三国志Ⅲ事件
こんにちは。
日本でも中国でも人気のある魏、蜀、呉を舞台とした三国志は、曹操、劉備、孫権の目線によって、物語の見方が大きく変わるところにも魅力がありますが、司馬懿目線の作品もあるようなので是非見てみたいですね。
お気に入りの武将が話題となる三國志ですが、ゲーム好きの人が愛してやまないコーエーの「三國志Ⅲ」に関しては、フロッピーディスクでお気に入りの武将の能力値を高めることが問題となった事件があります。いったい、法律上どのようなことが問題となったのかを考える上で「三國志Ⅲ事件」(東京高判平成11年3月18日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
1992年に、コーエーはパソコンゲーム『三國志Ⅲ』を発売しました。しばらくして、技術評論社から『三國志Ⅲ非公式ガイドブック』が発売されたのですが、そこには「NBDATA」というフロッピーディスクが添付されており、これを使えば、「三國志Ⅲ」に登場する武将のパラメーターを、最大値100よりも高く設定することができました。そのため、コーエーは、技術評論社に対して、フロッピーによりゲームの著作権(同一性保持権)が侵害されているとして、フロッピーの販売の差止めと、2022万円の支払いを求めて提訴しました。
2 コーエー側の主張
技術評論社は、「三國志Ⅲ非公式ガイドブック」と題する書籍を発売しているが、この書籍に入っているフロッピーディスクに含まれるプログラムによって、通常のゲーム展開にはあり得ない展開を生じさせるなど私どものゲームのプログラムを改編しているのだ。ビデオゲームはユーザーのプレイによってゲームの画面展開が変化しうるが、その展開は私どもがメインプログラムやCGデータによって用意したものである。そうすると、私どもがゲーム展開の著作権者であり、技術評論社は私どもが有している同一性保持権と翻案権を侵害しています。
3 技術評論社側の主張
私どものプログラムを用いて入力した場合のゲーム展開は、ユーザーのプレイによって生じるものであるから、ユーザーがその著作権者であるはずだ。プログラムの使用によっても、武将の顔などの映像的特徴が何ら変化を受けない以上は、改変ではないと思います。
そもそも、各武将のパラメーターの上限を100とするのは、あくまでルールに過ぎず、ゲームのルールには著作権はないことから、著作物の改変にはあたないのではないでしょうか。またゲームソフトにおいて、映画類似性が認められるためには、映画のように映像が流れていることが必要であり、アクションゲームと違って知的操作の比重が大きくて、俊敏な対応が要求されないクイズゲームやシュミレーションゲームは映画の著作物ではないはずです。
4 東京高等裁判所の判決
問題となった著作物がシミュレーションゲームに関するものであり、本来、その表現態様が種々に変化することが予定されているものであって、メインプログラムの動作の枠内でという客観的制約があるにしても、ユーザーが自由に作動させることによりゲーム展開が千変万化するものであることから、本件著作物の表現がいかなる範囲まで包含するものであるのかが明らかにされないままに、100を超える能力値が使用されることのみをもって、直ちに同一性保持権の侵害に当たるものと認めることはできない。
また影像も連続的なリアルな動きを持っているものではなく、静止画像が圧倒的に多い。ゲームで動画画像が用いられているのは、軍事戦争場面など一部にとどまり、軍事戦争における戦闘シーン、一騎討ちシーンなどの個々の影像も、フロッピーディスクに収容できる程度のデータ内容及びプログラムで動作させるため、定型データを利用するものとなっていて、同じ内容の定型的な画像及び効果音がたびたび現れるものにとどまっている。そうすると、三國志Ⅲは映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているものとは認められず、映画ないしこれに類する著作物に該当するということはできない。
よって、コーエー側の請求を棄却する。
5 チート行為
今回のケースで裁判所は、技術評論社のフロッピーディスクを使用したとしても、三國志Ⅲの同一性を改変しているわけではないので著作権侵害はなく、また三國志Ⅲのゲームには静止画像が多く、映画のような視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されてはいないことから、映画の著作物ではないとしました。
この判決の影響もあり、三國志Ⅳでは、コーエー自ら仮想シナリオを追加したり、武将や都市のパラメータを自由にいじれる機能が搭載されたパワーアップキットが発売されています。また警視庁のHPでは、ゲームのデータやプログラムを改ざんして、正規の利用では本来できないことを不正にできるようにするチート行為はやめましょうと警告されていますので、気をつける必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。