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「高所恐怖症 VS ビクトリアフォールズ」アフリカ大陸縦断の旅〜ザンビア編⑦〜

 2018年9月14日午後8時前、晩御飯のため近くのスーパーに向かった私たち。お目当てはザンビアで安くて美味いと評判のザンビーフ。閉店間際にそれらを大量に購入した私たちは、宿に帰って早速調理開始、と思いきや誰も料理をできる人がいないという事実が発覚。キッチンにいた西洋人たちにも協力してもらい、何とかTHE 焼き肉が完成。旅と飯は切っても切れない関係であるということに気付かされたのでした。

 2018年9月15日午前8時起床。この日の目的地は、ザンビアには世界三大瀑布の1つである、ビクトリアフォールズ。調べたところ、午前10時の無料送迎バスが出ているということなので、それまでまったりと朝食タイム。すると、私たちの話が聞こえていたのか、宿のスタッフが声をかけてきました。

「今日ビクトリアフォールズに行くのか?」

「そうなんですよー。」

「ジンバブエ側には行かない方がいい。ザンビア側からだけ見るんだ。」

「え?何でですか?」

「昨日の夜、ジンバブエでテロがあったらしいんだ。だからしばらくはジンバブエに行かないことをお勧めするよ。」

「・・・そうですか。」

 このビクトリアフォールズはザンビアとジンバブエの国境に跨っており、どちらの国からも見ることができるのですが、ジンバブエ側からの方が美しいとのこと。さらにジンバブエ側にはデビルズプールと呼ばれる、滝の上で水に濡れながらビクトリアフォールズを一望できるという、Y氏のカメラマン心をくすぐる撮影スポットあり。

「Y氏、どうします?」

「せっかくここまで来たのになぁ。どうしよ。」

 ネットで検索してみるも、それらしき情報にはヒットせず、すでにバスの時間は迫ってきていました。とそこへ、どうやら私たちと同じ行き先である旅行客が通りかかりました。

「ビクトリアフォールズ行くんですよね?」

「そうだよ。ザンビア側だけだけどね。」

「やっぱりテロの影響でですか?」

「テロ?それは分からないけど、今ジンバブエではコレラウイルスが流行ってるって聞いたから、あまり行く気になれなくてね。」

 あまりにも異なる別の危険な理由に、顔を見合わせて唖然とする私たち。

「どういうこと?どの情報がほんま?」

 再度ネットで検索してはみたものの、ヒットは0件。

「これはまたタンザン鉄道パターンやん。」

「どっちもほんまか、どっちかほんまか、どっちも嘘か。」

「全く別の何かってこともあるよね。」

 散々に頭を抱えてしまう私たち。火のないところからも煙が立ちまくる、アフリカの情報錯綜。デモによって強制下車を喰らったタンザン鉄道。しかし、その事実は未だ不透明なまま。テロやウイルスという脆いながらも強大な壁に、当たって砕けろ精神はあまりに血の量が多すぎる。私たちはまたしても、真偽の分からぬ流布に行き先を阻まれたのでした。

「Y氏、楽しみにしてたのに。延泊して待ちます?」

「いや、いつ回復するか分からんもん待ってられへん。もうちょいマシな理由なら無茶して飛び込めるけど、デモテロウイルスて!」

「そんなリズムよく言うのやめてもろていいですか?笑」

 諦めをつけるには、あまりにも容易い理由たちのせいで、もはや笑いながら私たちは無料バスに乗ってビクトリアフォールズに向かいました。

 そして約30分後、ビクトリアフォールズの正門に到着。受付にてチケットを購入し、いざユネスコ世界遺産へ。入口にはがずらりと並ぶ土産屋さん。滝関連のグッズはもちろんのこと、変なマスクや衣装や装飾など、何とも雑多。その中でも一際、私の気を引いた作品がありました。それは木で作られた小さな器、それにはティンガティンガ(タンザニア発祥、植物や動物などの自然が手書きで描かれていることが特徴)と思しき作風の絵が施されていました。

「また滝を見たら戻って来るよ。」

 そう店頭のおじさんに伝え、待ち構える大自然へと足を進める私たち。まだまだ滝からは程遠いようで、地図によれば林道を歩いて抜けた先、とのことでした。徐々に高くなる緑の木々を見上げ、涼しくなった空気を大きく吸いながら前進。すでに観光を終えたのか、すれ違う観光客は額に汗を流し、少しだけ息の上がっているように見えました。

「まだしばらく歩きそうやなー。けど空気澄んでて気持ちええわ。」

「さっきの人なんか濡れてたけど汗?滝まで近づけるってこと?」

 しかし、私にはそんな楽しげな会話に参加している余裕はありませんでした。

「(さっきの地図、吊り橋的なやつあったように見えたけど。はぁ、俺だけ滝に辿り着かへん可能性がある。)」

 そして、湿度の高まりを肌に感じ始めた頃、林道を抜けて開けた場所に到着した私たち。目の前には長さ数十メートルの吊り橋、その奥には写真を撮り合う観光客たちの姿。その向こう側に見切れるビクトリアフォールズ。

「おお!もう見えてきてるやん!」

 何の躊躇もなく吊り橋を渡ろうとする3人。その高揚して早足になる背中を見たまま動けずにいる私。

「何してるーん?」まさかの高いとこ無理?」「はよ来いよー!」

 すでに橋を渡り切った3人の声。それに反応してこちらを見る他の観光客。なぜか、なるべく膝を曲げながら、橋のど真ん中をゆっくりと忍び歩く私。その両側を爆笑して動画を撮りながら、颯爽と通り過ぎて行く観光客たち。薄めを開けて進む視界の中に真下の景色が飛び込んできました。

「(こっっわ。確か、滝の落差100メートルとか何とか言ってたな。落ちたら即死や。)」

 恐怖心と羞恥心に煽られながらもスピードを上げる訳には行かず、3人の10倍以上の時間をかけて、赤面フィニッシュ。

「めっちゃ笑い取ってたやん。」

「笑われてただけですよ!不本意ですし。」

「頑張って来たから良い写真撮ってあげるよ。」

 そして正面に現れるビクトリアフォールズ。落差108m、幅約2kmという偉大な大自然。青空から留まることなく流れてくる大量の水が、長い時間をかけて削られ続けた岩肌に乗って加速。その勢いと落差で飛び散った水分が、太陽光に反射して作られる虹。

 しばらく、その雄大な姿に見入っていた私たち。

「でかいな。これで乾季か。」

「雨季やったら、こっちまで水飛んでくるんじゃない?」

 と言葉を交わした瞬間がおそらく、第一感動段階終了の笛。一気に現実味を帯びた今の状況に、再び顔を出す恐怖心。

「めっちゃ良い写真撮れそうやで。ちょっと、その柵のギリギリ立ってみて。」

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