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「災難ってモンはたたみかけるのが世の常だ」アフリカ大陸縦断の旅〜エチオピア編⑭〜
2018年8月26日お昼頃、カロ族とお別れし、ゴルチョ村を出発。原住民の余韻に浸ったままの私でしたが、とりあえずトゥルミまで戻るため、ジョンが運転するバイクの後ろに跨りました。「なぜ、カロ族に興味を持ったのか。なぜ、原住民を魅力的に感じているのか。」獣道の帰路に耐えながら、私はその答えを探すべく、思考を巡らせていました。
カロ族の暮らしという未知の世界。彼らを学び、構築されていく知性。そして抱いた強烈な好奇心。と同時に思い出したのは、エチオピア初夜に感じたこと。崩壊していく知性。そして、未知の世界に放り出されるという恐怖。
この2つの出来事から、未知、知性、恐怖、好奇心の4つが循環しているという考えに至った私。そして、この繰り返された循環は新たな知性を産み出し、興味という土台を創り上げていたのでした。
「(カロ族の暮らしを経験できて良かったなぁ。)」
納得のいく答えを出せたことに満足し、改めてカロ族に感謝していた私。ろくに景色も見ず、何分、何時間が過ぎていたのかさえ分かりませんでした。ふと顔を上げると、未だ獣道の中。
「(なんや、まだあんま時間経ってないんか。)」
体感では1時間ほど経過していたので、そろそろ大きな砂の道路に出る頃。しかし、心なしかバイクの速度が遅い。獣道ということを加味しても、明らかにゆっくり走るバイク。
「(まさかのガソリンないとか、、?まだ、だいぶ距離あるけど。)」
今どこにいるのか、と焦った私は、景色を見ただけで分かるはずないことを自覚しながら、辺りを見渡しました。
「やっぱ、分からんわ。笑」
呑気に独り言を呟いていました私でしたが、行き道と異なる状況に気が付いたのです。
「はぐれてるやん!!!」
行き道は2台、べったりと来ていたはず。しかし、今はぴょんすが乗っているはずのもう1台のエンジン音さえも聞こえません。
「(まぁでも、ジョンは週1回仕事で来てるって言ってたし、大丈夫か。)」
そんな思いとは裏腹に、減速していくバイク。獣感が増していく、確実に初見の道。どうかしたのかと聞こうと思いましたが、これまで共に過ごしてきた中で、完全にジョンを信用していた私。
「(何とかなるよな!)」
しかし、この楽観思考も束の間、ついに目の前から道がなくなりました。
「・・・ Are you lost ???」
「No, problem . Don't worry !!!」
道に迷ったのかという質問に、食い気味で大丈夫だと言い張り、アクセル全開で来た道を引き返すジョン。
「(完全に迷ってるやん!週1の仕事わい!)」
「(いや、そんなこと言ってる場合じゃない。電波もないし、人もおらん。ガソリンの制限もある。問題だらけやん!)」
とは言っても、私に何かできることがある訳ではありません。異常な速さでウィンカーをカチカチするジョンを確認し、これ以上機嫌を損ねないでおこうと思い、黙ったまま後ろに座っていました。
ここから30分、そして早くも1時間が経過。5回以上行き止まりに遭遇し、一向に獣道から出られる気配はなし。完璧な迷子。
「ジョン。遠回りになってもいいから、1回人がいそうな場所に行って、道を尋ねよう。」
こんなところで日が落ちてしまうのは怖すぎる、という思いから、私は恐る恐るジョンに提言しました。すると、さすがに自力では無理だと諦めたのか、ジョンはこの意見を渋々受け入れたのでした。
幸いなことに、工事の車をちらほら見かけていた私たちは、遠目に見える巨大クレーン車に向かって、バイクを走らせました。
数十分後、工事現場に到着。作業着を着た男性が2人。何やら会話をしているジョン。
「(ほんまに大丈夫かなぁ。)」
しかし、相変わらずできることはないので、黙ってバイクの後ろへ。そこから、また数十分、また数十分と、人に聞いて回るジョン。
「(目的地、工事現場なってない?)」
