「お値段以上、JT」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編㉒〜
2018年9月12日夕方ごろ、状況を把握することができないままタンザン鉄道を下車することになった私たち。混乱に陥る周囲に流されながる中、同じ車両に乗っていたイタリア人男性が現状を説明してくれたのでした。彼によると、ザンビア側で暴動が起き、タンザン鉄道はこれ以上先に進めなくなったとのこと。他にも様々な情報を教えてもらいました。駅長に返金を要求し、国境付近まで行くバスのチケットを入手。複雑に絡み合ったわずか数時間の出来事が私たちの精神に心地良いリズムを生み出しました。それが途切れないよう、流れるままに私たちはバスに乗り込み、タンザニアとザンビアの国境へと向かったのでした。
やはり突然のタンザン鉄道停止による影響は大きく、さらにバス以外の交通手段がないゆえに、車内は大混雑。他の乗客の呼吸を肌に感じながら、すでに暗くなった窓の外を眺めるだけの時間が続きました。
「（国境付近まで行くって言ってたけど、どこで降ろされるんやろう。今日泊まるところは？明日にはもうバスで移動してるんかな。いや、そもそもザンビアには入国できるんか？）」
全身に響くリズムを途切れさすまいと思い、何にもぶつからず乗車したバス。乗客の多さも影響し、そこに運転手と会話をする隙はありませんでした。その結果、正直このバスを降りれば分からないことだらけ。しかし、未来の自分は何とかしているんだろう、と確信していました。
バスは1度も停車することなかったので、最後まで乗客の数は同じ。安心感を得られない人との距離間のせいで、携帯を取り出して地図を見られる余裕はなく、ただただ警戒心だけを保つこと2時間。ようやくバスが停車し、前のめりに降車していく乗客たち。すでに時刻は夜の9時を回っており、建物や街灯の少なさが、一層寒さを感じさせました。
「・・・どうします？」
「・・・宿探さないとだよね。」
車内で誰かと連絡を取り合い、何か手立てを作っていたのか、降車後には迷うことなく方々に散らばって行く現地人の姿。私たちに情報をくれたイタリア人は同じバスに乗っていたのか。暗闇のせいで他の様子が正確にわかるはずもなく、とりあえずバスから離れ、4人で固まった私たち。黒い人混みにかき消されるように、あの心地良いリズムは失われた上に、何1つ決定事項がない現状。この先、流れるままに動く訳にはいかず、およそ2時間半ぶりに言葉を交わしたのでした。
「ここから国境まで歩いて行ける距離っぽい。」
「タンザニア側の国境付近に何個かホテルあるね。」
「もう完全に夜なんで、値段とか環境は気にしてられないですね。」
空き部屋があることを祈りながら、暗く寒い中、国境へと歩き始めた私たち。それぞれが地図と周囲に目線を行き来させながら、歩くこと数十分。遠目からでも、分かりやすく光っている建物を発見。どう見てもそこそこの値段を要求されそうな外観。
「宿泊したいんですが、部屋空いてますか？4人です。」
「大丈夫だよ。何泊するんだ？」
「（あー、どうしようか。）」
先陣を切ってくれていたY氏が、こちらに振り向きました。この場所からいつ移動できるのか、これからどうするのか、と顔を見合わせる4人。すると、何やら決めかねている私たちの様子を察してくれたのか、受付のお兄さんが話を聞いてくれました。
「どうしたんだ？明日ザンビアに入国するんじゃないのか？」
「実はですね・・・」
この時間に予約なしで外国人が尋ねて来ることが珍しかったようで、私たちがここに流れ着いた経緯に、彼は耳を傾けてくれました。
「・・・ということあったので、これからどうしようかと。」
「なるほど、なるほど。今のところ、ザンビアに入国できないっていう情報は僕のところには来てないよ。国境は24時間開いてるはずがから、チェックインの後、行ってみたらどう？タンザニア出国とザンビア入国の手続きは今日中に済ませれるはずだよ。」
「そうなんですか。分かりました。ありがとうございます。」
「バスもまだ動いているはずだけど、チケットが取れるかはさすがに分からないな。とりあえず1泊していくか？」
「そうします。たくさんの情報をありがとうございます。」
1人1000円という良心的な価格をお支払いし、部屋に案内された私たち。どう見てもお値段以上、ニトリ部屋。これまでの宿にはなかった、家具の光沢感。一度そこに横たわってしまったら最後、動けなくなりそうなベッド。ということで、私たちは荷物を置いて、すぐさま国境に向かいました。
時刻は夜10時半。歩いてすぐにある国境。
「（こんな時間にほんまに開いてるんかな。俺らが出ていってる間に荷物盗まれたりして。いやいや、あのお兄さんがそんなことするとは思えん。はぁ、今日中に出入国終わらせて、何なら明日のバスのチケット取れたら1番ええんやけど。）」
行ってみないと分からないことだらけ。今はあのお兄さんの、ひとのときを想う、JTフェイスを信じるしかありませんでした。
「（早く帰ってあのベッドで寝たいなぁ。）」
全員がそう思いながら、暗くて寒い道を歩きました。