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「250円の人間」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編⑬〜

 2018年9月8日、ザンジバルに向かうため港へ向かった私たち。長蛇の列と閉鎖的な空間によって汗だくになりながらも、出国手続きのようなものを済ませ、チップ欲しさの荷物持ち現地人を躱し、フェリーに搭乗。割と快適に眠ること2時間弱、ザンジバルに到着しました。まずはストーンタウンへ歩き始めた私たち。世界遺産に登録されている街に見惚れながらも、経由地であるクワラカオを目指すため、バスを探していました。しかし、現地人に聞いて回ってもなぜか皆、別の方向を指差し、バス停が一向に見つからないまま時が過ぎていきました。

「クワラカオに行きたいんですけど、バス停はどこですか?」

 この質問回数も2桁に近づいて来た頃、1人の男性が直接バス停まで案内してくれることになりました。ストーンタウンの文化的街並みからどんどん遠ざかって行きましたが、どれが正解か分からないのでとりあえず彼の後についてく私たち。

「(今回もハズレかなー。)」

 すでに観光地の空気感はなく、現地人だらけの住宅街のような場所。しかし、番号は違えどバスが何台か行き来しており、その辺りには人だかりがちらほら見えました。

「ここで待っていたら大丈夫。色んなバスが来るから乗り間違えないようにね。」

 彼はそう言うと、案内料としてのチップを要求することなく去っていきました。

「ほんまにここであってますかねぇ。また別の場所行くのもうめんどくさいですよ。」

「一応聞いてみるか。」

 周囲にいた現地人曰く、私たちの乗る予定である510番のバスはもうすぐここに到着するとのこと。信用していた訳ではありませんが、他に行く当てもなかったのでそのまま待機。すると数分後に510番のバスがやって来ました。

「おい!お前たちの乗るバスが来たぞ!」「これに乗ればクワラカオまで行けるよ。」「早く荷物を持って!」

 周囲の人がわざわざ私たちに声をかけ、走ってくるバスに手を振ってくれました。序盤に尋ねた人たちがなぜバス停を知らなかったのか、そもそも適当に言ったのか。なぜあの男性はこの場所を教えてくれたのか。よく分からない30分間を過ごした私たちの前に、ようやく目的のバスが現れました。

「クワラカオまで行きたいです。」

「分かった。じゃあ1人500円ね。」

「いや高いやろ。嘘つくな。」

 情報収集によると、この辺りからクワラカオまでの最安値は1人150円。明らかにふっかけてきた運転手。たかが350円、されど350円の損失。塵も積もれば。しかもこれは重量級の塵。7人がかりで交渉開始。と思いきやY氏がこれまでにない剣幕でブチギレ。この7人の中で1番年上のY氏は、その責任感から、他6人が追いつけないほどの先頭を走ってくれました。しかし、両者FUCK系の応酬で、とても具体的な交渉にはならず。

「あれは本当に日本人か?某国の人じゃないのか?」

 周囲にいた現地人から、そう疑われてしまうほどの怒号。私たちもY氏に加勢するべきでしたが、いきなりの温度差に対応できず、周囲の人と冷静を装って談笑開始。

「あれはいつものことなんだ。」「またやってるよ。」

 Y氏1人を完全に槍玉にあげてしまった私たち。口論はしばらく続き、Y氏の粘りからバス代は半額まで下がりました。

「「「Y氏、すいません。ありがとうございます。」」」

 バックパックを背負い、バスに乗り込もうとした私たち。しかし。運転手がそれを阻止。

「何?金払ったやろ。」

「お前たちの荷物は大き過ぎてバスの中には持ち込めない。バスの上に乗せるから、荷物代1人250円だ。」

「荷物代?何それ!」

 バスとは言っても、大型バンのような車。それでも、自身のスペースが狭くなることさえ我慢すれば、膝に荷物を乗せられる余裕はありました。

 ここでも抵抗を見せるかと思われたY氏でしたが、そうはありませんでした。若干引き気味の周囲の現地人、バスの停車時間が長いことによる乗客たちの冷ややかな目。何それも私たちの援護射撃に期待がなかったこと。以上の3点から250円を受け入れることなった私たち。結局、Y氏の抵抗虚しく、料金の合計は500円。運転手が言って通りになってしまいました。

「(人間250円、荷物250円。何これ?笑)」

 30分ほどバスに揺られ、クワラカオに到着。屋根から無事に荷物を受け取り、次の目的地であるパジェに行くため、バスの乗り換え。住宅やレストラン、屋台が並んだ活気溢れる街を歩きました。さすがは観光地パジェ。道行く人にバス停の場所を尋ねると、先ほどとは異なり、全員が同じ方向を示しました。数分歩いて、バス停であろう場所に到着。バスの到着までまだ時間があるということなので、近くにある屋台で軽食をいただくことにしました。海鮮串の焦げた香りが購買欲をそそりました。各々、タコやら魚の串をを食べながら、今度は410番のバスを待ちました。

「おぉ!バスが来たぞ!」「パジェ、パジェ!」

 またしても周囲の現地人が私たちにわざわざご報告。また値段交渉があるのかと嫌な予感がしていました。

「パジェまで行きたいんですが、いくらですか?」

「乗車代が1000円と荷物代で500円だから、1人1500だね。」

 情報収集より少し割高。ということで交渉開始。

「もう少し安くして欲しい!1200円!」

「いやぁー。1300円だな。」

 ストーンタウンからクワラカオまでの距離の倍以上ということや、荷物代の請求が後出しではなかったこと、私たちの交渉エネルギーの欠如、何よりも荷物代よりも人間の方が高値という安心感。これら4点の理由から、Y氏が激情することなく交渉終了。

「(優しいんか、お金欲しいんか、教えるのがめんどくさいんか、嘘つきなんか。よく分からん島やなぁ。)」

 荷物を預け、バスに乗車。どのバス停から乗って来たのか、他国の観光客が半数を占める車内。いよいよ目的地パジェへ。そこまで道路が広くない街中にもか関わらず、とんでもないスピードで走るバス。対向車とのすれ違いにびくつきながらも、前日の遠足気分のせいで眠気が勝利しました。

 1時間以上かかる予想でしたが、50分ほどでパジェに到着した私たち。1泊目の宿、KANE HOUSEまでここから徒歩15分。海風に背中を押され、草木に挟まれた真っ直ぐな1本道を歩きました。

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