と思いながらも、しばらく経つと、ようやくあの開けた道に出ました。
「OK!OK!!!」
と言いながら、雄叫びを上げるジョン。声の大きさと興奮が、迷子であったことをしっかりと証明していました。本当にやばかったんだと、恐怖した私。
そこからは、行きと同じ砂の道路。見たことのある休憩所に安堵し、砂まみれになりながらも、ようやくトゥルミへと辿り着きました。
時刻は15時半。ここから、ディメカ、カイヤファールを経由し、コンソに向かうこと。そして、明日か明後日には、コンソからケニアへと入国する計画を立てていた私たち。カロ族訪問を終えた今、この場所に留まる意味はありませんでした。
「(もう日没も近い。早く戻らないと。なるべく、余計な出費は避けたい。)」
ジョンにお金を借りている無一文の私たちは、ATMのあるコンソに一刻も早く辿り着く必要がありました。
「ジョン、なるべく早くコンソに戻りたい。ここからバスとかは出てる?」
「あぁ問題ない。もう時期バスが来るよ。コンソまで直行のね。」
「マジで!?それはありがたい!」
そして、しばらく待つと、大きめの車が到着。すでにいた乗客と軽く挨拶を交わし、着席。
「(朝早口から動き回ったから疲れたわ。コンソまで長いもんな。ジョンがいて安全やし、今のうちに寝とこう。)」
トントン、、トントン、、、
目の前にはジョンの姿。急に肩を叩かれて目を覚ました私。外はまだ明るい様子。
「・・もう着いたん?って感じではないか。」
眠たい目を擦って、外に出た私たち。〜族と呼ばれているであろう人が私たちの前を通っていきました。見たことのある景色。ここがディメカであると確信しました。
「(コンソまで直行、、、。)」
ジョンにあれこれ聞こうと思いましたが、ジョンも不本意な様子。しかも私たちは、お金を借りている立場。
「えーっと、乗り換え、、、?」
「また別の車を待たないといけない。しかも、それはカイヤファールまでしか行かない。コンソは明日になるかも。ごめんよ。」
悲しそうなジョンの姿に私たちは何も言えず、近くにあった適当な椅子に座り、無言でバスを待つことに。
「お腹空いてない?コンソまで行けそうにないし、ご飯奢るよ。」
断ろうとした私たちでしたが、インジェラとカロ族飯しか口にできていない私たちは、常に空腹でした。そして、ここからは、いつ何を食べられる分かりません。
「少しだけ。」
そう言った私たちに、ジョンは小さく頷いて席を離れました。
「買ってきたよ。」
ジョンの両手には、3人分の肉とパンとジュース。恐らく、私たちがインジェラを苦手と分かった上での選択でした。しかも、腹一杯になる量。私たちはジョンにお礼を言って、お腹を満たしながらバスを待ちました。
そこから約30分後、ついにバスが到着。すると、突然、近くにいた男性が大声を上げました。
「何!?」
声のする方を見ると男性2人が取っ組み合いの喧嘩。徐々に大きくなる怒鳴り声。でかい図体で、互いに容赦無く殴る蹴る。しかし、周りは特に気にする素振りもなく、男性2人の目の前を通過。
「(巻き込まれたら死ぬて。エチオピアはこれ普通てこと!?)」
ちらっとジョンの横顔を確認しましたが、周りの通行人と同じく、素知らぬ顔。状況が理解できず、そわそわする私たち。すると、喧嘩をしていた1人の男性が、その場を離れました。
「(なんや、終わったんか。良かった良かった。)」
と安心していると、離れたはずの男性が走って戻ってきました。彼の両手にはでかい岩。まさか、とは思いましたが、そのまさか。彼は先ほどの喧嘩相手に、思い切り岩を投げつけました。背中に当たったのか、重たく鈍い音が響きました。倒れ込む男性。さすがに叫び声を上げる周囲の人々。そして、こちらに飛んでくる2投目。慌てて逃げる私たち。
「(死ぬ死ぬ。)」
命の危機を感じた私たちは、まだ準備中であったバスに大急ぎで乗り込みました。ジョンが何かを運転手に話し、すぐさまバスは出発。
窓の外はまだ騒がしく、倒れていた男性は起き上がったようで、また激しい喧嘩を始めていました。
「はぁ。もう生きてるならなんでもいいよ。」