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「ATMの餌食〜開幕のタンザン鉄道〜」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編⑱〜

 2018年9月10日、ザンジバル生活を終えて、ダルエスサラームに戻ってきた私たちは、いつものレストランで食事をしながら、明日からの予定を確認し合っていました。ATMにカードが吸い込まれたH氏、トランプの大富豪で熱狂していたM氏、オートロック機能によって部屋から締め出されたR氏。7人で過ごした最終日も慌ただしく閉幕。11日、3人はすでにマサシへと向かった一方で、私とぴょんす、Y氏とS氏の4人はタンザン鉄道列車旅を迎えようとしていました。

「何時ぐらいに出ます?」

「そやなぁ、12時に着いといたらええと思うから、11時過ぎぐらいに出たら間に合うんちゃうか?」

「そうだね。それまでにH氏のカード取りに行って、列車泊用の保存でも買っておこう。」

 朝食を済ませた私たちは、H氏のカードを吸い込んだというATMに向かいました。銀行員に昨晩の出来事を話したところ、カードの受け取りは本人でないと無理だ、とのこと。

「彼は早朝のバスで行ったから、もうここにはおらん。」「でも俺らはちゃんと彼の友達だ!」「日本帰国したら、カードを渡す約束をしてるんだ!」

「頼む、そこを何とか!」

「いや、だめだ。渡せない。」

「この写真と同じ人物のはずだ!」

 無謀にも、ザンジバル撮影した思い出写真に写ったH氏を銀行員に見せて、何とか本人確認を試みた私たち。

「おぉ、なんだお前たち。ザンジバルに行ってたのか。」

「そうなんですよ。めっちゃ海綺麗で・・・

 そこからなぜか銀行員とザンジバルトークに花を咲かせました。日本人女性が経営してる場所に泊まったとか、そこの日本食が最高だったとか、人も優しくて自然に囲まれて素晴らしかったとか。H氏がウニを食べて腹を下した話も織り交ぜながら、和やかに会話が進んでいきました。

「・・・で銀行員さん?カードの方は・・・?」

「そうだな。君たちのパスポートを確認させてくれたら、渡してやるよ。」

 4人の圧が響いたのか、ザンジバルトークが効いたのか、H氏が下痢になったおかげか、無事にH氏のカードを回収。銀行員に礼を伝えた私たちは、そのまま食料調達に向かいました。

「あの銀行員、途中から押したら何とかなるみたいな雰囲気あったよな。」

「そうですね。でも正直、すぐ渡してくれるもんやと思ってました。意外とセキュリティしっかりしてるんですね。」

「カード悪用する人も多いだろうからね。そもそもこんな1日で対処してくれる方が珍しいよ。俺がケニアで吸い込まれた時は、まだ無理ってずっと言われて、そのまま泣き寝入りだったから。」

 タンザン鉄道の道中もお金を払えば、1日3食は列車飯が食べられるとのことだったので、間食をメインに選ぶ私たち。やけにカラフルなパンや糖分系のお菓子などを遠足気分で購入し、宿に戻りました。

 時刻は出発の11時。久しぶり大移動に向けて、バックパックを背負った4人がロビーに集合。しばらく滞在していたダルエスサラームともお別れ。お世話になったカレー屋の方角に頭を下げました。

「よし、行くか。無事にザンビア入国、カピリムポシへ!」

 チケット購入に行った際とは異なったルートを走るダラダラに乗ったことで、30分ほどでタザラ駅に到着。相変わらず乗客の多いダラダラ車内を、身を細める形で脱出。12時半のタンザン鉄道に乗るであろう人たちも、続々と降車。敷地内は、あの白く黄ばんだ駅構内へ向かう人で溢れていました。

「まだ30分以上待つよね?俺ちょっとお金下ろしてくるわ。先行ってて。」

 さらに人がひしめくタンザン鉄道のホーム手前のゲートで、ATMに行ったS氏を待っていた私たち。

「ほんまに時間通りに出るんですかねぇ。」

「昨日改めて記事見てたけど、発車まで1日待った人もおるらしいで。だから、いつ着くんかはほんまに分からんな。」

「え?マジですか?やっぱカピリムポシの宿予約せんで正解でしたね。」

「まぁ夜中着いてもーたら最悪やけどな。笑」

 そんな話をしていると、人に埋もれながらも私たちを探すS氏の姿が見えました。

「おーい、S氏ー。」

 S氏も私たちに気付いたようで、手を振り返し、こちらに向かってきました。

「いやぁー・・・カード吸い込まれた!」

「え・・・?」

 爆笑するS氏。それもそのはず、昨日のH氏に続き、まさか7人の中から連日でATMの餌食になる人間が現れるとは、誰も思っていませんでした。その上、S氏にはとっては2回目の仕打ち。

「どうするん?」

「いやぁ、街角に設置されたものだから、H氏みたいに銀行員に助け求めれる訳じゃないし、何よりもタンザン鉄道迫ってるからね。どうにかする時間はないよ。潔く諦める。」

「どうにもできへんのかー。お金は?大丈夫?」

「もう1枚カードあるから何とかね。6万ぐらい亡くなったけど。にしてもケニアとタンザニアで1枚ずつかー。ツキなさすぎるでしょ。」

 焦って嘆くどころか、深く受け入れて笑えるS氏の器のデカさに対して、私は慎重にならざるを得ませんでした。

「もう僕ら、怖くてATM使えないですよ。」

「そういえばカード1枚やもんな。間近でこんなん見せられたら、俺もちょっと躊躇いたくなるわ。」

「ほんと、カード1枚は面白すぎるよ。俺なんてすでに2枚失ってるのに。」

「うわー、ほんまに嫌なってきました。」

「大丈夫だよ。アフリカでATMにカードを吸い込まれる日本人の確率を、俺とH氏で下げといたから。2人にツキを全部受け取ってもらって。」

 片膝立ててありがたく、の状況を過ごしたところで、時刻はすでに出発予定の12時半を周っていました。しかし、これが当たり前だと言わんばかりに、周囲がざわつくことはありませんでした。何のアナウンスもないまま、ゲートが開く気配もなく、刻々と時間が過ぎていきました。

「これ長時間待たないとあかんやつじゃないですか?」

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