「荒野のヒッチハイク」アフリカ大陸縦断の旅〜ナミビア編④〜
2018年9月17日午後3時、無事に自転車を手に入れ、旅のしおりとして最終確認を行った私とぴょんすは、長らくお世話になったY氏とS氏にお礼を伝え、ケープタウンに向けて出発。これから先のことを思えば恐怖や不安がちらつきましたが、同時に好奇心と本能が顔を出すことにも期待。様々な感情が交錯しながらも、私たちはヒッチハイクポイントであるB1という大きな道路に到着したのでした。
さすがは首都ウィントフックと他の街や村を繋ぐ、主要な1本道。おそらく2点を行き交うほとんどの人が、この道路を利用するといった様子。まだ明るい時間帯ということもあり、5分に1回は必ず最低でも1台の車とすれ違いました。
「良かったわ。全然、車通らんかったらどうしよ思てヒヤヒヤしてた。」
「ひとまず交通量は申し分ない。後は乗せてくれるかどうかやけど。」
止まることなく自転車を漕ぎ、遠くの方に車が見えてきたタイミングで自転車を降りて、片手をあげてグッドサイン。そして、運転手はこちらを見る素振りもなく、ただただ目の前を通り過ぎて行く車。これを何度も繰り返す私たち。
「これヤバいんちゃう?日暮れてまうて。」
「やっぱチャリ2台が良くないんか。『いや、お前らチャリあるやん!』ってなるのも当然やんな。」
「草むらに自転車隠して、止まった状態で試してみよう。」
「チャリは後出しで勘弁。」
作戦会議の結果、自転車を道路脇の荒野に倒した私たちは、日暮れまでヒッチハイクを続けてみることになりました。このナミビアという国、外国人観光客がレンタカーを利用することが多いらしく、サングラスをかけた西洋人が乗った車が猛スピードで通り過ぎる場面に多々遭遇。それでも数十分後、1台の車が私たちの姿を見て減速し、少し先の路肩に停まってくれました。
「よっしゃ!これはいけるんちゃう?」
「作戦成功やろ!」
荷物もチャリも置いたまま、停まっている車に駆け寄る私たち。そして、荷物が荷台になっているタイプの黒い車から、恰幅の良いサングラスをかけた白人男性が出てきました。
「どこまで行くんだ?」
「ケートマンスフープに近付ければどこでも大丈夫です。」
「そうか、後20分ぐらいしか走らないけど乗っていくか?」
「はい!お願いします。・・・っと自転車あるんですが。この後ろ乗っても大丈夫ですか?」
彼は自転車のワードに少し首を傾げていましたが、よく分からなすぎたのか了承し、一緒に私たちの荷物や自転車を荷台に乗せてくれました。
「兄ちゃんたち、自転車には乗らないのか?」
やはり当然投げかけられる疑問。
「ケートマンスフープからは、ケープタウンまで1000km自転車で行きます。それまではヒッチハイクで移動してみようかなと。」
「頭がおかしいんじゃないか?でも、めっちゃ格好良いな!頑張ってくれ!」
「あ、ありがとうございます。」
「もうちょっと話聞きたいけど、そうだな・・狭いけど2人で助手席に乗ってくれ。」
「は、はぁ。」
思いもよらぬ彼の熱量によって助手席に詰め込まれた私たちは、そこから20分ほど彼の質問攻めに合うことになりました。泊まる場所、食料などケープタウンまでの道のりから、これまでの旅の話、日本がどんな場所かまで、当事者である私たちでさえ分からないことだらけ。それでも、彼の親切心と応援は私たちの背中を強く押してくれたのでした。
「申し訳ないけど、この辺りまでだな。良い若者と出会えたよ。気をつけてな。良い旅を!」
「本当にありがとうございました!頑張ります!」
彼と固い握手を交わしてお別れし、細い横道へと曲がって行く車に頭を下げた私たち。
「めっちゃ良い人やったな。1台目でこれはほんま元気出る。」
「見知らぬ外国人の若者にこんな熱上げてくれるなんて中々ないことやでな。」
時刻は午後4時半前、もうすっかりウィントフックの街並みは見えなくなり、周囲には全く建物のない荒野の中。また自転車を草の上に倒し、バックパックを下ろして少しだけ水を口に含んだ私たち。たまに通るトラックがくれる風に涼しさを感じながら、引き続きヒッチハイクを再開させました。
そして、そのわずか数分後、自転車ベタ置き作戦が功を奏したのか、今度は黒い自家用車が路肩に停車。まさかこれほど早くチャンスが訪れると思っていなかった私たちは、慌ててペットボトルを投げ出し、車へと走りました。
「乗って行くか?」
そう言って窓を開けてくれた天パのアフリカン男性、とその横にはこちらをまじまじと見る奥さんらしき女性。ありがたい声かけではありましたが、どう見ても最大5人乗りの自家用車。後出し自転車を乗せられるスペースはありませんでした。
「すごい嬉しいんですけど、自転車も2台あるんですよ・・・。」
「おぉ、そうなのか。」
すると彼は何やら隣の女性に話を始め、そして彼の話に黙って頷く彼女。
「まだここにいるだろ?少し待っててくれ。家にこれより大きい車が1台あるんだ。それなら自転車も乗せれるはずだ。1時間ぐらいなら運んであげられるよ。」
と言って暖かい微笑みを私たちにくれる彼。そこまでしなくても、と断りを入れるお気遣い精神が生まれた私たち。しかし、日没までになるべく先に進んでおきたい自分本位の精神が、その上からガッチリと蓋をしました。
「本当ですか?ありがとうございます。ここで待っておきます。」
アフリカンご夫妻のお言葉に甘えた私たちは、荒野に腰を降ろし、彼らが大きな車に乗って引き返してくれる時を待ちました。