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原状回復と保証事件

こんにちは。

 家賃7万円のワンルーム退去時にフローリング張替えといった原状回復費77万円を請求されたという事例があることを知って驚きましたね。

 さて今日は、契約解除時の原状回復と保証人の責任が問題となった2つの事件(大判明治43年4月15日民録16輯325頁、最大判昭和40年6月30日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 賃貸借契約の解除事件

 山田ぶんは、岡本與一郎に建物や機械を賃貸し、岩田がその賃料に関して保証人になっていました。ところが、岡本が賃料を払わなかったことから、山田は相当期間を定めて賃料の支払いを催告し、それでも賃料が払われなかったことから、賃貸借契約を解除しました。その後も、岡本が建物に居座ったことから、勝訴判決を取ったうえで、強制執行をして建物の引き渡しを受けました。山田は、保証人の岩田に対して、滞納家賃以外に、裁判にかかった費用と契約解除後に建物を引き渡さないことによって生じた損害金について、保証人に対して賠償を求めて提訴しました。

2 大審院の判決

 保証債務は主たる債務が履行されないときに履行されるべきものであり、通常は主たる債務とその範囲が同じになるものである。しかし、主たる債務の不履行によって相手方に生じた損害については主債務者は、その不履行に基づいて契約が解除されたかどうかにかかわらず、一切の損害を賠償する責任を負うべきであるので、主たる債務を担保する保証債務の範囲も特別の事情がない限りはこれらの一切の損害賠償を包含するものといわなければならない。かつ、訴訟費用は主たる債務に含まれるものであるから、債権者は当然、債務者に対して請求することができ、保証人もこれを支払うとの約束をしていなかったとしても、主たる債務を保証すると同時にこれを担保したものとみなさざるを得ないのである。
 原判決が賃貸借契約解除後に、損害金と訴訟費用について保証債務の範囲にないとして、山田ぶんの請求を排斥したのは失当である。
 よって、原判決を破棄し、名古屋控訴院に差し戻す。

3 売買契約の解除事件

 気に入った畳建具を見つけた買主は、畳の持ち主に対して代金15万円を渡しました。その際に、売主は先に代金を受け取る代わりに、畳建具を確実に引き渡すとして保証人をつけていました。ところが、売主が畳建具を引き渡さなかったことから、買主は契約を解除し、保証人に対して15万円の支払いを求めて提訴しました。

4 最高裁判所大法廷判決

 売買契約の解除のように遡及効を生ずる場合には、その契約の解除による原状回復義務は本来の債務が契約解除によつて消滅した結果生ずる別個独立の債務であって、本来の債務に従たるものでもないから、右契約当事者のための保証人は、特約のないかぎり、これが履行の責に任ずべきではないとする判例があることは、原判決の引用する第一審判決の示すとおりである。特定物の売買における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから、保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。したがつて、前示判例は、この趣旨においてこれを変更すべきものと認める。
 保証人は、保証に際し、売買契約の解除による原状回復義務については保証しない旨の特約がなされた事実が明らかにされないかぎり、売主の買主に対する代金返還の義務につき保証の責に任ずべきものと認むべきところ、原審が、その特約の有無に考慮を払うことなく、保証人に保証の責なしと速断したことは、保証契約の趣旨に関しその判断を誤つた結果審理不尽に陥った違法があるばかりでなく、記録によれば、保証人は原審において売主の債務は和解契約により既に消滅し、したがって保証人の債務も消滅した旨抗弁していることが明らかであるから、この点についても更に審理を尽させるため、本件を原裁判所に差し戻すのを相当と認める。
 よって、原判決を破棄し、名古屋高等裁判所に差し戻す。

5 保証人の責任の範囲

 今回のケースで裁判所は、賃貸借契約と売買契約が解除されたときに、その原状回復義務についても、保証人は責任を負うとしました。
 ただし、保証人が契約の中で、原状回復義務について責任を負わないという内容の特約を結んでいた場合には、責任を負うことはないと考えられていますので、この点に注意する必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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