世界でも稀有な北緯57度線にあるワイナリーのシードル
ヨーロッパの寒い地域ではブドウよりリンゴの栽培が盛んで、シードルがよく飲まれています。北緯57度線と聞けば、誰もブドウワインが作られるワイナリーがあると思わないでしょう。しかし、ラトビアの醸造家マルティンス・バルカンス氏が果敢に挑戦し続けています。アバヴァス・シードルはそんな世界最北のワイナリーで誕生したシードルです。
ラトビアのアバヴァ渓谷
ラトビアのアバヴァ渓谷では、川にはトンボが舞い、夏至の頃には人々が伝統衣装に身を包んで太陽の恵みを祝います。零下30度を超える厳しい冬の間、人々は暖炉の前で春を待ちます。ラトビアのリンゴは、とても複雑な香りをまといます。自然の中でつくられたクラフトシードルは、飲む人たちの旅情をかき立てます。
バルト海の天才醸造家、マルティンス・バルカンスにより、2010年に設立されたアバヴァス・ワイナリーは、寒さの厳しいバルト海のラトビアで、ブドウを栽培するという困難な挑戦からスタートしました。そこで培った経験を活かしたシードルづくりは、その複雑かつエレガントな香りで、ラトビアのみならずヨーロッパ全土で絶賛されています。ドイツのフランクフルトで世界有数のリンゴ飲料のコンペティション「サイダーワールド2019」が開催されました。2019年は、各国の食品業界関係者やトレーナー、ワイン、業界の専門家が審査員を務め、500種類以上のスタイルが発表された中から、厳しい審査基準を満たし最優秀賞を決定しました。
アバヴァス・ワイナリーのアバヴァス・ホップ・シードルとアバヴァス・シードル・ブリュットは共に名誉ある銀メダルを獲得し、高い品質を認められたのです”。アバヴァス・ホップ・シードルは最大108点のうち105点、アバヴァス・シードル・ブリュットは99点でした。コンテスト優勝により、ラトビアという国とラトビアの果実種のブレンドや製法の伝統についてアピールするだけではなく、世界中の新しい潜在バイヤーに興味を持ってもらい輸出市場を拡大する機会も訪れました。
シンボルのトンボ
北の民族は、人間と自然は切っても切れない関係にあると信じています。アババ・ワイナリーは、そのシンボルにトンボを選びました。アバヴァ川の流域には、50種以上のトンボが生息しています。トンボは、大地、水、空気から生まれるものを管理し、統合することを象徴的に託されています。アバヴァ渓谷の自然の恵みと、人間の創造性と職人技の精神が共生しているのです。
物語の始まり
アバヴァス・ワイナリーの創業者バルカンス夫妻がワインの有名な産地であるイタリアのトスカーナへの新婚旅行中に、バルト海の厳しい気候でブドウを栽培してブドウ酒を造るという勇敢なアイデアを思いついたことから始まりました。 マルティンス氏にとっては、ただのラトビア産のワインをつくるというだけでは意味がありませんでした。彼の理想はどこでどんな大切なお客様に出しても恥ずかしくない本格的なワインを一定量以上生産することです。
通常のワイナリーであれば、栽培するブドウの数は多くても5・6種類ほどですがマルティンス氏は2010年に最適な品種を見極めるために40種類ものブドウを植え、ラトビアの土地の気候に適しているか、またワインの味に適しているかをテストしました。ワインの本場を訪ねて栽培方法や醸造技術を学ぶ一方、フィンランドやカナダなど他の北国でワイン造りを試みる人々とも情報交換に努めました。
そして一流のブドウワイン作りを志すと同時に、シードルやベリーワインに着手して成果を上げました。上品なほんのりとピンク色のルバープルのスパークリングワインはスウェーデン女王を迎える晩餐会で提供されたほどの品質です。
北緯57度線にある世界でも稀有なブドウ畑を持つワイナリー
マルティンス氏のブドウ畑は、北緯57度線に位置する世界で最も北にあるブドウ畑のひとつという、ユニークな場所です。
特に寒冷なラトビアでは、ワイン用のブドウを育てるには時間と忍耐が必要です。伝統的なワイン用ブドウ品種のいくつかはテストに耐えられませんでしたが、他のいくつかの品種、主にハイブリッド品種や非ヴィニフェラ品種は最初の結果が良く、マルティンス氏はそれらをワイン用として試すことが出来ました。そしてようやく努力が実り、最初のそして今のところ唯一の重要な収穫は2015年で、5トン以上のさまざまなブドウを収穫し、さまざまなワインスタイルやいくつかのブレンドの実験をすることができました。2010年に設立され、現在ではラトビア産のフルーツやベリーを使ったプレミアムクラフトドリンクを生産するラトビアを代表するワイナリーとして知られています。
ブドウ栽培の挑戦と実験の日々
