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こんにちは。

 博多人形を調べてみると、戦国武将の黒田長政が九州の筑前に入国する際に、職人を集めて素焼き人形を作らせたことが起源となっているようで、一つ一つ手作りで製作されているところに職人技のすごみが感じられますね。

 さて今日は、博多人形の著作権が問題となった「博多人形事件」(長崎地裁佐世保支部決昭和48年2月7日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 有限会社井原工房は、「赤とんぼ」という通称博多人形と呼ばれる高さ19cmの彩色素焼人形を販売していました。ところがしばらくすると、波佐見陶芸有限会社らも「赤とんぼ」という類似の博多人形を製造して販売していました。そのため井原工房は、波佐見陶芸らに対して博多人形の複製、頒布をしないことを求めて仮処分の申請をしました。

2 井原工房の主張

 赤とんぼは戸畑と青木が共同製作したもので、私は相当の金銭を払って彼らから著作権を譲り受けた。赤とんぼは、粘土製の人形生地を素焼きのうえ絵の具で彩色した工芸品で、発売以来、大好評で年々売上が増加していた。そんなときに、波佐見陶芸らは、赤とんぼ人形を手に入れ、これを原型に使用し、石膏で型取りしてさらに複製物を作成するいわゆる「ボン抜き」という方法で、赤とんぼ人形とそっくりそのままの形、彩色をした粘土の素焼人形を作った。しかも、「赤とんぼ」という同じ名前を付けて販売しているので、これは明らかに我々の著作権を侵害している。

3 波佐見陶芸の主張

 我々は、赤とんぼに著作権があることも、それを侵害していることも知らなかった。そもそも赤とんぼは、量産されて産業上利用されることを目的として制作され、現に量産されているので、これは意匠登録をして意匠権として保護されるべきで、著作物ではないはずだ。

4 長崎地方裁判所の決定

 著作権法の対象となる著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものでなければならないが、『赤とんぼ』は同一題名の童謡から受けるイメージを造形物として表現したものであつて、その姿体、表情、着衣の絵柄、色彩から観察してこれに感情の創作的表現を認めることができ、美術工芸的価値としての美術性も備わっているものと考えられる。また美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。さらに、人形が一方で意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといっても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であって、両者の重畳的存在を認め得ると解すべきであるから、意匠登録の可能性をもつて著作権法の保護の対象から除外すべき理由とすることもできない。従って、赤とんぼ人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである。
 井原工房の承諾なく赤とんぼ人形を複製し、販売している波佐見陶芸らの行為は井原工房の著作権を侵害する違法なものである。
 よって、波佐見陶芸らは複製物の頒布をしてはならない。

5 大量生産される人形に意匠権と著作権

 今回のケースで裁判所は、大量に生産し販売することを目的として製作されている彩色素焼人形、通称「赤とんぼ」と呼ばれる博多人形が、著作権法にいう美術工芸品に当たるとして、複製、販売停止を求める仮処分申請を認めました。
 また、大量生産される人形の形状は意匠権としても保護される可能性があるとして、意匠権と著作権の両方の権利が認められることがあるという点にも注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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