絵本日記DAY28「クリスマスの三つのおくりもの」/林明子さんってやっぱりすごいよなぁ、の回
こんにちは。みなさまお元気ですか。
なんと、前回の絵本日記、最終更新日が7か月前、と表示されていまして、げげ、とたいへんに驚いた次第です。
さて、最近活動している、「絵本研究室」の出張絵本屋。
今週末の土曜日には、友人の営む素敵な商店(おばあちゃまから受け継いだたばこ屋さんで、ふるく味がある店内には気仙沼の毛糸やフェアトレードやオーガニック商品が並ぶあたらしいお店)のスペースをお借りして、絵本の古本販売とおはなし会をさせてもらうことになりました。あ、絵本ずきのあなたならピン、とくるかもしれません。そうですそれはまるで『はじめてのおつかい/筒井頼子・ぶん』に出てくるお店のようなのです。
それで、なんの絵本をよもうか、時間を測りながら一人ウキウキと選書をしているわけなのですが、今回紹介する『クリスマスの三つのおくりもの/林明子作』を手にとってみて、やはり素晴らしいな、と。
あらためてよんだこのちいさな絵本たちに隠された細かな描写の素晴らしさを掬いあげるべく、久しぶりに筆をとりました。毎度のことながら、私的な妄想もおおいにふくんでおりますが、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
◎この物語のファミリーについて
まず、この絵本は3冊セットで構成されており、共通するテーマは「クリスマス」です。3姉弟、上からかすみちゃん・もっくん・れいちゃん、がそれぞれ一冊ずつ主人公になり物語が展開されていき、内容は心がほっこりするクリスマスファンタジー。まさに林明子ワールド、そしてこれこそが絵本だけにゆるされる真髄の世界だろうと思うのです。
さて、上から順に、長女のかすみちゃんはしっかり者のおねえちゃん(推定6歳・年長さん。クラスでも担任の先生に頼りにされるタイプ)。長男、そしていかにも真ん中らしいもっくん(推定4歳)はやんちゃ盛り、すこしもじっとはしてられないんだぜ、というかんじ。末っ子のれいちゃん(このほっぺのぷっくり具合は2歳、もうすぐお誕生日がきて3歳)は家族の愛情たっぷり受けてすくすく育っている。
そして一つここで作者の林明子さんの特徴なのですが、この方の描く「おとうさん」「おかあさん」はなぜか、じぶんの両親の若い頃、つまりじぶんが子どもだった頃、のお父さんお母さんにそっくりなのです。おもしろいくらいに。いぶかしがっているあなたは、同作者の『きょうはなんのひ?/福音館書店 瀬田貞二・文』もどうぞご覧になってみてください。
林明子さんは姪っ子さんたちの写真を引き出しにたくさん溜めて、それをみながら絵を描いているのだそう。
つまり、ほんものの、モデルがいる。しかも、それは愛情が転写されたモデルときていますから、血の通った人物描写になるのも納得がいきます。(もちろんそれは技術が伴っているからこそ成せる技だけれど)。
では、わたしの推しポイントを、歳の順に推していきますね。
1、ふたつのいちご
主人公は長女のかすみちゃんです。冒頭で、おそらくこの家のクリスマスパーティーのリーダーであり、ケーキをつくったおかあさんから、
「もう どこの おみせにも いちごがなかったの。でも、れいちゃんと、もっくんと、かすみちゃんのぶんが あるから、いいでしょう?」という残念なお知らせの発表があります。
ここでおとうさんの顔を見、心中をさっと察したかすみちゃん。
「わたし、おかあさんと おとうさんの いちごをさがしてくる!まえに いちごがなってたとこ しってるから」と堂々たる宣言をし、颯爽と身支度をし出かけてゆきます。この、大股であるくかすみちゃんの、勇んだ顔といったら。
せっかくのクリスマスケーキに、家族全員分のいちごがないなんて、一大事。
かすみちゃんは森に出かけていきますが・・・まえにみつけたいちごは、森の住民、うさぎたちがもっていってしまうのでした。
(冬の間木のうろににんじんや葉っぱっを隠しているのをみて、「あのあなは、うさぎの れいぞうこだ」と推測するあたり、さすが賢い子です)。
