クラフトシードル – 発酵の世界と、醸造家こだわりの製法
ひとことにシードルといっても、いくつかの種類があります。リンゴのブレンド、発酵方法などによって香りも味も変わってきます。シードルのクラフトメーカーが作る個性的で豊かなシードルの製法にはメーカーによってこだわりがあります。まさに職人が生み出すクラフトといえます。今回はシードルの種類と製造工程、発酵についてご紹介します。
本題に入る前のシードルにまつわる小さなエピソード
フランスでは
・自家栽培・自家醸造→フェルミエ
・農家からリンゴを買って醸造する→アルティザナル
・工場で大規模生産を行う→アンデュストリエル
といいます。個性豊かなこだわりのシードルを生み出しているのはやはり、自家栽培・自家醸造のフェルミエです。
リンゴ醸造酒の呼び名は国によって違います。
日本→シードル
フランス→シードル
イギリス→サイダー
スペイン→シドラ
アメリカ→ハードサイダー
ドイツ→アッフェルヴァイン(リンゴワイン)
シードルの種類
発酵タイプ(発泡性)
密閉容器内で発酵させることにより、発生した炭酸ガスを留めたタイプがあります。発酵により自然発生した泡もありますが、人工的に圧入する方法もあります。
酵母由来の自然な泡は発酵完了前のシードルを瓶詰めする方法(「メトード・アンシエンヌ」méthode ancienne)、もしくは瓶詰め時に糖や酵母を投入する(「メトード・シャンプノワーズ」méthode champenoise)方法などがあります。こうした手法は難しく性質が一定せず、時間も費用もかかります。そのため、少なからずのシードルは、人工的に炭酸ガスが圧入されています。この方法をカーボネーション(炭酸ガスの圧入)といいます。
キーヴド・シードル
アルコールと度数が低く、果糖分が高いスパークリングワイン。アルコール度数3%~5%(キーヴィング製法によるもの)
キーヴド・シードルはフランス産が多いです。例えば、サッシー・シードル
サッシー・シードル・クラシック 5.2%
酸味の強いリンゴとビタースイート系の品種を中心に、22種類のリンゴをブレンドしています。フランスらしさをそのままに、現代的にスッキリ仕上げた無添加ナチュラル・シードル。
サッシー・シードル・ロゼ 3.0%
スイート系と酸味の強い品種を中心に、18種類のリンゴをブレンドしています。赤い果肉のリンゴを使い、ナチュラルな甘酸っぱさが魅力です。
サッシー・シードル・ポワール(洋梨) 2.5%
12種類の地元産の洋梨をブレンドした、繊細で上品な味わいと、泡立ちの素晴らしさが際立つスパークリングです。
スティルタイプ(非発泡性)
無発泡タイプ。一次発酵のみか、発酵で生まれる炭酸ガスを除いたものをいいます。リンゴワインとも呼ばれます。
スクランピー、ファームハウスタイプ
スティル(非発泡性)で、濾過しておらず、余分な手を加えず伝統的製法で作ります。不透明なものが多く、薄い金色や深みのある琥珀色まであります。アルコール度数6ー8%くらいのものが多いです。リンゴ由来の渋みや酸味のある風味は、製造された樽によって異なります。
スティルタイプ(非発泡性)でファームハウスタイプは例えば、スペイン・バスク地方のイサステギ
イサステギ・酸化防止剤無添加 ナチュラル・シードル
イサステギ・酸化防止剤無添加ナチュラル・シードルは、バスク産のシードルであり、20種類ものリンゴの天然果汁だけでつくられた、素朴なリンゴのお酒です。原料はリンゴのみ。甘くなく、食事に合い、ペクチンやリンゴ・ポリフェノールなど、抗酸化作用があるリンゴ健康成分もそのままです。
関連記事:原産地呼称「バスクのナチュラルシードル(D.O. Euskal Sagardoa)」の基準をしっかりクリアして、認定を受けているバスク地方のイサステギ・シードル 。その厳しい基準とは?