アバヴァ渓谷はラトビアの首都リガから約12km 車で30分ほどのところにあります。 家族経営のアバヴァス・ワイナリーは、サビレからほど近いエンシェント・アバヴァ・ヴァレーの中心部にあります。マルティンス氏は、サビレから3キロ離れたアバヴァ川流域に、ラトビア産のワインをつくる目的のために購入したこの土地にブドウの木を植えました。ラトビアの寒冷な気候条件下でのブドウ栽培には、挑戦と実験の日々であることは明らかです。苗木からワイン生産に適した作物が収穫されるまでには、数年の月日が必要でした。一方、ラトビアの気候に適したリンゴやベリーから作るシードルやベリーワインの成果は早く、国際的なコンテストなどで受賞していくようになっていきます。
ドイツのサイダーワールドでの最優秀賞
ドイツのフランクフルトで世界有数のリンゴ飲料のコンペティション「サイダーワールド2019」が開催されました。2019年は、各国の食品業界関係者やトレーナー、ワイン、業界の専門家が審査員を務め、500種類以上のスタイルが発表された中から、厳しい審査基準を満たし最優秀賞を決定しました。
アバヴァス・ワイナリーのアバヴァス・ホップ・シードルとアバヴァス・シードル・ブリュットは共に名誉ある銀メダルを獲得し、高い品質を認められたのです”。アバヴァス・ホップ・シードルは最大108点のうち105点、アバヴァス・シードル・ブリュットは99点でした。コンテスト優勝により、ラトビアという国とラトビアの果実種のブレンドや製法の伝統についてアピールするだけではなく、世界中の新しい潜在バイヤーに興味を持ってもらい輸出市場を拡大する機会も訪れました。
シードルと料理
ラトビア産シードルの特徴については前記事バルト海の真珠ラトビア、シードルの国際的コンテストで認められる国で詳しく述べましたが、
ラトビア産シードルは、ベーコンと玉ねぎ入りグレイピース、ニシンの酢漬け、豚肉の煮込み、キャベツ、大麦、シャントレルソース(シャントレルというワイルドマッシュルーム)など、地元の食材や料理とよく合いますが、他の文化の料理にもよく合うのです。
例えば東洋料理には、繊細な寿司料理やスパイシーな肉や野菜の炒め物など、軽いシードルがとてもよく合います。また、シチューやソースを作るときにも、サイダーの甘酸っぱい風味が豚肉、鶏肉、ウサギを完璧に引き立て、淡麗さは魚介類ともよく合います。シードルはチーズにもよく合います。そのため、生産者はテイスティングでこシードルとチーズを一緒に提供することがよくあります。シードルの自然な酸味は、夏に新鮮な野菜やサラダと一緒に楽しむのに最適です。
お祝いの席に スパークリングのシードルは、お祝いの席で輸入品のプロセッコやカヴァ(イタリアやスペインのスパークリングワイン)、あるいはシャンパンの代わりに食前酒として提供されることが多くなっています。ラトビア産シードルの香り高い酸味には実は伝統的なシャンパンの作り方が特に適しているのです。シャンパーニュ製法のシードルについて詳しく
シードルはカクテルにも使えますし、甘いサイダーはデザートとも相性が良いです。シードルのカクテルや、デザートのペアリング
A.ニシンの酢漬け
酸味のある食べ物とシードルはよく合います。酢の酸味とシードルの酸味は調和し、シードルの甘みが酢の酸味をまろやかにします。
B. ベトナムのカリカリ皮の豚焼肉
ワインやシャンパンのようなシードルよりはクラフトビールのようなシードルと合わせることをお勧めします。(もちろん好みによります。個人的見解です。)豚の脂の甘みを引き立たせ、脂ぽさを軽減してくれます。
C. ラトビアの名物ライ麦入りの黒パンを使ったオードブル
パン、サンドイッチやハンバーガーとの相性も良いシードルです。ライ麦入りの香ばしい黒パンのほのかな酸味と苦味がシードルの甘酸っぱさと調和します。
D. アボカドとサーモンとザクロのサラダ
大体のサラダとシードルは相性が良いです。重めのシードルよりも軽い口当たりのシードルと合わせることをお勧めします。
E. アサリのシードル蒸し
アサリの白ワイン蒸しが一般的ですが貝のシードル蒸しも絶品です。シードルが貝の甘みを引き立てます。貝の出汁とシードルが合わさると本当に美味しいです。
F. リンゴをかたどったデザート(中はリンゴのジュレとムース)
デザートとシードルも美味しい組み合わせです。ムース、ジュレ、チーズケーキ、チョコレートが一般的ですが、意外にも和菓子と合わせるのも良いです。道明寺(桜餅)や麩饅頭と合います。
寒冷な地ではブドウ栽培は適さないといわれる中、果敢にもブドウ栽培に挑戦するアバヴァス・ワイナリーとオーナーバルカンス夫妻についてご紹介しました。アバヴァス・ワイナリーでは初めは副次的にシードルが生産されていたのですが、そのシードルの評価が高まるについれ、ワイナリーでの主要な商品となっていきます。ラトビア産のリンゴがシードルに適しているということに加え、ワイン造りのノウハウがアバヴァス・ワイナリーのシードルに生きています。香り高く、澄んでいて、軽い口当たりなのに複雑かつ繊細なラトビア産のシードル。これから、ますますラトビア産のシードルの評価は世界的にも高まってゆくでしょう。