さてこの『ふたつのいちご』で素晴らしいのはやはり、登場人物の細やかな心のうごきが描かれていること。
うさぎがぽろぽろとこぼしてしまったいちごをみて、「これが わたしの いちごだったら いいのに」。とつぶやくかすみちゃん。うんうん、そうだよね。
それから、にんげんのこどもが家を覗きこんでいることにびっくりしたうさぎのおかあさんの描写もまた、素晴らしい。
うさぎのおかあさんは、ちょっとびっくりしましたが、おちゃをいれたちゃわんをもって そとにでてきました。「どうもありがとう。あなたが ハンカチをかしてくださったんですね。ま、おちゃをどうぞ」。ですって。
彼女の描く世界では、にんげんもどうぶつも、親切にしてもらったらお返しをするし、むしろここではうさぎのお母さんがかすみちゃんより人(兎)生経験も豊富なわけで、ちょっとやそっとのことじゃ驚きません、安全なお客さまだとわかるとしっかり「あまくて あたたかくて いいかおり」のお茶でもてなしてくれるわけです。
でも、子どもの世界ってきっとそうだよね、人間も動物もおなじ生き物であって、まだ境目の線が世間に定義されたもので引かれていなくって。
だから、子どもたちは林明子さんの絵本が好きなのではないでしょうか。
その世界に、スッと入っていきやすいから。
昨今、「あなた(こども)の気持ち、こっちだってちゃんとわかってますよぉ」というような、子どもに媚びる絵本がずいぶん多く、それが人気絵本になっている気がします。消費しているのはもちろん、大人なのですがね。
話をこの物語に戻します。
このあとも、いちごを手に入れられることができてほんとうに、心から「わあ うれしい! どうも ありがとう!」という表情のかすみちゃん、うさぎ一家とかすみちゃん一家のリンクした絵、最後のページの、「おとうさんどう?」という誇らしげなかすみちゃんの顔。(ちなみにこの一家のおとうさんは、ちゃんと長女の信頼を勝ち得ていますね。かすみちゃんはおとうさんに褒められるのがうれしいみたい)。
そして最後までじっくりこの絵本をよみこんだあなたなら、おしまいに出てくるケーキにだれがデコレーションを施したか、きっと、わかるはず。
絵と、文章が、寸分も違わずピタリと一致している作品。見事です。これこそが、素晴らしい絵本といえるでしょう。
2、ズボンのクリスマス
この作品、好きだなぁ。男の子がみたら、にやり、とするんじゃないだろうか。「わかってるなぁ」もしくは、「やや!バレてるなぁ」、って。
はじまりはこうです。
きょうは、おじいちゃんとおばあちゃんのうちのクリスマスパーティーにでかけるひ です。「もっくん、はやく ズボンをはきなさい。ズボンが、パーティーに いきたがって いるわよ」と、おかあさんがいいました。もっくんは、ちらっとズボンをみましたが、あとは しらんかおして あそんでいました。
はい、ここでボーイズ集団からは、やんややんやの拍手喝采が起こるかもしれない。
「いいぞいいぞ。そうだよな、ズボンがパーティーになんか行きたがるわけないだろ」「消防車であそんでるほうたのしいもんな」「おかあさんまた嘘ばっかり言ってら。その手にはのらないぞ」うんぬんかんぬん。
「ちらっと」ズボンを見てはいるのです、一応。この細かな描写もよい。
この歳のちょっとやんちゃな男の子って、可愛くってしょうがないのだけど、やっぱり手強いし手こずることって、多いですよねぇ。ちょっとやそっとの駆け引きではピクリともしない。(それで偉そうなことを言うつもりはないのですが、わずかながら保育経験のあるわたしに言わせてもらいますと、脅しのやり方には何のメリットもありません。手っ取り早いが後から苦しいし、子どもを見くびってはいけないとおもうからです)
で、次の頁。
「したくのできないこは、おいていこう」と、おとうさんがいいました。
さて、この家族のすごいところは。口先だけじゃなくって、ほんとうに、もっくんを置いていってしまうところなんですねぇ。やっぱりこの一家はきちんと父親の威厳が機能しています。(心配そうに振り返るかすみちゃん、ただお母さんを見上げて手を繋いでいるれいちゃん)。