アイスシードル
リンゴを枝につけたまま収穫せず、冬の外気の中でそのまま凍らせてから作るシードル。カナダなどでよく作られ、糖度が高く、アルコール分も高いお酒になります。果汁を凍らせて作る方法もあります。
アイス・シードルは例えば、エストニアのヤーニハンソ・アイス・シードル
ヤーニハンソ・アイス・シードル
バルト海沿岸エストニアのデザートワイン。 北国の冬で天然果汁を凍らせることで、甘みと旨味が凝縮されています。 375ml 12.0%
関連記事:リンゴ生産などの農業的なバックグラウンドがないヤーニハンソ創業者のロージマ氏が目指すシードルとは?
フレーバード・シードル
洋梨、マルメロ、ベリー類、パッションフルーツなどの果実、ジンジャーを始めとしたハーブ&スパイスで香り付けをしたシードルもあります。
シードルの製法
それではシードルの製法をみていきましょう。
*それぞれのブランドによって製法の順番が前後することがあります。
選果と洗浄
シードル生産の第一段階では、リンゴを洗って選別します。リンゴを洗って軸や葉、小枝、それに腐ったリンゴは取り除きます。
破砕
リンゴの果肉は非常に硬いため、まず砕いて柔らかく潰す必要があります。皮に酵母が含まれているので皮付きのまま砕いていきます。皮にはポリフェノールなどの含有量が多いです。これまで様々な方法がとられてきましたが、最も原始的なものが杵と臼を使ったやり方です。今ではこの方法ではなくミキサーやハンマークラッシャーなどの機械を使い破砕します。
ブレンド:様々なリンゴ種ブレンド、苦味や酸味の強いリンゴ種もシードルの味に個性を出します。
大多数のシードルが異なる品種のリンゴをブレンドしています。最低でも5種類のリンゴをブレンドするところが大多数です。ブレンドには繊細な技術を必要としこのブレンドがそれぞれのブランドのシードルの個性を作ります。伝統的なシードル生産者の多くはこれを目で行い、搾汁の前に異なる品種を混ぜます。このほか、品種ごとに搾汁し、果汁の状態でブレンドしてから発酵させる方法もあります。さらに発酵させてできたシードルを味見してからブレンドし、完璧な味のシードルにするというやり方もあります。
リンゴ果汁の搾汁
細かく砕いたリンゴのもろみをプレス機にかけて搾りリンゴ果汁を搾ります。油圧や手動で圧力をかける垂直型や遠心力を使った伝統的な方法もあります。麻袋にもろみを入れて搾汁することもあります。搾汁の方法のほか、圧力やタイミングでも、味や香りに違いが出ます。
発酵:自然が起こす奇跡のひとつ
発酵については奥深く、いまだに解明されていない部分もあります。発酵は自然が起こす奇跡といえるでしょう。酵母は自然界に、ごく普通に存在する微生物で、糖の分解により増殖します。この過程で生じる副産物がアルコールと二酸化炭素です。
これは、柔らかい果物や搾った果汁があり、適温であれば必ず自然に生じる現象で、アルコール飲料の基本です。人々はこれまでこの現象をコントロールしようと試みようとして発酵についての研究はされ続けていますが、現在でも、ある程度操作しかできず、完全にコントロールすることはできないようです。
天然酵母の発酵にはリスクもはらむ
破砕した果実には天然酵母が含まれ、放っておいても、果汁が発酵してシードルができます。天然酵母は驚くほど多様なため、素晴らしく複雑なシードルになる可能性を秘めている一方で、失敗作になる可能性も少なくありません。発酵の謎が解明されていないことも少なからずあり、常にバクテリア混入による汚染リスクをはらんでいます。
このため、天然酵母を除去し純粋培養酵母に変えて、より健全に発酵させる手法があります。ワイン酵母とシャンパン酵母は、シードルに使用される最も一般的な酵母です。
