本。クリムゾンの迷宮
今日は本の話。『クリムゾンの迷宮』(貴志祐介、角川ホラー文庫)を読んだ。
オンデーズ以来?の小説記事である。Kindle Unlimitedの今月終了タイトルの中にあり、何だか聞いたことのあるタイトルだなぁと借りてみた。『黒い家』の作者だそうで、『黒い家』は高校生の頃に家族が出かけていない夜に部屋で1人で読んで怖くて後悔した思い出がある。
ホラー文庫とのことで、黒い家もそうだが「幽霊の怖さ」ではなく「人間の怖さ」を感じる小説である。
今回の感想は少し辛口になると思う。あまりにも自分に合わない、面白いと感じない本だった場合、そもそもここに書いていないのだが、結論だけ言えば「良いところも悪いところも感じた小説」であった。なかなかこういう感想を持つことが無く珍しいので、一体どこに対して自分がそう思うのか、自分に問いかけながら書いてみたいと思う。現時点で自分でも何がそんなにひっかかっているのかよくわからないのだ。
ふと目を覚ますと火星のような場所にいた藤木。どうしてここにいるのか、思い出そうとしてもうまくいかない。手元にあるのはわずかな水と食料と携帯ゲーム機。電源を入れると「火星の迷宮へようこそ」と表示された。無事迷宮を抜けてゴールした者は賞金が与えられ、地球に帰還することができるらしい。「各プレイヤー」という言葉から、自分の他にも人がいることが伺える。とりあえず藤木はゲーム機に最後に表示された第1チェックポイントを目指してみることにしたのだった。
物語の最初は、(当時は斬新だったのかもしれないが)よくある始まりである。設定自体は真新しさは感じないものの、しかし物語が面白くなる要素は十分にあるものなのだ。実際、面白くないわけではなく、この先どうなっていくのか気になるし、面白い。のだが、どうにも乗り切れない自分がいる。
何故かわからなかったけれど、夫に「こんな話を今読んでいてね」という話をした時に、少しわかった気がした。夫から「主人公はどういう人(どういう性格や行動、考え方の傾向)なの?」と聞かれた時、うまく答えられなかったのだ。思考能力が無いわけではない。観察能力もないわけではない。しかし飛び抜けているというわけでもない気がする。「藤木はこういう人だ」と仕事や年齢等作中で説明されたことは答えられるのだが、性格等はうまく伝えられなかった。「突出した何かの無い普通の人」と言えばそうなのかもしれないが、主人公の性格がつかみにくいと感情移入しにくい面はあるかもしれない。
また「他のプレイヤー」も、中盤くらいまで出番があまりなく、それ故、それぞれの人の背景がわからない。これまた感情移入しにくくなっている原因なのかもしれない。
全体的に、淡々とただ事実を読んでいる感じというのだろうか。心にぐっときて琴線に触れる何かがあるというのとはちょっと違うなぁという感じだ。
話の流れ的にも、それだけ人数が出るならば、それなりにもっと序盤からいろいろ絡みがあっても良かったと思う。出番が少なく性格や背景もよくわからないから、読者的にもその人物に思い入れがなく、その人がどう動いても感動(文字通り感情の動き)に繋がりにくいのかもしれない。
事件の黒幕もわからないままで、話としてとりあえず終わっていないわけではないしこういう終わり方の話もあるけれど、何だかもやもやが残るなぁという感じだ。
全体的に、とても「惜しい」作品なのだ。あの設定があるならば、見せ方や構成によってもっと面白くなったはず。最終的に同じ流れになったとしても、違う感想になったはず。そう思ってしまう自分がいる。
今までいろいろ本を読んできたけれど、あまりこういう感想を持つことは無かった。こんなことを言うと上から目線で何様なのだが、題材に対して作者の技量が追いついていない気がする。この方がずっと小説を書き続けているのなら、今ならもっと面白くできるのではないかなぁ。
物語に対して何を求めるかは人それぞれだから、このままを読んで面白い人は面白いのかもしれない。私は物語に対して、主人公や登場人物と一緒に喜怒哀楽を体験したいという気持ちがある。物語に対しては、「自分の心が揺れ動くかどうか」という要素を大事にしたいと思っている。そういう意味では、全体的に淡々としているこの話は向かなかったということなのかもしれない。
読後にこんなに作品について考えることは無く(基本的に読んで面白かったなぁ、あそこが特に良かったなぁ、好きだなぁというくらいの感想)、ある意味で私にとってとても珍しい作品だった。
『黒い家』も高校生の頃に一度読んだきりでそこまで覚えていないし、また読んでみようかなぁ。他の作品を読んだら、作風や作者の色が、何となくわかるかもしれない。
ではまた明日。