見出し画像

シードルにテロワールの概念をーソムリエからシードルの造り手へ

 テロワールはワインの洗練度と微妙な差異に関わる概念です。フランスのノルマンディー地方でシードルを造るエリック・ボルドレはパリの一流レストランでソムリエをしていた経歴をもちます。シードルにテロワールという概念を取り入れ、フランスのガストロノミー(美食)の世界で注目されるフランスで最も有名なシードルの造り手のひとりです。


シードルにテロワールという概念

シードルにテロワールという言葉が使われると、シードルを知らない人はいぶかるかもしれません。一般的には、特にワインの洗練度と微妙な差異に関わる概念です。けれど、気候や気温、土壌がある特定の果物に大きな影響を与えることが認められるなら他の果物にも、もちろんそれらは影響を及ぼし、それらの果実を使った果実酒にも用いられるてもおかしくないといえます。

*テロワール(Terroir)とは、もともとは「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉で、ワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指す語である。同じ地域の農地は土壌、気候、地形、農業技術が共通するため、作物にその土地特有の性格を与える。日本語では「テロワール」と片仮名転写してそのまま用いられているが、その作物における「生育環境」「産地特性」とでもいうことができる。(出典: Wikipedia テロワール )

「ガストロノミー」シードルを造るエリック・ボルドレ

エリック・ボルドレはフランスでシードルを生産する最も有名なひとりです。ボルドレは自身のシードルのひとつを「アルジュレ」と名付けています。ボルドレがリンゴ花崗岩(かこうがん)を栽培する丘陵地(きゅうりょうち)からなる低斜面の土壌にちなんだ名です。

参照:Eric Bordelet テラヴェール株式会社 Eric Bordelet

今日、フランスのシードルの生産者のなかで最も名高いひとりであるエリック・ボルドレは、1986年から1991年にかけて、彼はパリの三ツ星レストラン「アルページュ」のソムリエとして、ワインの世界で有名でした。あまり知られていない珍しいワインを探し求め、ひとつの料理と最高の相性を見つけるために、一度に20種類ものワインをテイスティングすることもあるほど努力と惜しまないソムリエだったそうです。

美食のためには骨身を惜しまず、芸術の域に高めるような職人気質のボルドレは、パリを離れてノルマンディーの果樹園で働くことを決めたとき、まずブルゴーニュで醸造学の中のワイン造りのプロセスを最初から最後まで学びました。

花崗岩と片岩が混ざった岩場がリンゴに独特の風味を与えていることから名付けられたシードルであるシドレ・アルジュレまでの道のりは長く、シードル作りを始めた最初の年は、飲めるボトルが500本程度、約30年ほどたった今では、年間85,000本以上を生産しフランス国内はもとより、世界中に輸出しています。ボルドレ氏によれば、シードルの正しいレシピにたどり着くまでには10年の試行錯誤が必要で、レシピは毎年の状況に応じて常に進化させなければならないということです。

このシードルのレシピの完成は、「シードルメーカーの個性と表裏一体」であり、大変な努力です。また、リンゴの特性にも関係してきます。ボルドレは4種類の「ガストロノミー」シードルをつくるために、甘み、ほろ苦さ、苦み、酸味という4つのカテゴリーの果汁を生み出す、古木で収穫量の少ない平飼いリンゴを少なくとも20種類組み合わせています。苦味はボディ、甘味はボリューム、酸味はバランスというように、それぞれを組み合わせ味に繊細さと複雑さを出すのです。

昔ながらのシードル街道

フランスのノルマンディー地方の飲酒習慣はユニークです。この地方にはカフェバーが今も残っており、どこへ行っても皆食事の最後にコーヒーを飲み、コーヒーの最後にはもういっぱいのカルヴァドスを、まだ温かいカップに残る少量のコーヒーに混ぜ入れます。ノルマンディーのシードルは昔から変わらず、多くが農家の生産で、40キロメートルに及ぶシードル街道では、昔ながらの納屋を除き、リンゴが圧縮されるのを見学し、シードルを持ち帰ることができるところもあります。 シードル街道についてもっと詳しく:シードル街道で巡る秋のノルマンディー