科学的に管理した状況下では数日で発酵させることも可能ですが、職人気質のシードル生産者なら、低温で数ヶ月はかけてゆっくりと発酵させます。一部の伝統的な作り手は、シードルはタンクの中で発酵を始めると、出来上がるまでそっとしておくべきだと考えています。
しかしながら、酵母が健康健全でなかったり、養分が不足したりすると、発酵がうまくいかず、かび臭い、卵が腐ったような、匂いを発することもあります。
そのため、常に発酵を監視し、要所要所で味見し、酵母に養分が不足していると判断したら、栄養分を足してやる生産者もいます。この作業自体は昔からありますが今日では、果汁に糖分が少なければ糖や酵母専用の栄養剤を添加してある程度コントロールして製造されています。
発酵後の澱引き(おりびき)
発酵が終わると澱(おり)が底に沈むため、クリアな上澄みだけを別の容器に移し変えるお澱引きを行います。澱引きの有無や回数は生産者や商品によって異なります。澱引き後、必要に応じて濾過するものもあれば、澱引きも濾過(ろか)も行わない「無濾過」のシードルも。また搾汁したリンゴをしばらく置いて先に澱引きしてから発酵させるものもあります。
熟成と貯蔵
クラフトメーカーには、発酵が終わった時点で飲むに適したシードルとなっていて、そこから熟成することなく、出来立てが1番おいしいという考えのメーカーもある一方で、発酵後にウイスキー樽などの木樽で熟成させる生産者もいます。樽の材質、また以前に保存されていた酒の風味や穀物に由来する微生物群から、様々な性質が加わり独特の風味や香りがうまれる可能性があります。
シードルの完成後、工場で大規模生産の場合は酵母の濾過や火入れ殺菌をしたり、また着色料や香料、保存料を添加する場合もあります。
関連記事:工業製品のようなシードル?世界最大の生産量イギリスのシードル
その後シードルを容器に詰めます。容器は様々なタイプがあります。大小の樽、ガラス瓶、缶入りなどあります。
長期間(最低でも12ヶ月)熟成させるシードルは 例えば、イギリスのダンカートン
ダンカートン・オーガニック・シードル・ドライ<辛口>(発泡性7.0%)
渋みや酸味がはっきりした5種類のリンゴをブレンドし、7.0%という、しっかりとした飲み応えの辛口です。 世界最大級シードルコンテスト、2年連続で金賞を受賞。 甘みを排した、キレのある、芳醇な香りが特徴。 スッキリした香りの後に、重厚なリンゴの果実味と渋みが広がる、優しくも力強い味です。
ダンカートン・オーガニック・シードル・ブラックフォックス<中辛口>
リンゴ10種類を使った、ダンカートンを代表する中辛口のブレンド。果肉の甘みと皮の渋みが重層的に広がり、優雅な余韻を残します。 圧倒的な果実味が特徴の、英国シードルの伝統に忠実なシードルです。
ダンカートン・オーガニック・シードル・プレミアム <中甘口>(発泡性6.8%)
やや甘口の仕上がりですが、渋みの少ないリンゴに、キレの良い後味のリンゴを加え、甘さだけではない濃厚なシードルに仕上がっています。 皮のかすかな苦みをも含めた、果実をダイレクトに感じさせる官能的なブレンド。天然果汁から来る複雑で豊かな香りだと実感させてくれる逸品です。
シードルの種類と製法をご紹介いたしました。小規模生産のシードル醸造家たちはリンゴの栽培、ブレンド、発酵、熟成にそれぞれのこだわりを持ちます。また、美味しいクラフト・シードルを作るために伝統的な手法を生かしつつ、日々研究を重ねています。こうした彼らのたゆまない努力と情熱によって個性的で味わい深く豊かなシードルが生まれます。次回の記事では砂糖を添加しないのに甘いシードルの秘密にせまります。お楽しみに!