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「ドログバよりヤヤトゥレ」アフリカ大陸縦断の旅〜タンザニア編⑭〜

 2018年9月8日、多くの現地人にバス停の場所を聞き、ようやく510番のバスに乗れることになった私たち。しかし、値段交渉に手こずった結果、人間250円、荷物250円でクワラカオへ向かうことになりました。30分ほどで到着し、次はパジェという場所へ。海鮮串を購入しながら、バスを待ちました。今度の値段交渉は上手くいき、人間1000円、荷物500円という安心価格で出発。驚くべきスピードで走るバスのおかげで、予想よりも随分と早い時間にパジェに到着。私たちは1日目の宿泊先であるKANE HOUSE へと歩き始めました。

 時刻はお昼過ぎ、強烈な日差しが降り注ぐ1本道。空と道路がボヤける境界線。両側には煌々と生い茂る草木が続いていました。海の香りに喉が渇きながらも、近づく楽園の景色に心踊らせていました。

 歩くこと数十分、お目当てのKANE HOUSEに到着。ウッドベースの内装に、大きなソファが置かれたリビング。個室として設けられた4部屋は、十分な広さと清潔感。Wi-Fi環境も申し分なく、何よりも一軒家貸切。

「これで1泊1000円とか安過ぎじゃない?」

「ほんまに。もう帰りたくないもん。」

 重たいバックパックを下ろし、汗で背中にくっついた上の服ををパタパタ。

「もう海行く?どうする?」

「今から行くか!」

「こんなけ暑かったら相当気持ちいいやろうな。」

 海岸まで続く細い砂利道を歩くこと5分。段々と増えていくヤシの木、地に沈んでいくサンダル。小さな波の音が聞こえて来ました。

「うーわ、めっちゃ綺麗!」「これはすごいわ。」

 先頭を行っていたY氏やM氏が声を上げました。一気に開けた景色。誰もいない真っ白な砂浜。その奥に広がる淡い青色。まさに楽園たる姿。貴重品入れの鞄を放り出し、上着を脱いで海へと走る7人。

「「「最高ー!!!」」」

 透き通った海に浮かび、晴天を見つめました。神経を尖らせてきたアフリカ大陸。精神の揺らぎと危機管理。とめどなく訪れる未知の判断のおかげで、これほど無防備になることはありませんでした。何も考えず目を閉じて、大自然に心が癒されていく瞬間を感じていました。

「来て良かったです。」

「なんか久しぶりに解放されてるなぁ。」

 沖に漂う木の塊まで泳ぎ、そこに座ってボーッする私たち。

 とは言っても男7人だけのビーチ。ゆっくり休むだけのはずもなく、ビーチフラッグが開始され、砂浜を走ったり、沖まで泳いで競争したり、海に飛び込んだりと、少年の時間を過ごしました。

 気が付けば、海に吸い込まれていく夕陽。ただそれを眺め、砂浜に寝転がる私たち。

「久しぶりのこの感じやな。」

「疲れ方が違うな。」

 しばらくしてその場を離れた私たちは、行きの倍以上の時間をかけて、宿に戻りました。

「どこ行きます?」

「せっかくだし、ザンジバルピザ食べたいよね。」

「場所分からんし、とりあえず歩いてみるか。」

 ということで、日が暮れたザンジバルの街へ繰り出した私たち。ビールとおつまみ的なものが置いてある店はちらほら見かけましたが、地図上にあるはずのレストランは人がいなかったり、電気が消えていたりしました。

「閉まるの早いんですかね?なんとなく、島ですし。」

「まだ7時前やで?」

「いやー、さすがに観光地だからまだ空いてると思うけど。」

 1本道をぶらぶら歩いていると、脇道から大勢のサッカー少年たちが現れました。車道でパスを回しながら、楽しげに道を行く彼ら。揃いのユニホームから察するに、しっかりしたチームであることが分かりました。

「どこかまだ開いてるレストランある?」

「もちろん!後10分ぐらい歩けば、色々あると思うよ。」

 一緒にボールを蹴りながら、少年たちと話す私たち。

「サッカー選手は誰が好き?」

「ヤヤトゥレ!」

 渋い。まさかの足元系。勝手にドログバ一択だと思っていたことを反省しました。ザンジバルでもサッカーは有名らしく、この辺りにもいくつかサッカーチームがあるとのこと。元気な少年ということもありましたが、やはりボールがあるかないかでは、会話の空気に大きな差がありました。基本的には会話の目的さえ達成すれば、長々と現地人と接触する機会は滅多にありません。しかし、第3者的役割をしてくれるボールのおかげで、道を尋ねるという目的の他にも、現地人とコミュニケーションを取ることができたのでした。

「(サッカーやってきて良かったなぁ。)」

 お互いの国のサッカー事情を話し、そのままボールを蹴りながら歩きました。

「あそこでご飯食べられると思うよ。」

 少年たちが指差した方向には、光量の少ない電灯の下で、食事をしている人たちが見えました。

「ありがとう。サッカー楽しんで!」

 到着した半屋台レストラン前の看板には、ザンジバルピザの文字。

「1枚200円やったら、そんな高くないやろ。」

「ここにしようか。」

 薄暗い席に座り、人数分のザンジバルピザを注文。待ち時間に1人の外国人が声をかけてきました。私たちが日本人と分かった途端、ものすごい速度で話し始めました。どうやら日本のアニメが好きすぎるらしく、その愛を熱く語っていました。メジャーどころではない作品について問われた私たちでしたが、誰も知らず反応できずにいると、「本当に日本人か?」と疑われる始末。その後も彼は、聞いているアニメソングやコスプレ写真などを私たちに披露してきました。世界に轟く日本アニメの偉大さを感じたのでした。

「(サッカーも良いけど、次はアニメとか漫画見てから来ようかな。)」

 目の前に並んだザンジバルピザ。それは私たちが想像するピザとは異なりました。生地の厚さや色味は、ほぼお好み焼き。それにケチャップのようなソースをかけるので、完全にお好み焼き。

「これ大阪で何回も見てるわ。」

「日本料理やん。」

 小麦と卵で練り込まれた生地に、混ぜられた肉や野菜。想像した味とピッタリ一致する美味しさ。久しぶりの日本ぽい料理に嬉しくなり、全員もう1枚追加して、ペロリと完食。

「治安も良いし、自然多いし、なんか安心感ありますね。」

「お好み焼き食べたしな。」

「ほんとに。全然、気張ってないもんね。」

 月の明かりを頼りに真っ直ぐな道を引き返した私たちは、途中でビールを購入し、KANE HOUSEに戻りました。当然のようにお酒は進み、私たちは時間を忘れ、今だけを過ごしていました。

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