フランスの乳製品の主要産地であるノルマンディー

さて、ノルマンディーはフランス産牛乳、バター、チーズの主要産地であり、これは果樹園兼醸造所にとって利点でもあります。有名なチーズの産地である、カマンベール、リヴァロ、ポン・レヴェックはどれもシードル産地の中心からわずか数キロにあります。フランス産シードルとその柔らかでクリーミーなチーズがまたとない組み合わせであるのも偶然ではないです。チーズとワインの組み合わせが一般的ですが、シードルとチーズのペアリングもまた美味です。シードル街道ではシードルと一緒にこういったノルマンディー特産のチーズを味わえるところも多いです。

シードル用のリンゴの栽培に適しているノルマンディー地方

ノルマンディー地方のカルヴァドス県の北部に位置するペイ・ドージュ地区は1996年以降「シードル・ペイ・ドージュ」AOCは最高レベルのフランス産シードルの代名詞です。リンゴの種類と生産工程の各段階が細かく規定されており、これによって品質と伝統は維持されるが、現代に大きくアピールできるイノベーションを取り入れるとなると、制約は多い。だが不満を抱える一方で、大半のシードル生産者は、品質が最重要である点は認めています。

*AOC アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ(仏: Appellation d’Origine Contrôlée)とは、フランスの農業製品、フランスワイン、チーズ、バターなどに対して与えられる認証であり、製造過程および最終的な品質評価において、特定の条件を満たしたものにのみ付与される品質保証である。日本語に翻訳すると「原産地統制呼称」「原産地呼称統制」などとなる。 (出典: Wikipediaアペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ )

AOCの指定は一定の品質を保証するものですが、優れたシードルメーカーであれば、シードルの個性はワインと同様、リンゴそのものにあり、さらにリンゴはテロワールに関係していると教えてくれるでしょう。風が強いノルマンディーでは、地上の条件はほぼ同じですが、地下はまったく別の話です。「ノルマンディー地方の2万平方メートルの土地とその先に2万平方メートルの土地では、まったく異なる個性を持つ果実が収穫できるかもしれません」この同じ地区でありながら地質が変わるという現象はフランスでワインを語る上で重要なことであり、シードルメーカーにとっても同様に重要です。まさに、エリック・ボルドレが提唱するテロワールに関わることです。

スペイン・バスク地方の原産地呼称について詳しくはこちら:スペイン・バスク地方のシードル原産地呼称を知っていますか?

フランスは、世界で最も生産コストの高い国のひとつ

フランスは、世界で1番生産コストの高い国のひとつといえます。大量生産ではなく、シードルのクラフトメーカーはコスト面で競争しようとしていません。品質に集中することがはるかに重要だと考えられています。例えば、できるだけ多く果汁を絞り出そうとはしません。1度のリンゴから取るのは580リットル新型の圧縮機なら850リットルです。でも圧縮空気が絞るのに任せると種や皮の風味まで出て少々雑なものになりかねません。なシャンパンと同様に一番絞りのものが、最高の果汁なのです。

フランスの「ガストロノミー」シードルと遜色ないシードル

フランスのノルマンディー地方のシードル生産者、エリック・ボルドレとノルマンディー地方のシードルについてでした。初めて、エリック・ボルドレのシードルを飲んだ時美味しくて感動しました。渋みと酸味とほのかな甘味のバランスが絶妙で、香り高くフランス料理にぴったりで、ワイン以上にフランス料理のフルコースを楽しめたからです。これは個人的見解となりますが、このエリック・ボルドレのシードルに遜色ないシードルが、エストニア産のヤーニハンソとラトビア産のアバヴァスのシードルです。エストニア産もラトビア産もそれぞれ個性がありますが、香り高く、澄んでいて、雑味がなく、味のバランスが良く食事の美味しさを引き立てます。

ヤーニハンソについて詳しくはこちら:エストニアの香り高いリンゴから生まれた、極上のクラフトシードル

アバヴァスについて詳しくはこちら:世界でも稀有な北緯57度線にあるワイナリーのシードル

いいなと思ったら応援しよう!