さてさて、それでも遊びつづけるなかなか肝っ玉のすわったもっくんですが、ズボンだけがほんとうに、まちきれずパーティーに向かってしまったのだからさぁ大変。
「あ、あ、あっ!まてよー」
さすがの彼も、白いおパンツのまま、外に飛び出しました。
ズボンはひとしきり冒険をし、無事、おじいちゃんとおばあちゃんの家で捕獲成功、というわけです。
この作品の特徴は、ほかの二冊と違って、テキストのまわりにちっちゃな、ちっちゃな挿絵がついていること。これがたまらなく可愛い。
ズボンを必死に追いかけるもっくんをみて、「はっはっは!!!」と声が聞こえてきそうなくらいお腹を抱えて笑うおじいちゃん、「あれまあこんなに可笑しいことは久しぶりですよ」とでも言うように口に手をあてておほほと笑うおばあちゃん。
そして特筆すべきは、
「よく きた、よく きた。いちばんに きたな」ともっくんを抱きしめる、おじいちゃんのかお。もっくんのご満悦なかお。
あぁ、なんて幸せな絵なんだろう。ため息がでます。
おばあちゃん、もうアイスつきのクリームソーダまで運んじゃって、このボンズっ子は着替えもせず遊んで置いていかれた子なんですがねぇ。孫にあまいのは全世界共通だね。(しつこいようだけれども、このおじいちゃんおばあちゃんも絶対に、見たことのあるような二人なんだよなぁ。)
さてさて、ズボンに振り回されたもっくんが、明日からじぶんから支度をするようになりました、めでたしめでたし、と終わらないところが、林明子さんの好きなところ。
最後はズボンを履いてクリスマスを心からたのしむもっくんの絵でおしまい、となります。
(ここまで書いてしまっては申し訳ないなぁとも思うのだけど・・・最後についている楽譜、作詞はかすみちゃん、作曲はれいちゃん、なのです。ははーん、れいちゃんはそういう才があるのネ、自由さが垣間見えるなぁ)。
3、サンタクロースとれいちゃん
さて。最後は、末っ子れいちゃんのクリスマス物語。
突然ですがみなさんは、サンタさんに、頭をそっと撫でてもらったこと、ありますか?
わたしは残念だけれど、ありません。
だって、サンタさんって、寝ている子のところにしか、こないんですからねぇ。
この絵本は、待てども待てども来ないサンタさんのことを、きろりと目をあけたままベッドで想っているれいちゃんの姿からはじまります。
れいちゃんもまた、肝っ玉がすわっているというか、さすが上の二人をよく見ているだけあって、賢くすこやかな女の子。
それで、物語はこの歳の女の子らしいファンタジーな内容になっているのですが、最後、れいちゃんが眠りにつくまでそばにいてくれる、サンタさんのシーンがあります。
このページを見たら、おとなのあなたも、きっとぬくぬくとしたベッドの中にいるような、湯たんぽを入れてもらったような、ぽわんとした気持ちになるはずです。
「わたし、サンタクロースに会ったことがあるの。サンタさんに、頭を撫でてもらって、とんとんしてもらったこともあるのよ」、と、これから言ってしまっても構わないのではないかしらというくらい、サンタさんの手の温度と、かさかさした、はたらく手の質感まで感じとることができるシーンなのです。
林明子さんの絵本の素晴らしさは、「絵がうますぎる」だけでは語り得ない、笑い声やちいさな溜息や冬の寒さまでもが、伝わってくるところにあります。
どうかクリスマスまでのあいだ、こどもがそばにいる方はぜひ一緒に、お布団の中で読んでみてもらえたなら。そんな親子がどこかにいるとおもうだけで、それはわたしにとって、一番の至福の悦びです。
さて、これまで3冊セットの内容をおはなししてきましたが、あまりにもときめきポイントが多く、体温が上がってしまっただけに、わたしはいささかおしゃべりし過ぎたかもしれません。この素敵な作品に免じて、お許しをば。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。それでは、また。
みなさんもたのしい冬を。
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