違があるのは不合理だとしました。
住宅手当と家族手当については、正社員の構成が幅広い世代となっており、住宅費と家族を扶養する生活費を補助するのに相応の理由があるので、嘱託乗務員に支払われていなくても不合理ではなく、またボーナスがなかったとしても年金支給開始まで調整給がもらえているので不合理ではないとされている点にも注意が必要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
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