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こんにちは。

 ビジネスをしている人の中には、節税のために法人を設立すべきかどうかで悩んでいる人も多いかと思います。法律上、個人とは異なる別の人格を作り出すことが可能となっています。

 しかし、法人を悪用した場合には、裁判所が「それは、けしからん!」と個人とは別の人格であることを認めないとする場合があります。いったい、どのような場合に、法人格が否認されるのでしょうか。

 今日は、この点を考える上で、山世志商会事件(最判昭和44年2月27日裁判所ウェブサイト)を紹介してみたいと思います。

1 どんな事件だったのか

 薬局と化粧品販売業を営している星原勇は、その隣接している店舗を電気屋を営む岸清に貸していました。岸清は税金の軽減を図る目的のために株式会社山世志商会を設立し、その代表取締役に就任していましたが、実態は岸清の個人企業でした。そのため、岸清は山世志商会名義で賃貸借契約を結んでおり、星原も岸清に店舗を貸していたものと考えていました。
 その後、星原が薬局の店舗拡大の必要に迫られたことと、長女が学校を卒業すると同時に化粧品販売の営業をさせようと考えていたので、山世志商会との間で賃貸借契約の合意解除を行いました。ところが、星原が店舗の明け渡しを求めても、岸清が店舗を明け渡さなかったので争いとなり、裁判所の和解勧告により、岸清の名義で店舗を明け渡すとの和解が成立しました。それでもなお、岸清は店舗を明け渡さず、さらに「岸清として使用している部分は明け渡すが、山世志商会として使用している部分を明け渡さないぞ」とイチャモンを付けるようになりました。そこで、星原が山世志商会に対して店舗の明け渡しを求めて提訴したのです。

2 星原の主張

 もともと、店舗を山世志商会に賃貸したのか、それとも岸清個人に賃貸したのか、明確に区別していなかったが、賃料は岸清名義で支払いがなされており、また合意解除も和解も、山世志商会の代表取締役としての岸清が行っており、結局は岸清が合意解除したのと同じである。仮に、合意解除が認められなかったとしても、岸清による一連の行為は、賃貸借契約において必要とされる信頼関係を根底から覆すものであるので、当然に賃貸借契約を解除することができるのである。
 よって山世志商会は無断で店舗を使用しているので、その明け渡しと家賃相当額の損害を払うべきだ。

3 山世志商会の主張

 和解契約の名義を隅から隅までよう読んでみ。名前のところに岸清と書いてあるやろ。賃貸借契約と裁判上の和解とで、権利主体をおもっきり混同してるんとちゃうか。つまりやな、和解したのは、岸清個人であって、山世志商会は未だに賃借権を有しとるはずやから、適法に店舗を占有していることになるんや。よって、明け渡し請求は棄却されるのがスジとちゃうか。

4 最高裁判所の判決

 法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。

 星原勇と岸清との間で成立した裁判上の和解は、岸清個人名義でなされたにせよ、その行為は山世志商会の行為と解し得る。よって、山世志商会に店舗の明け渡しと家賃相当額10万円の支払いを命ずる。

5 法人格否認の法理の法的根拠

 今回のケースで最高裁判所が提示した法人格否認の法理に関して、日本の法律にはそれ明確に規定した条文はありません。もともとアメリカの裁判例で確立された理論が日本に持ち込まれたものですが、最近では、中国の会社法20条3項で法人格否認の法理が明文化されるに至っています。

【中国会社法20条3項】
 会社の株主は会社法人の独立的な地位と株主有限責任を濫用して、債務を逃し、会社債権者の利益に重大な損害を与えている場合、会社債務に連帯債務を引き受けなければいけない。

 いずれ、日本でも明文化される日が来るかもしれませんね。

では、今日はこの辺で、また。


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