裁判員PTSD事件
こんにちは。
国民の中から選ばれた裁判員が刑事裁判に参加する裁判員制度は2009年5月21日から始まりましたが、当時、法務省が広報のために作った看板が「裁判員 参上!」でした。これを聞いて、佐藤健さん主演仮面ライダー電王の「俺、参上!」をパクっただろうと思った人も多いでしょう。
モモタロスの「相変わらず、センスねえなあ」という声も聞こえてきそうですね。
さて今日は、裁判員が裁判中に見せられた殺人事件の証拠資料によりPTSDを発症したことが問題となった事件(仙台高判平成27年10月29日判例時報2281号74頁)を紹介してみたいと思います。
1 どんな事件だったのか
福島地方裁判所郡山支部で刑事裁判に参加した裁判員の1人が、夫婦2人が殺害された強盗殺人及び銃砲刀剣類所持等取締法違反の審理を担当していました。すると、裁判員として凄惨な内容の証拠を取り調べたり、死刑の判決を言い渡す審理への参加を余儀なくされたりすることにより、急性ストレス障害を発症しました。そのためその裁判員は、裁判員法により裁判員制度を運用している国に対して、国家賠償法に基づいて200万円の損害賠償を求めて提訴しました。
2 裁判員の主張
私は、公判の中で血みどろの殺害現場の写真を見せられたり、被害者夫婦が助けを求める電話の音声を聞くなど、非常にショックを受けて体調を崩し、急性ストレス障害と診断されました。憲法18条は「その意に反する苦役の禁止」を、憲法22条1項は「職業選択の自由」を、憲法13条は「自由及び幸福追求に対する権利」を国民に保障しているが、裁判員は著しい精神的苦痛を伴うものであり、まさに意に反する苦役です。
3 法務大臣の主張
裁判員法が、憲法18条に違反しないことは、平成23年の最高裁判決で確立している。また、裁判員法の立法目的を達成するためには、最終的に選任される裁判員の資質や性向に偏りが生じないようにする必要があるから、国民に裁判員となることを義務づけたとしても、その手段の点でも合理的だと言える。
4 仙台高等裁判所の判決
裁判員法を制定した国会議員の立法行為及び裁判員法を合憲と判断した最高裁裁判官の行為にいずれも違法はない。
各証拠は、いずれも公訴事実及び情状の立証に必要な証拠と認められるのであるから、これらについて、検察官が証拠調請求し、裁判官が証拠採用して証拠調べをしたのは、いずれも訴訟手続における権限の行使として相当性が認められるというほかない。
以上のとおり、検察官及び裁判官の違法な訴訟行為ないし裁判員法の違法な運用を認めることはできないので、裁判員の控訴を棄却する。
5 メンタルヘルスサポート窓口
今回のケースで裁判所は、強盗殺人事件の裁判員を務めたことが原因で急性ストレスになったとしても、苦役に服することを禁じた憲法に違反せず、裁判員法の違法な運用ではないとして、裁判員からの損害賠償を認めませんでした。その後、最高裁判所(最判平成28年10月25日)も、上告を棄却したことから、この高裁の判決が確定しています。
最高裁は、裁判員のPTSDなどに対応するためにカウンセリングを提供していますが、平成30年の裁判員辞退率が67.1%に達しているようなので、裁判員の心理的負担を軽減するためのさらなる改善も必要になってくるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。